5話:強制面接開始は、恥じらいと共に




 電話の相手を見て、父さんと母さんが何故かお互いに頷きながら、テキパキと準備を始めだす。ノートパソコンを持ってきて、カメラやマイクなんかもセッティングしていく。


「仕事の話? なら話は後でだっ――」


 流石に僕やカミが、この場に残っているのは邪魔になると思って移動をしようとするが、何故かがっしりと母さんが僕の手を掴んで、無理やりに椅子へと座らせられた。


「ほう、何やら面白そうな予感がしてきおったな」


 カミは現状の慌ただしさに、ワクワクしている様子だ。


「助けろよ! ちょっと母さん。いったいどういうつもり⁉」


 逃げようと思って暴れたのに、普通に力負けして椅子に括り付けられてしまった。


 ご丁寧にカメラには映らない場所で縛りつけられているので、下手に身動きすると椅子ごと倒れてしまいそうで怖い。


 ズボンとベルトは背もたれ部分に結ばれ、両足も椅子足にがっちり固定されている。


「カミちゃん、良いって言うまで紬を喋らせない様にしといてくれる」

「ふむ、お安い御用じゃ」


 二人して、物凄く悪い顔をして僕を横目に見てくる。


「悪代官かよ、いいふむぅ~、ムゥ~~~~ッ」


 こっちの声が聞こえないような、絶妙な距離感にマイクを置いている。


「よし、これならノイズキャンセルで聞こえないな」

「むぉほうう、むぉうぃか~~」

「何を言うておるかわからんのう。大人しく諦めい」


 僕を手玉に取っている様で楽しいのか、母さんと悪戯している感覚が好きなのかは知らないけど、この二人に組まれると、僕は何にも出来なくなる。


 すこし涙目になりながら、母さんとカミを睨んでやる。


「はいはい、静かにしてな。それじゃあ出るぞ」


 なんで僕が諭される様に言われなきゃならないんだよ、こんなの理不尽だ。


「むぅ~」


 不満だという意思表示をするが、父さんは少しだけ困った笑みでシーっと人差し指を立てたジャスチャーしてくる。


 顔だけを背けて、知らんぷりしてやる。


「紬よ、それはただ単に可愛い仕草というものであるぞ。不覚にも我は心がつままれた感じがしたぞ。ほんに男にしておくのは勿体ないのう」


 なんかカミは僕の全身を隈なく見る様な目の動きで、下から上へと舐める様に見てくる。


「もしもし、ハル社長? どうしたんですか急に?」


 父さんがノートパソコンの画面を見ながら手を振って挨拶している。

 母さんに電話を掛けているのに、なんで父さんが対応してるんだよ。


『やぁ明星旦那、キミから送られてきたデータを見たのだが……あの子達はキミの推薦という扱いで送って来たのかい? それとも、ただ自慢する為に送って来たのかい?』


 少しだけアスキーな声質だけど、どうやら女の人っぽい。


「自慢ですかね。可愛いでしょう~。自慢の子供でしてね」


 今の父さんは、傍から見れば花を長くしたピエロに見えるな。


 妙なテンションのせいで、普段のウザったさに磨きが掛かって、更にイラッとしてくる。今すぐに近付いて、あの伸びきった鼻をへし折ってやりたい衝動に駆られる。


『なるほど……それはそれは、タダの自慢にしてはかなりの作り込みじゃないかい? なんだい、独身の私に対する挑戦かな? 喜んでその喧嘩を買うよ。ちなみに今はバーチャルライバーの募集期間と被っていてね、この子達を採用しちゃっても問題は無いんだね』


 あぁ絶対にイライラしてるよ。


 けど、なんか知らないけど平静を装って話していそうだ。


 勝手な想像でしかないが、この人の話し方は机で手を組んで口元を隠す様にして、表情を変えずに喋っているイメージが強いのは何故だろう。


「えぇ構いませんよ。何なら、今から話してみますか? 近くに居るんで」


『……やっぱり確信犯だよね。どうせ近くに杏ちゃんも居るのだろう。出しなさいよ今すぐに、なによこの子達。教えて貰ってないよ! こんな子供が居るなんてさ⁉』


 あ、ついに我慢が出来なくなったのか、最初の雰囲気から一気に崩した話し方に変わる。


「だって~、教えてないし。言ったら絶対に会いに来るじゃない。ダメよ、私達の子供を青田買いなんてさせる訳がないでしょう」


『ズルいわよ⁉ ……って、え? この子って男の子なの⁉ えっ! どっちが? 両方とも女の子みたいな声よね』


 スイマセンが社長さん。その会話は全て僕にも聞こえてるんです。無駄に傷ついている人が此処に居るんですから、せめて言葉は選んで喋ってください。


「幼さのある暴走気味な子は女の子よ」


『じゃあなに、こっちの振り回されてる子の方だっていうの⁉だって声の質的には中学生くらいじゃない』


 また僕の傷口に塩を塗りたくる。


 なに、この変な拷問は⁉ 精神的な負荷が大きすぎませんかね。


 泣くぞ、終いには。


 僕が心の叫びをあげていると、優しく肩を叩かれる。


「残念ながら、アレが現実じゃぞ。よく見てみぃ。お主は昨日の服装のままで朝に着替えるのを忘れておるようじゃからな」


 そう言われて、改めて僕は自分の服に視線を落としていく。

 ひらひっらで真っ白なレースのワンピースを着ているのだ。

 スカートから見えるのは、自分の色白な素足だった。




 不味いじゃないか、このままもしカメラを此方に向けられてしまったら、女装している姿を見られてしまう事になる。






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