第7話 ルシファーの仮説

「Aランク冒険者って……ええええ!!!?」


 Aランク冒険者なんて限られた一握りしかなれない事実上の冒険者最上位ランクだ。


「恥ずかしながら不覚を取って、装備が整っていなかったため苦戦しておりましたが……これでもAランクなのですよ」


「道理であれと戦って無傷な訳だ。納得出来たよ」


 恐らく本来の実力ならあれも倒せたのだろう。そうしてみると、カエデという存在が未知数に思える。


「しかしなんで商業連合なのですか? 冒険者自体はどこの国でもなれるのですが……」


「色々と事情があってね。各国へのアクセスが容易で、情報も集まる商業連合に行きたいんだ」


 僕が魔神の力を持っていて、ルシファーの力を取り戻すための情報が欲しいとかは流石に言えない。


「なるほどなのです。それでしたら大丈夫ですよ」

「それじゃあ商業連合に行こう」


 僕らは商業連合に向けて出発する。



「そういえば貴女は何があってデスマンティスなんていう化け物に襲われていたのかしら?」


 商業連合に向かう道中。ルシファーはカエデにそう聞く。


「それがわからないのです。訳あってルミナス王国の王都に来ていて、その帰りに突然大きな魔力を感じたかと思えば……」


「急に攻撃されていたという感じなのかい?」


「はいなのです。馬車は吹き飛ばされ、間一髪脱出出来た私は無事でしたが」


 カエデはそっと視線を地面に落とす。それはまるで彼女以外の人がどうなったのか、暗に示しているみたいだった。


「これが偶然であればいいと思うのですが……、もしも」


 と言ってカエデは考え込み始めてしまう。


 カエデが考えにふけっているためか、ルシファーは指をちょいちょいと僕に向ける。次の瞬間、不思議なことが起きる。


『聞こえているかしら? お前様』


 頭の中にルシファーの声が響く。見た感じルシファーは口を動かしていない。ならばこれは魔法の一種なのだろうか?


『【念話】の魔法よ。お前様も普通に話すつもりで、なにかを思考してみなさい』


『え、えーとこんな感じでいいのか?』


 声に出さず、言葉だけをルシファーに送るイメージ。それで何となくだけど念話が使えた。


『聞こえているわ。私とお前様が魔神とその契約者であるという関係はなるべく他人には伏せておきたいの。だから、二人だけで話したい時は念話を使って話しましょう。これなら盗み聞きされるリスクは限りなくゼロだわ』


『了解。確かにバレると色々と厄介なことになりそうだ』


 今の僕を他人から見たら、魔神の生贄にされたけど何故か生き残って、何故か魔神の封印を解いて魔神と契約しているっていう感じだ。忌み子を魔神の生贄にする風潮、魔神が恐れられているという常識、それら諸々を考えれば僕達はぶっちぎりの危険人物だ。


 それはルシファーもよく知るところだろう。ルシファーが最強の魔王として恐れられていたのは過去の話。今は十二に封印された内の一つでしかないのだから、むやみに敵を作る真似はしたくないのだろう。


『これは私の憶測だけど、先ほど現れたデスマンティス。偶然の代物ではないわ』


『何か心当たりがあるのかい?』


『——仮説が二つほど』


 そう言うルシファーの声は、何か言いにくさというものがあった。数秒の沈黙——いや、隣を歩くルシファーが僅かに呼吸を大きくしている。


『仮説の一つは原因が私達にあるというもの。そしてもう一つが——』


 今にして思い返せば、この時、ここで、ルシファーの仮説を聞いた瞬間に僕らが戦うべき敵は決まっていた。この世界を取り巻く強大な存在。それは契約の時にもルシファーが口にした存在だった。


『邪神もしくはその眷属による仕業よ』


 僕はルシファーの言葉に、緊張感が強まるのを全身で感じていた。

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