第4話 おんなのこはおんなのこと、おとこのこはおとこのことやればいいのじゃ♡

 夜の村を、賊の匂いを頼りに歩いて行く。

 暗くて前は見えないけど〈基本スキル〉である〈目力〉、それのパッシブスキル〈猫の目〉のおかげで月明かりの下行動することが出来るのだ。でも基本スキルがLV1じゃスキルがあってもそんなに効果がある訳では無いけどね。


 それでも大まかに物の位置が分かるから避けて進み、賊Aが寝ている民家へ到着。久しぶりのベッドが快適なのか、いびきをかいて寝ているのが民家の外からでもわかる。音でけえ。

 密かに侵入し、賊の横に立つ。〈隠密術〉は暗殺に有効だなあ。


「幸せそうに寝てるねえ。でもごめんね、あなたの幸せはあたしの不幸せなの」


 ぼそっと呟いてからあたしのサブウェポンである魔工具の│翠乃沃土みどりのよくどを手に取る。そしてアサシンダガーに変化させる。

 この子は持ち手が12センチメートル程度なのだけれども、その倍くらいまでのサイズの工具や刃物などを作ることが出来るのだ。アサシンダガーはちょうど良い。


 よし、一呼吸し――一思いに心臓目掛けて突き立てる!


 グサリと刺さっていく刀身。逆手に持ったその手に感触が伝わってくる。人が死んでいくのが伝わってくる。

 ――きっと英雄の冒険譚なら、魔物はともかく人殺しをするのをためらう良心の呵責、なんてのが描写されるに違いない。

 しかし残念ながらここは現実でーす。人も魔物も等しく私を殺しにかかってきまーす。殺されそうになる身にとっては人も魔物も同じ存在でーす。つまり殺します。死ね。

 ――良心なんて12のころに泣きながら置いてきたの、そうなの。生きるためには殺す。こんなことなんて、そこら辺にころがっている石ころのよう当たり前だし、誰も気にかけないのだ!


 少しだけもがいた賊が動きを止める。


【暗殺キル! 獲得経験値35ポイント】


「おお、死んだ死んだ。久しぶりに頭に響いたなあ、この言葉」

『お前が鍛錬していなかっただけだろ』


 魔剣│花草水月かそうすいげつ、最大の特徴。

 それは、使い手とその仲間などが生物を殺めたりなにかを成し遂げると経験値が入ることだ。世界中どこを探しても経験値は存在しないのに、この魔剣には経験値がある。ふっしぎー!

 この経験値は花草水月固有のもので、柄の末端にはめ込まれているポンメルに蓄積される。ただ殴るための重りじゃなかったのだ、ポンメル君は。


『35か。体力に振っておこう、少しは上昇するだろう』


 この経験値を使用することにより魔剣が認めた所有者――つまり私――のステータスが、自身が持っているステータスとは別に追加で上昇する。すげぇ。もちろん仲間は仲間で経験値を持つことが出来るので、それを使えばステータスがあがる。すげぇすげぇ。

 このステータス、エクストラステータスとでも呼ぼうか。


「私が意見する場はないんですか、ないんですね」

『ない。あの時、入っていた膨大な経験値を全部運に振って賭博して全てスった前科は、永遠に消えないからな』


 経験値を振るごとにステータス上昇効率が悪くなる。だから、運に全振りしたおかげでエクストラステータスがほとんど上がらなくなり、全ての経験値を捨ててステータスリセットをしたのは秘密だ。秘密中の秘密だ。

 譲り受けた時に入っていた経験値、かなり長い間溜め続けてきたはずなのだ。凄い入ってたもん。それを賭博に使ってしかも失敗するとか、バレたら殺される。――バレればね。


 そうこうしているうちに経験値が体力のステータスに変換されて、なんかちょっぴり体力が上がった気がする。いまなら土木工事みたいな体力を使う仕事がちょっぴりはかどりそうだ。


『ポーションとかは漁ったか?』

「がさごそ。……生命力回復のポーションがありますな。武具は質が悪すぎて使い物にならない」

『そうか。よし、次にいくぞ。夜襲をかけるならできるだけ人数を削っておかないとな』

「うぃっす」


 次の獲物を探して匂いを嗅ぐ。ある程度固まって行動していたのか次の匂いはすぐに見つかった。猫っぽい匂いがする。


「起きてるかも。猫系の獣人もしくは亜人だとすると、夜行性があるよね」

『〈隠密術〉のパッシブスキル〈忍び寄る〉で気づかれにくいから、アクティブの〈気配消し〉で一気に近づいたらどうだ?』

「そうする。体力が少ないといいんだけど。体力があると血が少なくても行動できちゃうからねっ」


 私は着流しと花草水月そして翠乃沃土しか持っていないので戦闘になったら嫌だなあと思いながら次の民家に近づく。

 お、なんかいい匂いがするぞ?

