第9話

「斉原さん...?」


屋上の縁に立っていた葉月の腕を引いた。


「......」


大粒の涙が、頬を伝っていた。

葉月は座り込んだ。俺を救い出してくれたあの顔が泣き崩れているのを見るのが嫌で、俺は彼女から顔を背けた。

俺はただ、彼女の背中を撫でてやることくらいしかできなかった。


落ち着くまでには、時間があるだろう。

俺も、突然のことに困惑している。少し、整理する必要があるようだ。


そもそも、なぜ彼女は、あの時屋上に来たんだ?俺が自殺を決意したあの日のことだ。

あの日は確か、平日だったはずだ。

葉月くらいの歳の子供は、みんな学校に行くんじゃないのか?それとも、偶然休みだっただけか?いや、それから何日も来ているんだ。学校側からそんなに休みを設けることはありえないだろう。

だとしたら、なにか別の理由があるのか?


さっき見た彼女の顔は、その歳にしてもう、この世の不幸の多くを経験してしまったような、そんな絶望にまみれた顔だった。

それに自殺を図るほどだ。彼女にも、想像しえないような辛いことがあったのだろう。

そうだとしたら、それが原因で、不登校になったか、もしくは、休まざるを得ない状況になってしまったか...

そう考えるのが妥当だろう。

あの時命を救われた身だ。

それに、俺は葉月のことを、何故だかはわからないが、どうもただの他人とは思えないんだ。


俺は...彼女の話を聞いてやる必要があるな。


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