7LUK ラックと剣とイケメンと
「え──」
ミイに届くまであと30センチといったところです。
そして為す術なくその刃はミイの体を大きく抉り、HPを激減させました。
「ひゃーー!!!!」
ミイの体は大きく飛ばされ、壁に叩きつけられました。
「ミイ!大丈夫!?」
ミルクは、視界の左上に表示されているミイのHPバーが、赤く点滅していることを確認しました。
ここまでHPが削られたのは2人とも初めてであり、相当なパニックに陥ります。
「だ、大丈夫だけど、どうしよう!?」
体にほんの少しの痛みを感じつつ、ミイは起き上がります。
「ミイ、とりあえず回復する!攻撃に当たらないでね!」
「わかった!!」
そう言うとミルクは回復魔法の呪文を唱え始めました。
このゲームことクリスタルオンラインでは、回復魔法や蘇生魔法等の、味方に対してプラスの効果を発揮する魔法には『詠唱』をすることが必須になります。
これはダメージを受けた際に瞬時に回復するというゾンビ戦法を運営が対策するためにつけられたシステムです。
詠唱中のプレイヤーは移動や、剣を振ることなどの簡単な動作はできても、スキルを使うことなどの必須攻撃が出来なくなるため不利になります。
そしてその改善のためにミルクが会得したスキルが『隠密行動』です。
その内容は──
「って、あれ!?ミルク!?どこー!?」
ミイの目にはミルクの姿が見えなくなってしまいました。
いえ、この場にいる全ての生物の目からミルクの姿は消えてしまいました。
これがミルクの会得した隠密行動です。
つまりレッドイーターの目にもミルクの姿は映っていないわけで──
「ひゃああああああぁぁぁ!!!!」
必然的にミイだけが追い回される結果になります。
どうしようどうしようどうしよう──!!
パニックも大パニックです。
走り回る自分の背後からは、刃が空気を割いて迫ってくる音がヒュウヒュウします。
そしてその時、ミイは走馬灯のようなモノを見ました。
そうそれは、小学校の頃です。
誘拐防止教室という授業でこう教わりました。
「知らない人に追われたりしたら大声で助けを呼びましょう」
と。
今正しくその状況です。
後ろから自分を追ってくる大剣が知らない人とは一概には言えませんが、少しおっちょこちょいな女子高生の美咲ことミイにとって、それは知らない人に追われているのと同じ状況でした。
「──だれか助けてーー!!!」
そして旋風と共に背後に人の気配が現れました。
その声に呼ばれたのは誰だったでしょうか。
「────」
振り向いたその先にいたのは、いつかミイをPvP時に助けてくれた金髪の青年でした。
そして──、
「剣よ、唸れ──」
その声に応じたように、手に持つ剣から蒼く輝く波動が放射されました。
そのうねりは自身が持つ衝撃をレッドイーターにぶつけ、行動を停止させました。
やがてその青年はこちらを振り向いて、
「助けの声を聞いて参上しました。名を▆▆▆と申します」
その顔は端正、つまりイケメンでした。
薄い唇から放たれた言葉は空間によく通り、響く美しい声をもっていました。
しかし、名前の部分だけがノイズがかかって聞き取れませんでした。
「え、あ、え??」
ミイは何が起こったのか分からず、困りに困ってしまいました。
「そうですね──、私は貴方の保有するスキルによって召喚された一剣士に過ぎません。貴方の声は、唯の音声の領域を超え、詠唱に近きものでした。して、私が参らせていただきました」
さらにわけが分からなくなってしまいました。
「ミイ!大丈夫!?って誰そのイケメン!?」
いつの間にかミイへの回復魔法を終え、イケメンを見つけて駆け寄ってきました。
「うわぁー、近くで見るとさらにイケメンだなぁ〜感心感心」
ミルクはさもアイドルを見るかのようにまじまじと青年を見つめます。
「お褒めに預かり光栄です。しかし今はやるべき事があります」
「あ、そうだね。
ミイ、このイケメンくん協力してくれるみたいだからさ、さっさとあの的なやっつけて色々話聞こうよ」
ミルクは臨機応変に対応し、状況の把握がとても上手でした。さすがゲーマー。
「うん、わかった!」
ぐっとミイは足に力を入れます。
「「やるぞ!!」」
ミイとミルクは2人で声を合わせて、喝を入れました。
しかし、
青年の姿はもうそこにありませんでした。
そして目の前にいるのは──
圧倒的な剣戟でレッドイーターを翻弄する剣士の姿でした。
鮮やかなステップはスケート選手のようで、そこから繰り出される剣の裁きは閃光そのものです。
みるみるうちにレッドイーターのHPバーは減っていきます。
ついにはミイをピンチまで陥れたレッドイーターはHPを全損させて霧散しました。
「あ、あれー。私たちの意気込みはー?」
ミルクは苦笑いをします。
そして
「は、はははー。…………バケモンじゃん……」
ミルクはついには呆れ果てました。
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