第3話 スキル【魔神化】
「魔神化……?」
「私との契約でお前様が得た力よ。口で説明するより、自分で確認してもらった方が早いわね」
目を閉じて強く念じたら、スキルの詳細が分かるというのはこの世界の常識だ。僕は忌み子のスキルだったからわざわざ確認しなかったけど、それが変化したんだ。どんなものになっているか興味が湧く。
————
【魔神化(第一形態)】:魔神ルシファー(一枚羽根)との契約で得た力。以下の効果を得る。
・身体能力向上(小)
・魔力増大(小)
・古代魔法を使用可能にする。
・魔神ルシファー(一枚羽根)を使役出来る。
————
色んな効果がある……!?
それに第一形態って……これにはまだ先があるというのか?
「封印された私の羽根。それを見つけて取り込むたびに、私とお前様の力は増大するわ。まあ、今でも相当強いけれどね私達」
「強いって言われても自分にどれだけの実力があるのか……」
身体の内側から力が溢れているんだけど、これがどれだけの力を発揮するのかは未知数だ。
「外に出てみれば分かるわ。ここには何もないし外に行きましょう?」
「ここから外に出るって……」
ここは陽の光すら届かないほど深いところにある。ここから這い上がるなんて不可能だ。
「お前様には今、古代魔法という力があるわ。その魔法の中に転移という魔法があるから、ここから抜け出すのはすぐよ」
転移の魔法なんて、今では使い手が殆どいない高等魔法じゃないか……!! 母の【賢者】ですら使うことはできなかったはず。
「転移って言ってもどこに?」
「とりあえず上でいいんじゃないかしら? ここは滅多なことがない限り人は近寄らないし、街からも離れたところにあるわ。目立たないし、危険も少ないと思うわ」
たしかに転移とか使って人前に現れたら、大騒ぎになるだろう。それは避けたい。ルシファーの言う通り魔神の穴蔵は街から離れた場所にあり、街と街を繋ぐ交易路からも離れている。
よって、僕がこの上に転移しても大きな騒ぎにはなり辛いだろう。
「いい? 古代魔法を使う上で大切なのは集中すること。精神を研ぎ澄まし、魔力に意識を向けなさい」
ルシファーは人差し指で僕の胸をトンと優しく突きながらそう口にした。
僕は目を閉じて、意識を研ぎ澄ます。自分の魔力で、ここと行きたい場所を繋ぐイメージだ。
「転移」
口にして魔法を発動する。すると、僕とルシファーの前にある空間が、魔力によって変異していく。魔力が人一人が通れる青白い円を描き、その中がこの奈落の上にある景色となる。
「初めてなのに上出来ね。流石は私の契約者。お前様を選んで良かったわ」
「褒めてくれてありがとう。いつまで保つか分からないから、早速外に出よう」
僕はルシファーの手を握って、転移門を潜る。
「こんな風にしてもらえるのいつぶりだったかしら」
外に出ると同時、風が僕たちの頬を撫でる。
ルシファーは微笑みながら、なんて言ったのだろうか?
***
「何千年ぶりの外ね。魔力が少し薄くなったかしら?」
そう言って両腕を広げ、はしゃぐルシファーは見た目通りの女の子っていう感じだ。
「光は生で感じるに限るわね! 何度か間接的に感じたけれど、直接浴びる光はやはり違うわ!! とても素晴らしい!!!」
何千年と日の光が届かないような奈落にいたんだ、これだけはしゃぐのも無理はないだろう。
「さて、これからどうするつもりかしら?」
「どうするって言われてもなあ……具体的には何も考えていないんだよね」
エンデュミオン家に帰ることは出来ない。今の状態で帰れば大騒ぎになるどころか、何をされるか分かったものじゃない。
エンデュミオン家と教会がある王都に戻ることもできない。ならばこのルミナス王国を出て、別の国……南にある商業連合を目指すのもありだろう。あそこは冒険者稼業が盛んと聞く。
「冒険者になろうと思う。ルシファーの羽根を探すには、それが一番手っ取り早いだろう。高ランクの冒険者になれば世界のあらゆるところに行けるし、情報も集まるはずだ。ルシファーの目的は羽根を取り込むことで——僕はそれによって得られる力で成り上がって、エンデュミオン家の人々にほえ面をかかせる」
「ふふ……いつ聞いても愉快痛快、私好みの目的ね。いいわ乗ってあげる。冒険者になるのはいいけど、行く当てはあるのかしら?」
「ここから南にある商業連合だ。転移の魔法は行ったことがない場所にも行けるのかい?」
僕はルシファーにそう尋ねる。転移の魔法を使えればかなり楽なのだが。
「今のお前様と私では無理ね。少なくとも私の羽根が三枚ないと、行ったことがない場所には転移は不可能よ」
ルシファーの羽根を三枚。二枚目の手がかりもないし、それは少し先の話になりそうだ。
「多分だけど三日程度で着くと思う」
「今の世界を楽しみたいし、それでいいわ。行きましょ」
ルシファーは笑顔でそう言ってくる。ここから三日彼女と二人なら退屈はしなくてすみそうだ。
そう思いながら歩き始めた時だ。
——ドガアアアアン!!!!!
という爆発音が交易路から聞こえてくるのであった。
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