7話:強制面接開始は、恥じらいと共に③




『コホン、ごめんなさいね。少しだけ取り乱しちゃって。まさか、この二人から貴方みたいに可愛らしい子が生まれるなんて、思わなかったモノですから』


 全然少しだけってレベルじゃない崩れようだけど、そこは言わないでおこう。

 ただ社長さんがポロっと漏らした言葉に、なんとも申し訳ない気持ちになる。


「色々と申し訳ございません。家の両親がご迷惑をおかけしてますね」


『いいえ、良いのよ。ねぇ、興味本位で聞いちゃうんだけど、もしかして家事全般って貴方がやっているのかしら? この二人はお世辞にも、その……ねぇ』


 どうにか言葉を探そうとして、何にも見つからなかったようだ。


「え~っと、ノーコメントという事でお願いします」


 正直に話しても、ただただ我が家の恥を晒すだけになりそうだ。


「誇らしく告げれば良いんだぞ。何時も春姉には自慢していたんだぜ。紬の作る料理は絶品だってな。常に部屋は綺麗に保たれ、3時のデザートだって付いてくると」


 僕がせっかく口を噤んだというのに、この父親は普段から何てことを言ってるんだ。

 思わず眉や口が引き攣ってしまう。


「父さん、一週間のおやつは禁止ね」

「なっ! なぜだ⁉」

「じゃあその分はお母さんに頂戴」

「……太るよ?」


 この言葉を言えば、普通の女性であれば引っ込むと思うだろうが全く効かないんだよね。


「ふふん、知ってるでしょう。私って太りにくい体質なのよ。それに元々、運動だって好きなんだから太る訳がないわね」


「本当に憎たらしいわよね、その体。寄こしなさいよ、色々と盛り過ぎなの!」


 母さんは小柄な体格の癖に大食ぐらいで、甘いモノも大好物で沢山食べるのにスリムで栄養は胸にいっているらしく、かなり大きめだ。


 身長は父さんの遺伝か、別に小さくないのは救いだろうな。


 その代わり、妙な女の子達がお姉様とか言って慕ってくる事があるけど、アレはいったい何なんだろう。過去に文化祭で女装コンテストなるモノに強制さんかさせられた時に、物凄く綺麗な先輩達と上位三位の激闘を繰り広げたくらいだったのにな。


 過去の事を思い出しているうちに、社長さんと母さんの良い争いが何時の間にか終わっていたので、脱線していた話がようやく戻る様だ。


「はぁはぁ、本当にごめんなさい。初対面の貴方にこんな醜態を見せるつもりはなかったのだけれどね。どうしても、この二人と居ると昔馴染みの癖が抜けないのよね」


「いいえ、良いんですよ。僕としては非常に嬉しく思います。長い付き合いという事は、プライベートで如何にだらしない生活をしているかを知ってくれている人が居るって事ですもんね。この両親は周りの猫皮が分厚くって、周りに住んでいる人達の評価が何故か高くってですね。誰一人として、家事が壊滅的な人達だって信じてくれないんです」


 長年の誰にも理解されなかった気持ちを理解してくれる人が居た事で、僕はかなり救われた思いになれるんだ。


「大変だったわね。良ければ家に来てちょうだい。労って上げるから」

「ダメよ、コレも私達と同族よ」

「え? ……うそ」

「嘘ヨ、騙されちゃダメよ」


 なんか少しだけ、どもった感じがあったな。ある意味では母さん達に似た人種の人だったか、類は友を呼ぶってヤツだな……きっと。


「なんというか、此処には面白い者達が集まるのう」

「お前もだろうが、他人事みたいに言うなよ」


 むしろ、筆頭に立てるんじゃないのかね。

 遊びの神様って言ってるくらいだから、私生活はズタボロなんじゃないだろうか。




 その後は当たり障りのない普通の面接っぽい感じの内容だった。


「ふ~、なるほどね。……にしても、面白い事になってるのね。キャラを作るにあたってもそこから、そのままの設定で作っちゃって良さそうね」


 社長という事と、事前に話してい分かった、両親による苦労を分かち合える間柄だったから、大まかに僕自身に起こっている現状を話してしまった。


「あの、キャラって?」


「ふふ、色々と入用になるのでしょう。貴方の年齢で理解ある仕事先。その上、時間の融通もつけやすく、試験日なんかは事前に言ってくれればちゃ~んとお休みだって取れるのよ。配信は定期的にして貰わないとダメだけど。そこに居る両親に頼めば、動画を準備しておくことだって出来るでしょう」


 ズカズカと魅力的な提案やら、好条件を突き付けられてしまっては、物凄く断わり辛い。それに、言われた通り、かなりの好条件なのは確かだ。


 カミの事もあるし、遊ばないという事をしたら。絶対に僕の事を下僕みたいにして、ずっと遊び相手として弄ばれる未来しか見えない。


 しかも、その遊びは主に僕を辱める事に費やしそうで恐ろしい。


「良いわよね。是非とも一緒に盛り上げましょうよ。絶対に損はさせない事は誓うわよ」

「うぅ~、はい。よろしくお願いします」

「えぇ頑張りましょうね」


 僕が恥ずかしがりながら頷くと、物凄く満足した表彰で微笑んでいる。


「ところで、カミちゃんに聞きたいのだけど、紬ちゃんの性別ってある程度は弄れるの?」

「うむ、出来るぞ。ただ、紬のヤツが我の願いを少しでも満足させられてしまうと、呪いの効果自体は弱まって、対抗されてしまうがのう」



 それは、良い事を聞いた。




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