6話:強制面接開始は、恥じらいと共に②
意味深な視線を母さん達から向けられて、僕は全力で首を横に振る。
「もう~、何を恥ずかしがってるのよ。良いじゃない、家系の足しになるし、楽しく色々な人達を遊びながら配信をしてくれるだけで良いのよ」
何を詐欺師みたいな事を言ってるんだか。
僕の活動でやるんだから、少なくとも編集する箇所や、僕がどういう感じで見せたいかっていうのは、結局のところ自分で作るしかなくなるんだ。
大まかな編集やサムネイル画像なんかは、イメージを伝えるだけで母さん達が作ってくれそうではあるけどね。
絶対に引っ掛かるものかと、何も言わずに首だけ横に振る。
この攻防は、先ず僕が声を出した時点で敗北が決定するのだ。意地でも声はださん。
==ただ、この戦いは初めから負け戦だったのだ。
ニヤついた笑みを僕に向けてきているのかと思っていたが、この戦いは電話が掛かってきた時に、僕が逃げ出さなかった事で負けていた。
「ほう、もっと色々な人達と遊べるのか」
初手のターゲットは僕ではなく、簡単に仲間に引き込めるカミだった。
外堀は既に深く掘られて、水も張った状態の鳥籠に入れられた気分だよ。
カミが心惹かれる玩具を見つけた子供の様に、キラッキラの笑顔を向けて母さん達の方に引き付けられていっている。
「おいこら、昨日のゲームで協力した絆は何処に行ったんだよ」
なんとか母さん達の方に行かせない様にと、小声で引き留める。
「それはゲームを止めた時点で切れてもうたのう」
足取り軽くスキップ交じりに母さんの方へと行ってしまう。
これで、僕一人。
孤軍奮闘して挑まねば、ここから先の未来は、両親に弄られる日々が始まってしまう。
「ちょっとどうしたのよ? 流石に乗り気じゃない子を無理やりにって可哀想な事は出来ないわよ。こっちだって長く続けてくれる子じゃないと」
「大丈夫よ。家の子って恥ずかしがりやでね」
「そうそう、それにキミも会ってしまえば、この逸材を逃すのは躊躇う筈だぜ」
「なんというか、弄りたくなる要素がモリモリな子ね……すぐ近くに居るのよね?」
「あぁいるぞ。恥ずかしがって出てこないがな」
ニヤニヤと僕の方をワザとらしく見つめてくる。
土俵である戦いの場は父さん達のテリトリー内で、僕にはサッパリ分からない場所に引き込まれてしまいそうな恐怖が、無情にも襲い掛かって来てるんですけどね。
母さんがゆっくりと近付いてきた。
「ねぇ紬ちゃん。良い事を選ばせて上げる」
耳元で囁く様に残酷な選択肢を選ばせてくる。
手ごろな大きさのクリップボードに①と②に、文字が書かれている。
あたかも最初から用意してあったみたいな準備の良さだった。
① このままで声を聴かせてくれる。(ただし、下手な事を言うと姿を晒す)
② だんまりを続ける。その場合は問答無用で姿を晒す。
「こんなのあって無い様な選択じゃないか」
「選ばせて上げてるじゃない。その格好を初めての相手に見せるか。見せないで事なきを得るのかっていう、良心的な選択でしょう」
何時から、この両親共は悪魔に魂を売ったんだろうな。
「あの、初めまして……その、お母さん達が何時もお世話になっております」
「可愛らしい声ね、本当に男の子なのかしら?」
「男ですよ。そう言われるのは、もう慣れましたけどね」
「ふふ、ごめんなさいね。不愉快にさせちゃったかしら」
「いえ、別に」
言われ慣れてしまったとは言っても、気持ちにはダイレクトに来るからね。
「姿は見せてくれないのかしら?」
「え、今はちょっと、その恥ずかしいで」
「顔だけでも良いのよ、少しだけ見せてくれないかしら」
顔だけか、それなら特に問題は無い気がするな。
チラッとだけ父さんの方を見ると、小さく頷いてくれる。
「なんじゃ、今の格好も可愛くて我は好きなのだがのう」
「可愛い? それはいったい――」
「カミっ! 余計な事を言わないで! なんでも無いんですよ。気にしないでください」
「ちょ~っとね。流石に今の恰好を見たら、貴方だったら絶対に襲いそうで怖いわね」
「なになに、どういう格好をしてるかすっごい気になるんだけど」
母さんがワザと社長さんを煽るように言ったせいで、すっごい興味を持たれちゃったんだけど。あのしたり顔は絶対に狙って言ったな。
「父さん、顔だけ。絶対に顔だけ映してよ。今の恰好は流石に恥ずかし過ぎるから」
「しょうがないな。とりあえず顔だけだな、こんな感じでどうだ?」
もう一つの小さなモニターで僕がどう映るのかを見せてくれる。
「それくらいなら、別に良いか――あれ? ちょっとまっ――」
「さぁ言質は取ったから、ちゃっちゃと映しちゃって」
きっと椅子に縛り付ける時に、どさくさ紛れに髪とか顔を弄られたのか。なんかちょっとだけ可愛らしい感じの髪形にされている。
「ふふ、甘く見たわね」
映し出された僕の顔をみて、社長さんの表情がだらしない方へと崩れていった。
「あの、その……これは、母さんが無理やり、ですね。決して僕の趣味とかじゃあないですから、そこの所は覚えて置いてくださいよ」
いまの社長さんに、僕の言葉が聞こえているかは不明だが、必死に言い訳をする。
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