9話:身近な応募者と、身の危険。
久しぶりの登校日という事で朝から家を出ようとすると、カミのヤツに捉まって危なく遅刻しそうになるというトラブルがあった。
連休中だから今日だけだっていうのにカミは朝っぱらから遊びたがるし、昨日だって夜遅くまでず~っと一緒に遊んでいたというのに、物凄く元気だった。
父さんは付きっきりで、僕等のプレイを録画しては編集の繰り返しで、楽しそうに悩みながら勉強中だと遊んでいた。それを逐一ハル社長に送って色々と聞いて回っていた。
母さんはというと、僕とミカが採用という事でず~っと部屋に籠って何やら忙しそうにしていた。夜食分と、朝食はどうせ食べないだろうから、お昼ご飯だけ作り置きして、後は父さんに任せてきた。
「ほうほう、此処が学び舎か。随分と大きな建物であるな」
「勝手について来ても、学園には入れないと思うけど」
「安心せい、別に強行突破なぞせぬ。元より学業には興味自体ないからのう。そういうのは勉強好きなヤツに任せておけばよいのじゃ」
「お前はジッとしてるの苦手だもんな」
ゲームをやっている時は大人しく座っているというのにな。
それも僕より長時間も椅子に座りながら、永遠とゲームを遊んでいたのには驚いた。しかも、それで集中力が途切れることなく、常に一定の練度で淡々とステージをクリアーしていくのだから、アレには脱帽だったな。
「これで何かあった時、すぐに紬を迎えに来れるじゃろう」
もうカミは「何時でも主に会いに来れる」と言わんばかりの笑顔を向けてくる。
「やめろ、お前のその笑顔を見ると嫌な予感しかしない」
「なんじゃ、いけずじゃのう」
「じゃあ僕はもう行くから、大人しく家に帰ってろよ」
「ふふ、言われなくとも紬の家で良い子にして待っておるぞ」
自然と家にって言っちゃったけど、この短期間で随分と僕も絆されたな。
家で待つと言われて自然と受け容れちゃってるし、それを別に嫌とも思わなくなっている事に今更ながら気付いた。
もう母さん達も居候感覚で、娘が出来たみたいと喜んでいた。
上履きに履き替えて、教室までさっさと移動する。
久しぶりの友達に会うと思うと、少しだけテンションも上がるというものだ。
ドアを開けると、もう殆どの生徒が揃っていた。
「おはよう」
「あぁ、久しぶりだな」
そんな挨拶を交わしながら、自分の席に座って一息つく。
僕の席は窓側の一番前の席。本当はクジで一番後ろだったのだけれど、身長の高い人達が軒並み窓際に寄ってしまって、見えなくなったので仕方なしに前へと変わってもらった。
「珍しく、ギリギリだったね」
「まぁちょっとね。朝出る時にごたごたしてたから」
僕の席の隣には、左目が長い髪で隠れている、大人しい感じの小さな女の子が居る。
長い髪のせいでもっさりとした印象が強いが、ちゃんと見ると凄く可愛い子なのだ。しっかりと整えてあげれば、人形みたいに可愛らしくなるのは間違いない。
「ふ~ん……そう。夜更かしとかは止めた方が良いよ。せっかくの綺麗な顔が台無しになっちゃうから。それにしても……なんか、良い匂いがツムぎんからするのは、気のせい?」
「そうかな、別に何も変わらないと思うよ。更紗ちゃんの気のせいじゃないかな」
更紗(さらさ)ちゃんが顔を近付けて、スンスンと鼻を近付けて匂いを嗅いでくる。
「……なんだろう、不思議な感じ。ツムぎんが女の子になったら、しそうな匂い」
一瞬だが全身に緊張が走ってしまった。彼女も悩んでいる様子だったから気付かれる事がなかったけれど、何時もの人を観察する癖がそのまま僕に向けられていたら、目敏く気付かれていたのかもしれない。
「もう、変な事を言わないでよね」
「そう? ……そう、だよね。でも、ツムぎんが女の子だったら、理想的なのに」
彼女の瞳が、鷹の様な獲物を狙う目に見えてきて、背筋に冷たい感覚が広がっていく。
この子は、あんまりお喋りが得意ではない……と、本人は言っているけれど、実際には喋る気がないだけで、気に入った人には普通にお喋りな子だった。
ただし、それは基本的に彼女のお眼鏡に叶った女の子達だけ。
何故か知らないけれど、数少ない男性の喋り相手の一人は僕である。
それがどういうことかは、もう考えない様にしている。
「それよりも、樹一先輩は? やっぱりまだ学園には来ないのかな」
何とか話を変えようと、後ろに座る男友達に声を掛ける。
「さぁ、ただ雷刀先輩に聞いた感じだと新学期には登校してくるみたいな事をいってたぜ。それよりもよ、もしかしたら新学期に転校生が来るかもって話があるの、知ってるか?多分、中等部か初等部じゃあねぇかって話なんだがよ。随分と可愛らしい子がな、この辺りに引っ越して来たって話題が上がってた」
「それは、有益な情報ね」
更紗ちゃんが興味深そうにして、話しを聞いていた。
「西願寺さんに喜ばれたなら、良かった」
「小さい子に手出しするんじゃないわよ。コレだから男って嫌なのよね。まぁ、その点で言えば、紬は他の男共と違って、磨けば可愛らしくなるから私は大好きなんだけどね」
そう言いながら、少し偉そうに更紗ちゃんの後ろの席に、ドカッと座る女の子。
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