第9話 【エリスSIDE】王女との謁見のはずが……?

【エリスSIDE】


「チート様、ご準備のほどは……?」


「もう少し待ってろ!! 髪型が中々決まらねえんだ!」


 チート様がエンデュミオン家に来てから数日。世間ではエンデュミオン家の養子が、【勇者】のスキルに覚醒したことで賑わっていました。


「今日は王女様と謁見です。万が一にでも遅刻するなんてことが起きれば……」

「そう主を急かすな。お前は顔が良くて、仕事も完璧だ。もう少し主である俺を信頼してほしいな」


 そういってチート様が部屋から出てきます。チート様は私達が用意した正装を着こなし、髪型もいつもと比べて気合が入っているみたいでした。


「移動しながら本日のスケジュールを確認します」

「おう、頼むぞ」


 私は王城への移動中に今日のスケジュールを確認します。予め手配した馬車に乗って。


「今日はルミナス王国第一王女アリス・グローリア・ルミナス様との謁見、その後アリス王女主催のパーティーに参加する予定です」

「おう。そのために今日は念入りに準備してきたからな」


 なんて、私をちらちらと視線を向けてきますが……その……意見に困ります。


「ここで一つチート様には注意しておかないといけないことがあります」

「ん? なんだそれは?」


「アリス王女の前で、絶対にレイヴン様の話はしないでください」


 私の言葉に、目の前のチート様は二重の意味で表情を歪ませます。


「おい、それはどういうことだ? 俺様があの落ちこぼれの話を自分からするとでも思ったのかお前」


「いえ、チート様は聡明な方。それでも万が一の可能性があります。もし私の発言に不快感を覚えたなら」


 私は真っすぐチート様の瞳を見つめて。


「私の首を斬り落とすなり、解雇するなり、この身体を自由に弄ぶなり、お好きにしてください」


 例え、私がレイヴン様を忘れられなくても、今の主はチート様。チート様のために生きて、チート様のために死ぬ。それが私の役目である以上、その覚悟はしっかりとお伝えしなくてはなりません。


「そこまでじゃねえよ。だからそんな凄むな。こっちの肝が冷える」


 私の気持ちが伝わったようで何よりです。そんなに凄んだつもりはなかったのですが……やはりレイヴン様が前に言った通り、私って表情固いのでしょうか?


「さて、着きましたね。くれぐれもアリス王女に失礼がないように」

「分かってるって。さて、行くぞ」


 王城に到着し、チート様を馬車から降ろそうとした時です。王城の中から誰かが駆け出してきました。あれは——アリス王女に従えている使用人でしょう。


「チート・エンデュミオン様! ご到着のところ申し訳ありません!! アリス王女なのですが、今は誰も会いたくないと部屋に閉じこもってしまい……」


「はあ? それはどういう意味だ?」


「それが、アリス王女はレイヴン様が亡くなったことに大変ショックを受けているようで……、大変申し訳ございませんが、今日はお引き取りください!!」


 アリス王女とレイヴン様は幼馴染で、二人の仲はとても良かったと記憶しています。レイヴン様がいなくなったことで、引きこもってしまう気持ちは大変よく分かります。


 そんなことは知らないチート様はぽかーんと口を開けて立ち尽くし、次の瞬間こう叫びます。


「な、な、なんでこうなったんだああああああああ!!!!!」

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