第2話

カメラの秘密を知ってから数回フリーマーケットに出かけたが、カメラの出品者と思しき人物には出会えなかった。


あのカメラは一体なんなのだろう。


撮ったものはただの写真となって印刷された。特別変なものが写るわけでもなく、撮る時にだけあの不思議な現象が起こる。


心霊が絡むような“呪われたカメラ”ではなさそうだ。


私は緑のカメラを知るために、撮って撮って、撮りまくってその現象を確認していった。


まずは絶対条件。

フィルムの枚数分しか時は止められないこと。フィルム枚数が24枚なら24回、36枚なら36回時を止められる。


そして止まっている時間は1分。それを過ぎると時間は動き出す。


対象物は静物でも生き物でも条件は同じ。

静物は撮っても変化がないから気づかなかったのだと後から知った。実際撮ったぬいぐるみは触ると固くなっていた。


……とまぁこんな感じ。


律にはせっかくカメラに興味を持ってもらったから、怖い気持ちを引きずらせたくなかった。

道端の風景や空、おもちゃ等、撮っても影響なさそうなものを勧めた上で、自分が一緒にいる時に撮らせることにした。


私は秘密を知って考えた。

これを使って時を止めたとして、何か得するんだろうか。

1分で何が出来るのだろう。

1分は何かをするには短過ぎる。

……いや、なにもやましいことには使わないけど。


しかし、人は試してみたくなるもの。

条件を知ってからそれを利用して撮ったのは2回。


1回目は近所の犬に。


隣の家に回覧板ついでに実家からもらった野菜を届けた時だ。

隣人はルシーという名の大型犬を飼っている。

ルシーの小屋は玄関のすぐ横で、リードで常に繋がれてはいるものの、人が来るとすぐに察知し吠えてくる。そのため律も菜緒も怖がって隣の家に一緒に行けなくなってしまった。

カメラも持って玄関のところまで行く。早速察知したルシーが小屋が出て来た。

私は人が居ないのを確認し、素早くシャッターを切った。

ルシーは動かなくなった。

今のうちに!


「すみませーん」

急いでインターホンを押して声をかける。隣人はすぐに戸を開けて中に入れてくれた。

帰る時には吠えられてしまったが、その日はあまり気にならなかった。



次に試したのは旦那。


最近帰りが遅いことが多く、もしや……と思い、リビングで彼がスマホを手にしているところをバレないようにこっそり撮った。


急いでスマホの画面を確認する。

彼はその時LINEをしていたが、相手は男性。しかも彼の大学時代の友人で、私も何度も会ったことがある人だった。

『今度れいこさん達連れて家にきなよー(^^)』

送られてきたメッセージからも不倫じゃないのは明らかだ。


何度も写真を撮るのは実際のところタイミングが難しい。いずれは怪しまれてしまう。

そう思って、とりあえずそれ以上は撮らずにしておくことにした。


内心ホッとはしていたが、決して疑いが晴れた訳ではない。

翌々日、“仕事遅いから心配している、何かあったのか”と、遠回しに不倫を確認した。

しかし、彼の返答は仕事の話だった。

社内のPCのシステムを新しくしたらデータの半分が無くなってしまったそうだ。そのため、ここ数日は社員総出でデータ回収の処理に追われていたとのことだった。

仕方ないとはいえ、自分の業務以外で時間を割かなくてはいけないことに彼は大分苛立っており、結局その日は仕事の愚痴を1時間にも渡り聞くハメになった。



慎重に使っていたこともあってか、カメラを手に入れたことで予期せぬ不幸が来たりなどはなかった。


幸いにも自分の周りでやましいことや不幸なことはなく、平凡な日々を過ごしている。


しかし、カメラの能力が発揮出来そうな機会がないことに、どこか残念な気持ちも感じている自分がいた。



そんなある日のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る