3話:両親の罠と裏切り、羞恥の時間。



 ゲームで一人の武将をクリアーするまで散々遊び尽くし、カミが疲れて眠たくなったのか、そのまま僕の膝を枕にして寝てしまったのでお開きになった。


 翌朝には、しっかりと僕の相棒が戻って来てくれて、一安心した。

 ちょっと涙ぐんだが、すぐ隣でカミが寝ているのを見て、昨日起きた事が現実なのだと突き付けられた気がした。


 カミは寝ている間、ず~っと僕から離れる事はなくギュッと服を握られていた。

 離れようとすると、逃がさないとばかりに腕や足に抱き着かれて動けなくなるのだ。





 ==そう、朝起きて……朝ご飯を食べ終えるまでは、まだ普通の日常だった。


 ここからだ、父さんが重そうな瞼を擦りながら起きてきて、衝撃的な一言を告げるまでは、気持ちの良い朝だったんだ。


 そこからどん底に叩き落とされるなんて、誰が想像できるだろうか。





 父さんは大きな欠伸をして、席に着くと寝ぼけた感じで僕を見て来た。

「おう、昨日のプレイ動画の編集が終わったぞ。コレで応募が出来るな……まぁ、ほぼ確実にお前は通るし、残るだろうがな」


「は? 何言ってるの父さん?」

「こら、それは最終選考まで秘密って言ったじゃない」


「あ~、あの様子なら社長が普通に取るだろう。どの道、紬には頑張ってもらわねぇとダメなんだし、今から言ってて変わらねぇべ」


 なんの話をしているんだろう。


 どういう事かと、母さんの方をみるとばつが悪そうに視線を逸らされてしまった。


「その~ね。ちょ~っと事業を起こすのと、場所の確保に大金を使っちゃってね~、稼がないとダメなのよ。だから、この際だし、紬ちゃんに手伝って貰おうって事になったの」


「何が「なったの♪」だよ⁉ どういうことだよ父さん⁉」


「ふっ、俺の夢はな、アイドルを育てる事だったんだ! それが自分の子供なら更に良しという事で、期待していたんだが……お前に内緒でアイドル事務所に送ったモノは、全て落ちてなぁ~、誰もが、女の子なら絶対に取るんですけどって言われるんだぜ」


「知らないよ⁉ なに僕の見てない所で勝手な事をしてるのさ⁉ しかも、関係ない所で僕の傷口を広げて抉らないでくれる⁉」


 なんて人達だよ。


 偶に、父さんが僕の写真を撮りまくっていたのは、その応募するためだったのかよ。


 酷くないか、この両親共。


「大丈夫よ、今回のは紬ちゃんがそのままで世に出る訳じゃあないから、男らしさとかは関係ないのよ。むしろ、色々な人達に喜ばれると思うわ」


「母さん⁉ 正気に戻ってよ」


 いや、この母親も父さんと同類の人だった。

 長年の親子関係に裏切られた気持ちなんだけど、この気持ちをどうしてくれるんだ。


「まぁまぁ、見てくれよ、俺の作品をさ」

「見たくない、絶対に見たくないから⁉ イヤな予感しかしないもん」


 涙ぐむ僕に、父さんと母さんがアニメの悪役みたいに迫って来る。

 しかも無駄に手をワキワキさせて、気持ち悪い息遣いをしながら。




 僕は今現在、羞恥心により……死にそうな程に恥ずかしくって、目の前にあるモニターを全力でたたき割りたい衝動に駆られているのだが、母さんに羽交い絞めにされていて、手も足も出せない状態にされている。


「消せ~、今すぐそんなモノは抹消してしまえ⁉」

「あらダメよ。せっかく劉ちゃんが編集して見せてくれてるんだから」

「見せないで良いんだよ!」


「なんというか、自分の声をこうして聴くというのは不思議な感覚だぞ。確かにちょっと恥ずかしく思う所もあるが、楽しいではないか」


「楽しむな⁉ こっちは聞き覚えのない声の上に、お前のせいでっ――」


 そう、テスト録画とか言ってたけれど、僕等の声も含めて編集までした動画には、ただゲームを楽しんでいるカミと、そのプレイに翻弄されて叫び声やら、ちょっと恥ずかしいセリフ読み何かがそのまま録音されてしまっている。




『ふふふ、我に敵う猛者は居らんのか!』


『そりゃあ居ないからね、まだ雑兵ばっかりだから……お願いだから突っ込まないで! 僕の事も考えてよ~。わわぁ、ダメダメっ、こっちに来ないでよ、多いから、止めてね! 向こう言ってよ、カミ! 助けてよ~~』


『根性が足りぬのう』


『能力差があるんだからね。そもそも僕のキャラは補佐的な能力が高いのに、カミが勝手に敵陣のド真ん中に居るから、自然とそこに巻き込まれるの⁉ いっぱい囲まれてるんだよ! 少しでも失敗したらボロボロにされるんだから、殆どキャラを使ってないから初期値なの僕は! ひぃ! ヤダやだ、こっちに集まって来るんだけど、来ちゃダメ、向こう行けよ! 来るなぁ~⁉』




「こうして聴くとのう……紬はもう少し恥じらいを覚えた方が良くないかのう」

「誰のせいでこういう悲鳴を上げてると思ってるのさ⁉」

「可愛いから良いんじゃないかしら?」

「可愛くなりたくないの! 男らしく対応したいんだよ!」

「けどなぁ、普段のお前もそう変わらないぞ。悲しいことになぁ」


「父さん、今度からお菓子は無しね! 絶対に作って上げないから。おやつも禁止! プリンだって作ってあげないから、そのつもりでね」


「なにっ! それは酷くないか⁉ アレが無くなったら日々の楽しみが無くなるだろう⁉」


「僕が作ってるの、買ってくるよりも作った方が安くなるからだって言ってるでしょう⁉」


 節約して、家事の負担を減らしてきた僕の努力を返して欲しいよ全く。



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