第4話 結構悩み続けた日々

 就職してすぐの研修があった。たまたま隣の席の女の子はかなりかわいい子だった。ラッキーとは思いつつ、次の日は席替えで残念だった。配属された職場はお互い離れていて、接点がほとんどなかった。その後、たまたま立ち寄ったゲーセンで男連れの彼女と出会い、まあ人生こんなもんかと思った。

あれ?と思ったのはしばらくたってからだ。たまたま、急いでいる時に彼女が同期の男と話しているのに出くわした。横に避ける余地がなかったので「すいません」と言いつつ間を抜けた。その時彼女が俺の名前を言ったような気がして、その響きに愛を感じた。こちらを呼んだというわけではなかったと思う。

 被愛妄想? まぁ、そのとおりかもな。

 ある時、いろんな部署から交代で動員される仕事があった。たまたま彼女の順番の次が俺だった。仕事の引継ぎを済ませ、彼女が去ると、彼女の電卓が置いたままだった。返す時、少し話すのもいいなと思った。ん? もしかしてわざと? さすがにそれは考え過ぎか。

 翌日、次の交代の人が電卓が電卓を忘れて、彼女の電卓を置いて行ってくれと言った。人のなんで、自分がすぐ近くの自席から取ってくるとも言ったが、どうしてもそれでいいと譲らなかった。さすがにあまり拒むこともできず、電卓はそのまま置いてきた。もし彼女に届けていたら、何か進展あったのだろうか?

 それからしばらくしての人事異動で、俺の部署に彼女の部署から人が異動してきた。ちょっと俺も仕込んだ。その人との飲み会の時、彼女と研修が隣で、その時かわいいと思ったと酔った勢いであるかのように装って、実のところ計算ずくで言ったのだ。

 その結果は思いがけない形で帰ってきた。同僚の女性が

「彼女結婚しちゃったよ」

 と言ってきたのだ。その言い方の微妙なニュアンスで、何かあったことにすぐに気づいた。この時、結構彼女からの好意は本当だったと確信した。俺がかわいいと言ったことが、最悪のタイミングで彼女の耳に入ったのだろう。その時、俺はなんでもないことを装った。しかし、ちょっと反応が派手すぎたかもしれない。

 しばらくして、たまたま同期の女の子が見知らぬ男性と、ちょっと激しい口調でやりあっているところに出くわした。通り過ぎながら耳に入った「幸せになってくださいね」という言葉を奇妙に思ったので、その前に聞こえた言葉を振り返ってみた。たしか「~かわいいって言っただけなんだよ」と「~だってそれはわかってるよ」だったはずだ。すべてをつなげると・・・。

 「(俺は彼女を)かわいいって言っただけなんだよ」「(彼女)だってそれはわかってるよ」ってことか? あいつ、彼女の結婚相手か!ということは、俺のところに怒鳴り込もうとして同期の子に止められてたってことか。

 俺は、何も知らないことにした。

 それから間もなく出張にいくことになった。4人でいくことになって、男の同期がひとり混じっていた。出張先で目的地に向かう時、なんとなく二人ずつで歩く形になった。俺は年配の人と前の方、同期は若手と後ろの方で歩いていた。

 なんとなく後ろの会話が耳に入った。

「~って本当ですか?」

 という若手の質問に、同期の方の答えは

「ほんと、ほんと。俺も当事者だから何も言えないんだよ」

 だった。

 少し飛躍しているが、ひょっとして、同期のやつらがわざわざ彼女に俺のことを諦めさせたってことか?

 裏付けるかのように、すれ違った時に思いきり目を逸らした同期がいた。わかりやすすぎだろう。

 それから、飲み会の時に脈絡もなく

「言わなきゃだめだよ」

 と謎の忠告をしてきた同期がいた。

 それが俺と彼女とのことなら、言わなきゃだめなのはお互い様だし、彼女のことを、あなたが言ってきてもよかったんだけどと心の中で突っ込んだ。

自分でいろいろ察しがいいとは思っていたが、さすがに同期の一部がよってたかって彼女を諦めさせてるなんて思いもしなかったよ。

 ある時、自動販売機でジュースを買おうとしたら、後ろに前述した芸能人にもちょっといないきれいな子が別の子と後ろに着いた。

「~ずうっと好きでいるって」

 その子が言った。はっきりと聞こえなかったが、「彼女は」だったように思う。相手は俺? それって結構重い。

 相手の子が何かを言って、その回答は

「私はいいの。振られたから」

 だった。いや、君を振ったわけでもないんだけどな。やっぱりちゃんと伝わってなかったか。

 それから長い月日が流れ、ある夜、俺は彼女と旅行に行った夢を見た。もうだいぶ時間が経過していたので、なぜ今更?と言う感じだった。密かな願望が残ってたか?

 あと、俺の場合、もう一つ可能性があった。ごくまれに正夢を見るのだ。壁から手が出てくる夢を見た朝に、見た特撮で同じようなシーンが出てきたり、欲しい本を見つける夢を見た後に本当にその本を見つけたといった程度だが。

 いずれにしろ、大したことじゃあるまいと思っていたが、翌々日発表された人事異動を見てさすがに驚いた。俺も異動になっていたのだが、同じ部署に、彼女も異動になっていたのだ。結構頭を抱えた。どうやって彼女に接すればいい?

 蓋を開けてみると、異動先でハプニングが起きて、彼女のことを考えている余裕がなかった。仕事こそ大変だったけど、別の方では思ったほど気を使わなくてすんだ。

 しかし、いくつかエピソードがある。

彼女の義兄が同じ会社にいるのだが、異動の直後彼女に会いにきたことがある。何を話してたかは聞こえなかったが、彼女の方が強い口調で何か拒んでいたようだった。俺との仲を心配して来たのか? それに対して何でもないと言ってたのか?

 彼女が同期の女の子と嬉しそうに話している声が耳に入ってきたことがある。

「目が合っちゃったりして・・・」

 俺のことか? どこまで本気なんだ。

 別の男の同僚との会話だ。

「言ってやろうか?」

 俺に、彼女が俺を好きだったってことをか?

「やめてください。その方がお互いのためです」

 結構マジ反応だったので、内心頭を抱えた。

 ある時、たまたま二人で外仕事をすることになった。そうないうとき、たいてい二人で昼食とることになるんだよな。俺は前日に予防線を張ろうとした。女性はだいたいお弁当だから、お昼別でいいかどうかあえて確認した。拒否られた。単に気を使ったのか、それ以上の意味があるのか・・・?

 当日、なんやかんやでもともとの職場の近くで昼食をとることになった。正直、俺もどういう態度でいればいいのかわからなくて。二人の事情を知ってるのかわからないが、実際同期が店に入ったとき

「デート、デート」

なんて相手に言ってるんだものな~。どこまで本気なんだか・・・。ここでデートの真似事に付き合っても、その後の彼女が辛くならないと確信がもてるなら、彼女の言葉に乗ってあげてもよかったんだけど、正直、自分でもなんともいいようのない態度を取ってしまったと思う。それはそれで、彼女が悲しまなければよかったんだが。

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