8話:強制面接開始は、恥じらいと共に④
カミのヤツがポロっと漏らした情報に喜んでいると、それをあたかも分かっていたかのような表情で見てくる。まるで罠に掛かったネズミを見てほくそ笑んでいる猫の様だった。
「女の子になっている時の紬ちゃんの写真ってあるのかしら?」
そんなモノはある訳が――、
「あるわよ~。いま画像を貼るから待ってちょうだいね」
何時の間にそんな写真を撮ってたんだ。
母さんが手元の携帯端末を弄って、何やら画像を数枚選んで送信しているようだ。
そのついでとばかりに、何故か父さんが大型のスクリーンにパソコンの画像を反映させて皆に見やすい様にと、セッティングしだす。
パッと出て来たのは僕が無防備に寝ている時の姿や、お風呂上りで気を抜いている時に、眠くなってうとうとしている状態の僕だった。
少しだけ服が着崩れていて、女性用の下着なんかつけていないから、危なく色々と見えそうになるギリギリのラインを狙いすましたかのような、ベストショットだった。
「確かに胸があるわね……それに寝ている時の写真を見る限りじゃあ、付いてないって事も良く解るじゃない。というか、今の紬ちゃんを見ても男の子には見えないんだけど」
スーッと社長さんの視線が僕の下半身に向かっていく。
「男です、ちゃんと付いてますから!」
なんか無性に恥ずかしくなるような視線を感じて、思わず動かない足を何とか動かそうと、足をモジモジとすり動かして、視線から逃げるよう横に足を向ける。
「それでは逆に色っぽくなるだけであろうに、本当に男かと我かて疑いとうなるな」
何故か呆れられながら、カミのヤツにジト目で見られる。
「何と言うか、そそる子よね……本当に」
「ちょっと、家の紬ちゃんを捕食しそうな目で見るのは止めてちょうだいよ。気持ちは凄く良く解るけど、貴方が襲ったら犯罪よ。頑張って理性を保ちなさい」
なんでこういう時に母さんを頼もしく思わねばならないのか、元はと言えば母さんが僕の写真を見せびらかすから、こういう事態になってるっていうのにね。
椅子に縛られて動けないのも、女装を……ん? あれ~?
何時の間にか全身が映ってないかな、コレって全身が出ちゃってるよね。
「あ、わりぃ~。スクリーンに反映する時に縮尺とか弄ってたら、全身が映る感じになっちまってたな。いや~、失敗しっぱい」
ワザとらしく自分で自分の頭を叩きながら、悪戯というよりも、仕返し成功と言わんばかりに、悪い笑みを浮かべて茶目っ気たっぷりに、謝ってくる。
「父さん⁉ 何やってんのさ⁉」
「いやなに、明日から日々の楽しみが減るのが悲しくってな。集中力が欠如していた」
絶対に仕返しの為に、自ら失敗をしやがったぞ、この父親は。
「それで、何故に紬の性別が変えられる事をきいたんじゃ? 何かあるのだろう」
「もちろんよ、どうせならそのままでちょっとした事を取り入れた方が良いでしょう。カミちゃんにも良い案だと思うわよ」
「それは、僕にとっては悪夢みたいな事じゃないですよね」
今の雰囲気で話を進められて、ノリと勢いで下手な事を約束されては困るのだ。
カミの事だけでも、これから先で苦労しそうだというのにな。
余計な不安要素なんてこれ以上は増やしたくない。
「あら、でも貴方にとっても良い案の筈よ。上手くいかずに見てくれる人が小人数では、カミちゃんの条件を満たすまでにいったい何年かかるのかしらね」
確かに、何年も掛けていたらカミの思う壺で、父さんや母さんにも好き勝手に弄ばれそうではあるな。だからと言って、この人の口車に乗ってしまうのは得策じゃあない気がする。
「紬ちゃんがただ頑張れば、すぐに呪いは解けるのでしょう?」
「まぁそうだじゃな。我の神社がしっかりと建てば神界にも帰れるようになるし、それだけ有名になるのであれば、神力も上がっておろうからな」
二人がニヤニヤとした顔を僕に向けてる。
「はぁ~、わかりましたよ。ただし、僕が無理だと思う事は絶対にしませんからね」
「あら大丈夫よ。だって今の状況だってそれなに慣れてるんでしょう。本当の貴方が全国テレビに出て顔を売ろうって訳じゃあ無いんだからね」
そう言われると、確かにそこまでのデメリットではないのかもしれない。
「それで、ハル社長はどういう事を考えておるのだ?」
「視聴者に性別を委ねて見ない? 紬ちゃんが頑張って男だって思わせられれば、男の状態を維持、逆に女の子みたいな仕草をし過ぎて、視聴者が女性だっていう人が増えれば、性別は女性にって感じでやってみるのはどうかしら。絶対に話題性はあると思うのよ」
「なるほどね、それなら確かに視聴者も楽しめるし、人を引き付けやすいわね。という事は、私は男バージョンと女の子バージョンのガワを描けば良いって事ね」
「そういうこと、ちょっと大変だとは思うけど、出来るかしら」
「問題ないわよ。むしろ描かせて欲しいくらいだから安心して」
どんどん二人で話が盛り上がっていっている。
「あの~、所で僕はもう合格みたいな話になってるけど、良いのでしょうかね」
「良いも何も、貴方とカミちゃんを落とす方が難しいのだけど?」
何を言ってるのかと、不思議そうな声と真顔で言われてしまった。
「これから、楽しそうだのう」
「僕は不安でいっぱいだよ。あぁ~憂鬱だ」
「頑張れよ、俺はどっちになっても良い。娘だろうと男だろうと。俺の子だ」
少しだけ父さんを見直したよ。
「アイドルとして売れてくれれば、どっちだろうと関係ないし。紬の性別は紬だからな」
最後の一言がなければ、明日もデザートを作ってあげようかと思ったよ。
「がっかりだよ、父さん」
「何故だ⁉」
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