第12話 牛頭と馬頭
「よし、近隣の避難や警告は俺達に任せておけ。件の魔物達はここから数百メートル先だ」
冒険者はそう言って、個々に動き出す。もしもの時の保険はこれで大丈夫だろう。
数百メートル先にいると言われたけど、結界魔法で封印されているせいか、感じ取れる気配や魔力は極微小だ。余程集中していないと、感じ取ることも難しい。
「カエデ、ルシファー、行くよ」
「はいなのですっ!」
「気張っていきましょうか」
僕らは同時に駆け出す。数百メートル先なら、僕の脚であれば数秒とかからないだろう。カエデも魔法で身体能力を強化しているのか、僕のスピードについてくるどころか追い越す勢いだ。ルシファーも片翼しかないのに、高速で飛行している。
「見つけたわ。結界よ」
わずかに先を飛行していたルシファーがそういう。僕らの前に大きな結界が現れる。
どうやら四本の杖を地面に突き刺して、杖と杖を結んだ四角形の中にいる魔物を封印する結界だ。単純だけどそれゆえに強固な結界で、中にいる魔物が攻撃をしていてもビクともしない。
「こいつらは……」
僕は結界の中にいる魔物を見る。そこにいたのは。
「アンデット……ゾンビの大群か!!」
「それだけじゃないのです。ゾンビの大群だけならまだしも、デス・マンティスよりもヤバい魔物がいるのです」
カエデはそう言いながら結界の中を指さす。カエデが指を向けた先。そこにそれらはいた。
「ゴズとメズ。私の故郷ではぶっちぎりのAランクオーバーの魔物なのです。まさかこんなところで遭遇するなんて」
「デス・マンティスとあいつら、どっちが強いの?」
カエデは僕の問いに対して、数秒黙り込む。その後、僅かに声を震わせて。
「ゴズとメズなのです。あいつらの全力は、デス・マンティスの再生力すら上回る破壊力を誇るのです」
デス・マンティスの再生力は記憶に新しい。カエデの連撃を喰らい続けても衰えることのない高速再生。僕の持つ古代魔法でも、一段と攻撃に特化した物じゃなければ倒すことは出来なかっただろう。
僕の古代魔法と同等の破壊力を持つ魔物。それだけで、目の前の魔物がどれだけ強大なのか分かってしまう。
「僕とルシファーでゴズとメズの相手をする。カエデは周囲の雑魚を頼む」
「分かったのです。くれぐれも無理はしないよう」
「さて、言っている間に、結界が解けるわよ」
ルシファーは結界を見ながらそう言う。結界を維持していた魔力が尽き、結界が崩壊する。結界の中から我先にと、無数のゾンビが襲い掛かってくる。ゴズとメズはゾンビの大群の遥か奥ッ!!
「先陣は私に任せてほしいのです」
カエデは僕らの前に立つと、腰にぶら下げた刀に手をかける。姿勢を前のめりにしながら、カエデは地を勢いよく蹴る。
「
【魔神化】によって強化された五感が、カエデの魔力を感じ取る。全身の魔力が鞘に収まった刀に収束していき、抜刀の勢いを加速させていく。
「
カエデの抜刀は、強化された肉眼でも捉えるのがやっとな速さだった。そんな居合に、ゾンビが対応出来る訳がなく、ゾンビの大群は瞬く間に真っ二つにされていた。
ゾンビの大群が倒れ、ゴズとメズへの道が開ける。
『さて』
その光景に、僕とルシファーの声と感情が重なる。
『戦いと』
僕らは同時に構えて。同時に魔力をたぎらせて。
「いきましょうか!!!」
「いこうか!!!!」
僕らはゴズとメズに目掛けて突進する!
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