第3話 山の賊は山賊、海の賊は海賊、じゃあ平原の賊はなんていうんじゃ?



 破城槌がないから門があかない、魔物用の壁だから木壁でも分厚い、つまり何も出来ない。


「手詰まりになったかな……」そう思っていたんだけど。


「ぐおおおお!!」


 凄い咆哮とともに馬車の中から大男が現れた! 賊の二倍はある身長、むちゃくちゃごつい体格、そしてその手には巨大なハンマーが!


「使えねえやつらだなあ。おらあ! 村のものぉ! 俺はボスだあ!! 俺様がこの門をボコボコに破壊してやるぜぇ! 男は奴隷、女は性奴隷として扱ってやるから待ってろよ!」


 そういって門をハンマーでぶったたき始める。


 ぼ、ボスですか……自己紹介ありがとうございます……。


 ただ、これは……あきらかに効いてる。門の開閉を止めているかんぬきという部分がギシギシと音を立ててゆがみ始めた。閂が破壊されたら門は開いてしまう。



「――という感じです」

「そうかい、門はやられそうかい。その大男がこの集団のボスなんだろうね。自分でそう言ってるし、実力もずば抜けてる。自分の力を元に賊行動を開始したんだろうね」


 女将さんがタバコをふかしながらそう話す。

 女将さんはかしこい、あたしよりきっとかしこい。

 女将さんが言うことは間違ってないのだ。


「ボスはかなりの大男でしたよ。多分――」

「ジャイアント族とほかの雑種だろうね。ジャイアント族にレイプされた女がそいつを産んで、運良く成長できたんだろう。でも10メートル超えも珍しくないジャイアント族としては小さいから社会ののけ者にされて、普通には生きられなかったんだろうね」


 女将さんがそう言うんだからそうなんだろう。でも今はそいつの境遇に同情する場合じゃない、どう撃退するかだ。


「マダム・セロン、門が突破されたらここはどうなっちまうんですかい!? おれの豚は、俺の農地は!?」

「豚や農作物は奴らの食料になってしまうだろうね。安心しな、ここは1ヶ月籠城できる備蓄があるから。いま「宿屋居酒屋ネットワーク」を使って救援を呼ぶよ。加入しておいて良かった。――さあ、そこをどいておくれ!」


 そういって人をかき分けると居酒屋の天井からぶら下がっている紐を思い切り引っ張る。


 ゴォォォォン!

 ゴォォォォン!

 ゴォォォォン!


 鐘の声が鳴り響いた!!


「で、でっか……耳が良いきつね族のあたしにはとんでもないダメージだよ、およよ」

「さあこれで救援を求める魔法が飛んだはずだ。あとは籠城するよ! なにか質問はあるかい?」


 そう言って女将さんは周りを見渡す。

 ここに逃げ込んでいる80名ほどの村人たちには特に質問はないようだね。私は一つあるよ。


「んー、女将さん。あそこには移動牢獄があって人もいるんですけど、彼らって助けられないですか?」

「――難しいね。この宿屋に籠城している以上外に関与は出来ない。ちゃんとした食料はみんなこの宿屋に運んできたし、キレイな水のでる井戸は中庭に設置してある。そして救援が到着するまでには五日ほどかかる。おそらく飢餓の中、水がなくて死んでしまうだろう……ね」

「厳しいですね……。――夜襲をかけようと思うのですが、駄目ですかね? ボス以外なら数を減らしたほうが良くないですか?」


 夜襲かけたついでに移動牢獄を弄ろうと思うんだけどね。


「門を突破してこの宿屋を破壊し始めたらやってもいいかもね。賊を減らせば民家の被害もきっと減るし、仲間が死んだら逆上して全員でここを攻撃し続けそうだ。この宿屋は魔法結界である〈魔導防壁〉がかかってるから、ジャイアントの雑種と賊の数名程度じゃびくともしないよ」


 それじゃあ、ということで門が破壊されるのを待つ。

 思いのほかジャイアントの雑種が怪力で、半日ほどで門が突破された。

 これはかなり強そう、私じゃあ倒すのは無理!



 賊達は馬車を村の中には入れず、徒歩で宿屋兼居酒屋や各種民家に近寄ってきたよ。一応村の中で反撃をくらうなどの警戒はしてるんだね。

 ボスがぎゃあぎゃあ言いながら宿屋兼居酒屋に侵入しようとしたけど展開された〈魔導防壁〉に阻まれてぶち切れてるな。


「こんな防壁屁でもねーぜ!! おらぁ!!」


 ガンガンとハンマーで魔導防壁を叩いてる。

 防壁が傷つくとそれを修復するためにマナが使われる。攻撃し続ければ魔導防壁も壊れてしまうのだ。


 ここまでずっと屋根にいるんだけど、私はきつね族なので人間より上手く気配を隠せるし、隠密術LV2でさらに存在感を消せるから今のところ全く気がつかれていない。

 相手の出方を見るために、夜になるまで屋根の上での見張りを続けてから室内へと戻った。


「ボスは馬車に戻りましたけど、ほかの賊は民家で寝ちゃってますね。こちらに戦える人がいるとは思ってないようです。女将さん、やっちゃっていいですよね」

「――――そうだね、やってしまおうか。くれぐれも死なないようにね。魔導防壁を作っている魔法陣はまだまだ元気だし、遅かれ早かれ救援までは宿屋ここは持つんだ、無駄死にする必要は無いよ」


 それじゃ、と、ともに魔導防壁を一時停止してもらい2階の窓から宿屋の外へ出る。ぴょーん。

 そして華麗に着地を失敗し盛大に尻餅をつく。いたたた。


『鍛錬を怠けている証拠だ、馬鹿者』

「ですよねー」


 はー、冷たくて美味しい空気。

 よし、まずは一人殺そう。話はそれからだ。

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