第2話 暴走族とか賊は嫌なのじゃ! バリアー無敵無敵

「賊の集団!?」


 居酒屋にいた農民がそう叫ぶ。


「狩人のロブ、それは本当なのか?」

「ああそうだ、狩りをしている最中に偶然道を移動している集団が見えたんだ。3頭立ての大きな馬車の後ろに移動牢獄もついていたぜ! 囚人も乗っていた! 連中の服装も荒くれ者のそれだ!」

「おいおい規模がでかいんじゃないか!? こっちに来るのか!?」

「ここは道が一本しかないだろ! それでこっちに来ていたんだ!」


 みんなが口々にオオカミ亜人である狩人のロブに質問を繰り返し、一気に慌ただしくなる店内。といってもみんな何をすればいいかわからないみたいだね。


「まずは村の門を閉めるよ! そして家畜以外の貴重品を持ってここに集まるんだ! 門と壁はモンスターにも対処できるし、この宿屋兼居酒屋が村人まるごと収用できる巨大籠城施設でもあること、忘れてるんじゃあないだろうね!」


 熊獣人の女将さんが檄を飛ばす。

 みんな我に返ったかのようにハッとして、ぞろぞろと出口へ向かう。

 二足歩行の熊が、ガオー!っと叫べば誰でも動くわな。


「あたしはどうしよ。逃げようかな」

「こんな寒村じゃ冒険者はいない。あんたしか戦闘できるものがいないんだ、助けておくれ、この通りだよ!」


 女将さん、いえ、マダム・セロンが頭を下げる。

 マダム・セロンにそうされちゃあやるしかないなあ!


「わかりました、精一杯頑張ります。あたしは何をすれば?」

「そうだね、この建物の屋根に上がって見張りをしておくれ。どれくらいの規模か、どういう構成かとかわかったら知らせておくれよ」


 あいわかったと外に出て、漆喰の壁を登ってはげたペンキが目立つ屋根にたどり着く。

 元々【ステータス:器用さ】が一般人の3倍の300もあって【ステータス:敏捷値】も250とかなり高い。こういう行為が得意な上に、〈軽業LV1〉スキルを脳内のスキルスロットにはめ込んでいて、しかも〈軽業+1〉もはめて軽業スキルを強化している。この程度のことなど造作もないのだ。


 これ以外のスキルスロットには〈誠剣術せいけんじゅつLV2〉と〈隠密術LV2〉、〈眼力がんりきLV1〉と〈嗅覚LV1〉をはめ込んでる。薬草採取のためのスキル構成なんだけど、監視には使えそうかな。


『鍛錬して〈射撃〉や〈矢弾追尾〉などのスキルを会得しておけば良かったかもな、屋根上から狙撃できた』

「鍛錬でそういうのを自然発生スキルとして会得したりスキルレベル上げたりするのには、かなりの訓練が必要でしょうが。LV2スキルを二つ、LV1スキルを四つもっている17歳きつね娘なんて、そうそういないと思いますけどねえ!」

『【魔法】があればなお良かったんだが……」

「――ないものはない! あんなのいらない!!」


 ぎゃあぎゃあ言い合いながら、来ると予想されている道を監視する。そう簡単には来ないだろうけど。

 時折〈眼力LV1〉のアクティブスキルである〈鷹の目〉を行使して遠方まで覗く。といっても私はとある事情で体内マナが全然ないから、すぐ息切れしちゃうんだよねー。


 ぼちぼち暗くなるころに賊の集団が近くまで来ているのを目視した。

〈鷹の目〉は使ってなかったんだけど〈目力LV1〉そのものに視力向上の効果があるし、きつねって動物でも目がいいからね。きつね族である私も元々目が良かったのだ。

 すぐさま屋根から降りて女将さんに報告。


「ついに来たね。でもここの門はモンスター相手でもびくともしないよ。人間が打ち壊すには相当な苦労が必要さ、きっと諦めてくれる」


 居酒屋に集まっている農民に緊張が走る。

 相手は賊、戦闘には慣れている。戦闘用の武器もある。大してこちらは戦闘訓練なんてしたことのない一般民。武器は農具。5人がかりで賊一人に立ち向かっても勝てる見込みはないだろう。

 門を突破して侵入されたらこの居酒屋はともかく、村の施設や家畜などはなすすべがないのだ。


 外に出られない住民の代わりにまた屋根に登って目の代わりをする。賊は今、数人がかりで門を破壊しようとしているところだ。といって破城槌はじょうついとかを持っていなさそうなのでどうにもならなそうだね。

 人数は……4~5人くらい? 集団としては少ないかな。魔法使いはいなさそうだし数日耐えればすぐにどこかいきそう、食料はあるとしても水がないはず。


 今のうちに移動牢獄を見ておこう。〈鷹の目〉を使って、えーと……。

 手首を縛られた若い女性が数名、死んでそうな男性が2名ほど。あとは幼女が一名。

 この幼女、耳が長い。エルフ系種族かな。髪の毛が黒いのは珍しいな。

 ん、目が合ったぞ。なにか目を赤くしたりしなかったりとチカチカさせてるな。これは……ムールス信号の救難信号っぽい。


[魔工具の翠乃沃土みどりのよくどかを光らせて、通信を試みたらどうだ?]

(お、花草水月ちゃんの念話がきた。そうだね、やらない選択肢はなさそう。というか光らせられるの?)

[生きていてくれればそれでいいんだが、せめて俺達の特徴くらいは覚えておいてくれ……魔法が使えるだろうが]


 それもそうだったな。しっぽんてへへん。


 腰に腰紐でぶら下げていた翠乃沃土を手に持ちナイフツールへと変化、刀身を光らせて「きこえている」と返答する。私は詳しいムールス信号を知らないので光ったり消えたりは翠乃沃土ちゃんがおこなっている。この子も知恵のある剣、いや、工具だったりする。

 魔導具の彼らは、魔法は使えるけど使うための体内マナは、所持者から吸い取るのだ。

 光らせるくらいなら体内マナをほとんど使わないから、ちゃんと通信できそうだ。



 えーと……「なんとかして わらわの うでのこうそく を といてくれぬか」


 ふんふん。「こうそくをといたら ゆうりな てんかいに なるの」


 相手の返信がきた「わしは はいえるふ じゃ たたかえる」


 ふーん。よほど自信があるらしい。


 しかしまあ、希少種族ハイエルフがこんなところで囚われているわけ……、


 ボン!


 ……あー、なにか即座に使える魔法を使ったみたいだね。


 ……ちっ。一人、賊が戻ってきてハイエルフ(仮)の幼女を殴ってる。どうにかしたいが今出ていくのはさすがに不利だ。疑って申し訳なかった。


 でもこれで大体把握できた。彼女は戦える。戦う意思がある。


「りょうかい きゅうしゅつを こころみる」

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