第8話 強すぎた魔法

「邪神……?」


 僕は思わずそう口にしてしまう。その次の瞬間だ、僕の隣を歩いていたカエデから声が聞こえてきたのは。


「止まった方がいいのです。そこで隠れている人達、早く出てきた方が身のためですよ」


 カエデが大声でそう言った時だ。僕らの進行方向を塞ぐように、ガラの悪い人間が何人か出てくる。みんな武装していて、今にも僕らを攻撃できますと言った雰囲気だ。


「よく気が付いたなお嬢ちゃん。いつから俺達が付けていると分かった?」


「デス・マンティスを倒した辺りですよね? 正味襲ってくる気配がないので無視していましたが、あまりにもしつこいので……」


 ……気が付かなかった。僕が気が付かないのはともかく、ルシファーなら気が付きそうな物なんだけど。


「いや、別に大したことないし」


 まあルシファーならそう言いますよね!!!


 けど僕としては心中穏やかじゃないというか、こうも分かりやすく今からぶっ倒しますよ的なオーラ出されると心細いというか……。


「無駄な抵抗はよして、デス・マンティスから出た素材や魔石を寄越しな。そうしたら大人しく引き下がってやるからよ」


 そういえば魔物を倒すと、その魔物を象徴する素材を落とすという。でも、デス・マンティスと戦っている時、そんなこと考えている余裕がなかったから全力で吹き飛ばしちゃったけど、そんな物落ちたのかな……。魔石は確か落としたけど……。


 成果を横取りされるのは気に食わない。向こうは十人くらいいるけど、デス・マンティスには遠く及ばないだろう。それに。


「そんなことを言うなら、なんで参戦しなかったんですか? 貴方達だって分かっていたはずです。あれを倒さないと多くの人が危機に合うかもしれないって」


 僕の問いに対して、大剣を持った巨漢が応える。さっきからこの人ばかり話しているところを見ると、この人がリーダー格なのだろう。


「んなもん決まってるだろ。俺達は効率よく、楽にランクを上げたいんだよ。デス・マンティスを倒したとなれば、Aランク冒険者への推薦だって夢じゃない。コアは魔物を倒したというこれ以上にない証明。お前らからそれさえ奪えば、デス・マンティスを倒した功績は俺達の物になるっていうことだ」


 僕の中で何かがブチ切れる音がした。


 流石にこれはやり方がずる過ぎる。これで実力に見合わない名ばかりの冒険者が生まれて、もしもまたデス・マンティスみたいな魔物が現れたら? 彼らは戦うことなく、ずる賢く立ち回るだろう。


「貴方達みたいな人に渡す物は何もありません。大人しく帰ってもらいます」


「世間知らずの餓鬼が。俺達は十人、お前達は三人。数の利が違う。お前達に勝ち目なんてねえよ」


 って余裕こいて向こうは笑い始めたけど、彼ら相手なら僕一人で十分だろう。


 僕自身、【魔神化】がどれだけ出来るのか試したい。


 【魔神化】は身体能力の向上、魔力の増大、古代魔法を使用可能にする、この三つの効果がある。古代魔法はデス・マンティスと戦った時に使った|魔砲≪キャノン≫みたいな魔力を圧縮して放出する攻撃魔法から、転移や念話みたいな母の持つ魔法特化のスキル【賢者】ですら使えない高度な魔法も使える。


 となると、【魔神化】は魔法特化を更に特化させた魔法をバンバンに使うタイプのスキルだろう。


魔弾バレット!!!」


 僕が使える古代魔法の中でも、一番威力が低い魔法を選ぶ。魔弾≪バレット≫なら消費魔力が少ない上、余り集中せずとも使うことが出来る。


 魔力を圧縮して放たれた弾丸が、男の頬を掠めて背後に着弾する。その直後だ。


 ズガアアアアアン!!!!という爆音を轟かせて、爆発が巻き起こる。


「な……!?」


「ええええええええええ!?!?」


 攻撃した僕自身が一番驚いている。だって……だって!!


「なんか思いっきりクレーターが出来たんだけど」


 交易路のど真ん中に大穴を開けてしまったんだけど、大丈夫だよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る