第2話 行き場のない想いに

異動先の部署に、同い年の女性がいた。

結構人気のある子で、異動前の部署の先輩から合コンのお膳立てを頼まれていた。個人的にはそういう席が苦手で、嫌だなぁと思いつつ、義理は果たさないとと思って、その部署に元からいた同い年の同僚に、彼女を誘ったら受けてくれるかと聞いてみたところ、そういうのは参加しないという答えが返ってきた。その同僚も彼女を狙ってたと知ったのはだいぶ後の話だ。

彼女は、俺が異動して一年ほどで結婚した。相手は別の会社の人間だった。うちの会社でそうとう怨み節があったのかも知れないが、俺の耳までは届いていない。俺も同僚として結婚式に呼ばれた。

やがて子供ができ、彼女は産休に入った。

復帰してしばらくして、どうやら彼女に好意を持たれているのに気付いた。たぶん、気のせいではないと思う。だからといって、こちらからはなにもできないので、ただただポーカーフェイスを貫いた。

彼女が異動になって、正直ほっとした。結局のところ、俺にはどうしてやりようもなかったからだ。

さらに何年かたって、俺も改めて異動になった。偶然にも、彼女も異動になった。同じ部署ではなかったけど、毎日顔を合わせることのあるほど近い部署だ。

その年、彼女は会社を辞めた。

(やっぱり俺のせいかな?)

と思った。共稼ぎで働きやすい会社だし、あえて辞める理由って、他に考えられなかった。

(むしろ、ちゃんと言ってきてくれればよかったのに)

と思った。

そうすれば彼女の気持ちは受け取った上で、きっぱりと断ってあげられたのに。そうすればわざわざ、仕事を辞めなくてもよかったのに。

別に聖人君子ってわけではない。めんどくさい人間関係嫌いなので、不倫なんて究極にめんどくさい人間関係はごめん被りたいというのが一番の理由だ。

あともうひとつは、女房を寝とられるのは旦那の力量の問題とも言えるけど、子供から親は奪えないと思ったからだ。母親はもちろん、父親もね。

後で、渡辺麻友と稲森いずみのダブル主演のドラマ「書店ガール」で似たようなセリフがあったので、やっぱそうだよねと共感した。

俺からは先回りして、言えないよな。かえって火をつけちゃうかも知れないし。

逆に彼女からも、言えないよな。俺みたいな反応するのって、たぶんレアケースだろうから。

何年かたって、同年代の社員が集まったときに、彼女がなぜ辞めたかという話題になったことがある。

その時ある女性が

「本当かどうかわからないけど」

と言いかけて

「忘れちゃった」

という思い切り不自然なことを言った。

まるで

「結婚してるのに別の人が好きになっちゃって、その人と顔を会わせられなくなって辞めた」

と言おうとして、当事者が目の前にいるのに気付いて、やっぱ言えないと思ったかのように。

今でも時には振り返る。彼女に何がしてあげられたんだろかと。

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