#19

左後方座席の窓側にドカりと座る。

足は伸ばせないほど狭い。

荷物はそんなにない。

どこかで買ったお茶のペットボトル一本だけだ。


ガダガダと大袈裟に揺れる。

乗用車より大型のバスの方が揺れは酷い。

窓ガラスにつけたこめかみに響く。

痛みは感じなかった。


風景が流れる。

街路樹、

人、

建物、

看板、

電信柱。

後ろへ流れる。


内に抱く仄暗い感情も、置き去りたかった。

徒歩では追いつかれるけれど、バスならあるいは置き去ることが出来るんじゃないか。

そう思った。


体重を掛けていた左肘が痺れていた。どれくらいの間、ぼぅっと眺めていたのだろうか。


お茶を一口飲む。

喉が渇いているかも不明瞭。

腑抜けている。

もぬけの殻。

間抜け。


見慣れた街並み。

見知った風景。


終着点。


結局、バスでも逃げ去ることは出来なかった。

お茶でも飲み下すことは出来なかった。


その感情を。




















――ナーバスバス

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る