第11話 vsキラー
悠人は立ち上がった梅香の右手をしっかりと掴んだ。そしてへらっと笑う。
「ボク、喧嘩は得意じゃないんだけどなぁ」
悠人は懐からピストルを取り出すと、キラーに向けて撃った。しかし遠くにいるキラーに当てることはできず、キラーは反撃をしかけに建物から降りる。一瞬で嫌な気配を感じ取った悠人は、梅香の手を引いて走り出した。そして通信機に向かって叫ぶ。
「エリアCにキラー出没!」
悠人が振り返るとキラーはすぐそこまで迫ってきていた。
「繰り返す! エリアCにキラー出没! 誰かたす──」
銃声が響き渡った。キラーが放った弾が悠人の右耳をかすめる。その衝撃で耳についていた通信機が壊れた。
「ぐっ……!」
よろめきながらも梅香の手はしっかりと掴んで離さない。
「悠人くん、大丈夫ですか!?」
「へ、へーき、へーき」
悠人の怪我を心配する梅香に、悠人は優しく笑いかける。
これ以上逃げることはできないと悟った悠人は梅香を背中に隠し、キラーにピストルを向けた。
「梅香ちゃんはボクが絶対に守るからね」
悠人はキラーに向けて発砲した。それをさらりとかわしたキラーは小型ナイフを手に、悠人に向かっていく。
「ふせろ!」
そう声がした。悠人は咄嗟に梅香と共にしゃがみ込む。するとその上を銃弾が通過し、避けようとしたキラーの左腕をかすった。避けていなければ確実に心臓に当たっていたであろう。そう感じたキラーの背筋が凍る。
キラーはピストルを撃った相手を睨みつける。悠人たちの奥では、ピストルを構える斗狗がいた。
「待たせたね」
斗狗の登場に悠人は安堵の表情を見せた。
「プロキオン、梅香ちゃんを連れて逃げて。ここは僕が食い止める」
悠人は梅香と共に斗狗の横を通過し、逃げた。対峙する斗狗とキラー。
「またあんたかよ……」
キラーはそう呟くと、斗狗に向かって走り出した。斗狗はキラーに向けて二、三回発砲するが、キラーはそれを綺麗にかわしていく。そして斗狗の腹部を狙いにいった。斗狗はそれを避けようとするも避けきれず、右脇腹が裂ける。
「……っ」
とめどなく血が流れ、程なくして斗狗は地面に倒れた。キラーはそんな斗狗を嘲笑う。
「はっ、あっけな。なんだっけ? 食い止める、だっけ。出来んの? 無理だよね。接近戦が苦手なことくらい、もう知ってんだよ」
斗狗は声も出せず、ただ悠人たちの後を追うキラーの背中を睨みつけていた。
✳︎
そんな出来事などつゆ知らず、キラーから逃れた二人は安心しきっていた。脇目もふらずに走っていた二人は立ち止まる。
「梅香ちゃん大丈夫? 怪我はない?」
「はい、大丈夫です。それよりその怪我……」
悠人の服は耳から出た大量の血に塗れていた。心配の目を向ける梅香に悠人は笑った。
「大丈夫だよ、これくらい。ごめんね、ボクがもう少し強ければ、梅香ちゃんに怖い思いをさせずに済んだのに……」
「いえ……あたしは大丈夫です」
命懸けで守ろうとした悠人に微笑みを見せた梅香。そんな梅香の真後ろで二人を狙うキラーの姿が悠人の視界に映った。
「梅香ちゃん!」
叫びながら咄嗟に梅香の前に出た悠人。銃声と共に悠人は地面に崩れ落ちる。右肩にキラーの弾が当たったのだ。地面に倒れ込んだ悠人は、梅香を見つめる。梅香は戸惑い、固まっていた。
「に……げて……」
そう言葉にするも、梅香の足は動かない。キラーはナイフを手に、梅香に向かっていく。地面に突っ伏した悠人は梅香に叫んだ。
「逃げて梅香ちゃん!!」
梅香がハッとした時、キラーがナイフを振り下ろしていた。
──ガキンッ
梅香の目の前に現れたのは、息を切らした冬夜だった。冬夜の小剣とキラーのナイフがギリギリと音を立てる。冬夜は目一杯の力を込めて、キラーのナイフを弾いた。
冬夜は舌なめずりをすると、キラーに向けて小剣を振り回した。キラーは避けるのに精一杯で反撃する隙もない。小剣がキラーの首をかすった。そして互いに距離をとる。
「と、冬夜くん熱は!?」
「んなもんすぐ治ったわ! ってなんで知って……あ、プロキオンてめぇ言ったな! 言うなって言っただろ!」
二人がそんな会話をしていると、キラーが間合いを詰めてきた。それに気づいた冬夜が反撃をしようと試みる。
「冬夜じゃないんだよ……」
そう小さく呟くと、キラーは冬夜の小剣をひらりとかわした。そして梅香の首を狙ってきた。梅香に手を伸ばす冬夜だが、その手は届かない。
「梅香!!」
冬夜の脳裏で梅香と星子の姿が重なった。再び冬夜の守るべき人の命を、キラーの手によって奪われようとしている。また目の前で人が死んでしまうかもしれないという恐怖感が冬夜を襲う。そして──
✳︎
「……ん」
梅香は鋭い痛みで目が覚めた。ガタッという音が聞こえ首を向けると、冬夜が心配した表情で立っていた。
「梅香……大丈夫か……!」
梅香はゆっくりと起き上がり、周囲を見回す。今いる場所が自室のベッドの上であることを確認した。そして自分の首に包帯が巻かれていることも。近くの机の上には水色の宝石のネックレスがしっかりと置いてあった。
「あれ……キラーは……?」
「なんとか追い払った。すまん、ちゃんと守ってやれなくて……」
そう言葉にする冬夜の体は小さく震えていた。梅香は首を押さえながら、へらっと笑ってみせた。
「大丈夫ですよ、怪我には慣れてるので」
冬夜は少し悲しげな表情を見せた。それが何を意味しているのか、梅香には理解できていない。
「じゃあ、また──」
「あ、あの……」
窓から立ち去ろうとする冬夜を梅香が止めた。その頬はどこか赤らんでいるように冬夜には映って見えた。
「な、夏祭り、一緒に行ってくれませんか……!」
「だめだ!」
思わず口に出し、ハッとした。まだ冷え切っていない頭を落ち着かせようと小さくため息をつく。
「大体、なんでオレなんだよ。つか、狙われてるんだからそんな容易く外に出るなよ」
「みんなも呼んでいいので!」
「そういうことじゃねぇよ!」
こんな状況で遊びに出かけるなど危険すぎる。だが梅香の真剣な眼差しに負け、冬夜は諦めたようにため息をついた。
「……わかったよ。あいつらも呼んできっちり守らせてもらうからな」
冬夜は梅香の頭をポンと撫でる。梅香の頬が真っ赤に染まった。
強い風が吹き、梅香は目をつむる。風がやみ、梅香が目を開けた時にはもうどこにも冬夜の姿はなかった。
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