「チーズの匂いがする。保存用の固い奴。これ貯蔵していたチーズを使って何か調理して食べてるねえー」

『起きてそうだな。諦めた方が良いか』

「一応、中を覗いてみる。周囲を警戒していないだろうし近づくのは容易だよ」


 そろりそそりと歩いて民家の中に。「にゃんにゃかにゃんにゃかにゃー」などという陽気が声が聞こえてくる。


(女性か。女性なら出会い頭の誠剣せいけんざんで一撃かな? 隙をうかがおう)


「美味しいパスタの食べ方にゃ。固いチーズをくりぬいてちょっとしたくぼみを作って、そこに熱々のパスタを投入」

(ゴクリ……)

「熱でチーズが溶けてパスタとからまり、濃厚なチーズパスタになる。ちょっとベーコンやハムを入れれば最高にゃー」

(お、お腹が鳴く……まずい、居場所がバレる。飯テロ腹へりコンボがこんなに凶悪な存在だとは知らなかったよ……)


 うーん、一度引くか。


「いやーしかしハイエルフも含めて奴隷どものおんなのこと奴隷エッチできたのは幸せだったなー。おんなのこはおんなのこと、おとこのこはおとこのことえっちなことすればいいとおもうの」


 ――よし、殺そう。寝るのを待ってでも殺そう。


 一度外に出て民家にくっつく。これで気配は消せるし、寝息を聞き分けることも出来る。

 このあとお酒も飲んで一人どんちゃん騒ぎをして私を激おこにさせた猫獣人は深夜遅くになってやっと眠りについた。


 再度民家に侵入し状況を確認する。テーブルの横で寝っ転がる猫がそこにはいた。


(奪った物かどうかわからないけど奇麗な服を着ているなあ。レザージャケットに上下緑色のかわゆい服と、黒色に緑の折り返しが着いたレザーブーツか。わースカートだよこれ。ここは血があまり服にかからないように仕留めよう、欲しい)


 どうやって仕留めるか。これをするんだよ。


(花草水月で……頭をかち割る! 誠剣せいけんとつ!)


 眉間にまっすぐと突き刺さる花草水月。猫獣人は自分が何をされたかわからない間に死んだであろう。体をビクンビクンと痙攣させたあと、静かになった。


【暗殺キル! 獲得経験値55ポイント】


 おや、獲得経験値がさっきのより多い。こちらの方が強かったのか。


「さーて。この服とかはキレイだし仕立て直して私物にしよっと。うーん、隣街いかないとダメかなー、こんなキレイなものを仕立て直せる職人がいないよ」


 この猫さん凄くキレイだし、私もキャッキャウフフしたかったかもなあなどと思いつつ次の民家に向かうのであった。奴隷エッチは嫌だけどね。きつね亜人は人間族とは違って年中発情期ではないけど、娯楽としてそういうのは存在している。


 服その他諸々をとある場所に格納して、次の民家へ。ここには匂いが三つあった。男性の匂いが二つ、女性の匂いが一つ。


「んー、血の匂いもかなり流れてくる。複数の体液が混ざったであろう匂いも。気が付かないうちに移動牢獄から奴隷女一人取りだしてお盛んしたのかな……?」


 精魂つき果ててぐっすり眠っていた二名の賊をスパスパ殺して、亡くなったおねいさんに賊の服を被せる。さようなら、名前も知らないおねいさん。


【暗殺キル! コンボボーナス! 獲得経験値150ポイント】


 わー、特殊要素が重なっていくと獲得経験値がグッと増えるなあ。


『体力に振っておくぞ。4人キルしたから結構伸びたな』


 わーい。なんでも伸びるのはうれしい!


『きつね族は筋力や体力より俊敏性や柔軟性、精密性を重視しているから、筋力に体力は成長率が悪いのだが、振るのが悪い手だというわけでもない』



 さて、死体を宿屋の真ん前においてボスの出方を見ましょうか。逃げ帰ってくれないかなー。


「ああー死体重いよー。筋力にも振ってー!」


『もう使い果たした。上昇した持ち前の体力でなんとかしろ』


 くそがー! ばかやろー! うおー!



 そして夜が明ける。

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