第12話 無事
夜がふけた頃、冬夜は基地に戻る。基地には斗狗と悠人がいた。悠人は近くのソファですやすやと小さな寝息を立てており、斗狗は椅子に座って冬夜の帰りを待っていた。
「おかえり、梅香ちゃんの怪我の具合は?」
「ちょっと首を切られただけでそこまで深くはなかった。つか、いいのかよ。お前も怪我してんだろ」
言いながら冬夜も椅子に腰掛ける。斗狗は自分の腹を冬夜に見せた。斗狗の腹には包帯がしっかりと巻かれていた。
「だいぶ深くやられたよ。……まあ、無理に動いたから余計に開いちゃったんだけど」
「ああ……悪かったな、取り乱して」
♢
目の前で梅香の首を切られた冬夜は乱心した。意識を失い倒れ込む梅香を抱え、冬夜は必死に叫ぶ。
「梅香! しっかりしろ、梅香!」
その様子をじっと見つめるキラーの真横から銃弾が飛んできた。咄嗟に避けるキラー。ピストルを撃ったのは斗狗だった。息を切らし、自分の腹を押さえながらもその銃口はまっすぐキラーの方を向いていた。
「ぼさっとしてるなよ、ベテ」
キラーを睨みつけながら冬夜に訴えた斗狗。冬夜はハッと気づき梅香を地面に寝かせると、小剣を手にキラーに向かって走り出した。斗狗は冷静に考える。冬夜が真向かいから来ている。そうなればきっとキラーは……。
斗狗はキラーが動くと踏んだ方向に向けてピストルを撃った。キラーは冬夜の攻撃を避ける。
「お返しだよ」
キラーに笑いかける斗狗。斗狗の弾がキラーの腹部をかすめた。キラーはよろめきながら地面に向けて小さな玉を投げる。玉が地面についた途端に割れ、中から大量の煙が噴き出した。全員が目をつむる。煙が消え、目を開けるとキラーはもういなくなっていた。
♢
その後、冬夜は急いで梅香に駆け寄り、処置を施した。斗狗と悠人は先に基地に帰り、自身の怪我の治療を急がせた。そして冬夜は梅香を部屋に運んで、そのまま梅香の目が覚めるまでずっとそばについていたのだった。
今もなお震えている冬夜を見て、斗狗は静かに言った。
「……無事でよかったよ、全員」
その言葉で冬夜は全員が生きてるんだと心の底から実感した。途端に震えが止まり、冬夜の脳裏から星子の姿が消えた。そして静かにやわらかな笑みを見せた。
「ああ」
「よかったね、梅香ちゃんが無事で」
「うお! お前、起きてたのかよ!」
ソファで寝ていたはずの悠人の言葉に思わずびっくりする冬夜。悠人は目を開け「んー、よく寝た」と左腕だけ上げて伸びをした。起き上がる悠人だが、やはりまだ右肩を痛そうにしている。
すると突然斗狗が「あ、そうだ」と言いながら立ち上がった。
「二人に見せたいものがあったんだ」
そう言って悠人と冬夜に一つずつピストルを配り始めた。冬夜はそれをまじまじと見つめる。
「なんだこりゃあ、おもちゃみてぇだな」
「密かに作ってたんだ。キラー確保のために」
不気味な笑みを浮かべながら、斗狗は弾倉から球を取り出した。プラスチックで出来た円柱の容器の先端に小さな針がついている。それはまるで注射器のような見た目をしていた。
「なんか注射器みたい」
「そう、これでキラーの『血液』をとるんだ。血液をとって調べれば、キラーの正体が掴めるかもしれない」
「おお、すごい」
悠人がキラキラした笑顔で斗狗からもらったピストルを眺める。冬夜は「ふーん」とピストルを懐に入れると立ち上がる。そしてゆっくりと歩き出した。その様子を見て、悠人が静かに口を開いた。
「やっぱりまだ熱あるんだ」
冬夜の足がふらふらしていたのだ。冬夜はしばらく悠人を睨みつけるが、諦めたように息を吐く。
「明日には治ってるさ」
そう言葉を残し、冬夜は自分の家に帰っていった。その背中をぼうっと見つめていた悠人は斗狗に声をかける。
「ねぇ、キラーってさ、冬夜には攻撃しなくない?」
「ん、そうかな?」
「なんか冬夜との接敵を避けてる感じがする。だってボクたちは傷を負ったけど、冬夜は無傷だよ?」
「確かに言われてみたらそうかも……」
悠人の気づきに、斗狗も唸る。
「……冬夜に対して、キラーは何を思ってるんだろ」
✳︎
コンクリートで出来た廃墟。満身創痍の状態でこの根城へと戻ってきたキラーは苛立ちを周りにぶつける。そばにあったアルミ缶を蹴ると、大きな音が鳴り響いた。キラーの脳裏に浮かぶのは梅香の怯えた表情と冬夜の焦った顔。屋上へと行き、空を眺める。空には綺麗な星がいくつも浮かんでいた。
「冬夜……次はあの子のこと殺しちゃうからね……。しょうがない、存在を知られてしまったんだもん。見逃すのは……今日だけだよ」
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