010 椿の花に君を想う【2月8日つばきの日】
椿という花は好きじゃない。
遠い昔に恋したあの人を思い出すから。
ゆるやかに髪を結い上げ、椿の花を挿していたあなた。
矢絣の着物に紺色の袴、綺麗に編み上げたブーツで庭を、道を、駅を走り抜けた。
あなたは夢だった職業婦人となったが、すぐに幼い頃からの許婚と結婚し家の中に押し込まれた。
庭師の僕はあなたの目から光が消えていくのを見ていることしか出来なかった。
「椿、綺麗ね」
いつかの冬の日、貴女が声をかけてくれたのをよく覚えている。
「散るときは首ごと落ちるのよね。潔いわ」
儚く笑っていたあなた。
このときには覚悟を決めていたのだろう。
椿のように散っていった貴女の命日には、椿を飾り手を合わせるのが毎年の僕の決まり事。
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