第5話 お礼
次の日の下校途中、梅香は冬夜をカフェに誘った。最初は嫌がっていた冬夜だったが、笑顔で誘ってくる梅香を断ることなどできず、渋々冬夜は梅香とカフェに入る。カフェに入ってから随分機嫌が良さそうな梅香。ずっとにこにこしながら冬夜に話しかけている。冬夜はその話を聞き流しながら、窓の外の雑踏を眺めていた。
そしてそんな二人の様子を遠くから眺めるのは、シリウスとプロキオンだった。プロキオンは冬夜を面白がって見ていた。
「梅香ちゃん、あんなにアタックしてるのにベテルギウスは完全に無視してるよ」
「気づいていないんだろ。あいつ、恋愛に関しては鈍感だからな」
「でもさぁ……」
プロキオンは冬夜から視線を外し、シリウスをじっと見つめる。
「なんか、恋愛に対して後ろ向きな感じしない?」
✳︎
カフェに入ってから一時間ほどが経った頃、梅香が言った。
「昨日のネックレスのお礼がしたいので。今日はあたしが払います!」
「いーよ、別に。年下の女子に奢られるオレの気持ちも考えろ。……つか、本当にそのネックレス大事なのな」
冬夜はブラックコーヒーを片手に梅香に返す。梅香はアイスカフェラテを一口飲むと、首にかけているネックレスをいじり始めた。
「これ、あたしのお母さんの形見なんです。もうこれぐらいしか形見が残っていなくて……」
冬夜はコーヒーをすする。梅香は冬夜に満面の笑みを見せた。
「だから、本当に見つけてくれてありがとうございます! 冬夜くん!」
『冬夜くん』
梅香の笑顔を見つめたまま、表情が固まった冬夜。ジトリと汗が滲みでてくる。それは明らかに動揺している様子だった。その雰囲気は梅香にも伝わり、梅香は心配そうな表情で冬夜を見つめる。
「……冬夜くん?」
冬夜はハッとすると、何かを振り切るようにコーヒーを勢いよく飲み干した。
「……な、なんでもねぇよ。もう……帰るぞ」
そう言うと冬夜はたち上がり、さっさと会計を済ませてしまった。何か気に障ってしまったのではないかと心配する梅香だったが、聞くのもはばかられて何も聞けずに梅香はそのまま冬夜とカフェを後にした。
✳︎
次の日。学校が休みのため梅香のボディーガードをしなくて済む冬夜はプロキオン、シリウスと共に街を歩いていた。と言っても仕事のためではない。たまにしかない休みを過ごすためだ。プロキオンが茶化すように冬夜に話しかけた。
「昨日、梅香ちゃんとデートしてたね、冬夜」
「うるせぇよ、悠人。デートなんかじゃねぇし。つかお前ら見てたのかよ」
「梅香ちゃんは冬夜のこと、随分好いているみたいだったけどね」
「斗狗までオレを茶化すのかよ。梅香がどう思っていようがオレには関係ないだろ」
コンビニに入った三人は話を続けながら飲み物コーナーを見る。
「ボクはコーラにしよっと。そういえば冬夜、昨日ブラックのコーヒー飲んでたけど、冬夜って甘党じゃなかったっけ?」
冬夜は焦りながら悠人に言葉を返した。
「さ、最近飲めるようになったんだよ! つか、そんなとこまで見てんなよ!」
そう言いながら手にしたのは超甘いことで有名なコーヒーだった。その様子に悠人はくすりと笑う。斗狗はそんな二人に興味なさそうに抹茶ラテを選んだ。冬夜はお菓子コーナーに行き、飴玉を眺める。悠人もひょっこりとついてきた。
「今日は何飴?」
「いちごだな」
冬夜は大袋のいちご味の飴とコーヒーを買うと、外に出て早速飴玉を食べ始めた。悠人と斗狗もそれぞれ飲み物を買い、外に出る。そして三人でまた街をぶらぶらと歩き始めた。ボリボリと音を立てて飴玉を食べる冬夜を羨ましそうに見つめる悠人。
「ね、ボクにも一個ちょうだい」
「やだ」
「ケチだなぁ。梅香ちゃんには優しいのに」
冬夜は悠人をギロリと睨みつけた。悠人は怖がる様子もなく笑顔だ。
「なあに?」
「さっきから癪に障んだよ」
「梅香ちゃんの話をするとすぐ怒るんだから」
ふんと鼻を鳴らした冬夜に対して、悠人は核心をつくように冬夜に尋ねた。
「冬夜が恋愛に対して後ろ向きなのはどうして?」
冬夜が立ち止まった。悠人は表情を一切変えずに続けた。
「ストレスが溜まった時の癖が出てるよ」
そう言って口元を指差す悠人。冬夜はしばらく悠人を睨むとまた飴玉を噛みながら、歩き始めた。
「キョーミないから」
斗狗は小さくため息をついた。
「悠人、ちょっと冬夜のこと怒らせすぎたんじゃない?」
「でもさぁ、あれじゃあ梅香ちゃんがかわいそすぎるじゃん。冬夜が恋愛に対して前向きになれたらって思ったんだけど……。斗狗はなんか知らない? 冬夜が恋愛に対してどうして後ろ向きなのか」
「僕は冬夜に興味ないからね」
斗狗は冬夜の後を追って歩き始めた。悠人はそんな二人の後を追いながら小さく呟く。
「ボクには我慢しているようにしか見えないんだけどなぁ……」
✳︎
その日の晩。基地の近くにある小さな小屋に帰ってきた冬夜。勢いよくベッドに倒れると、ぼうっとスマホを眺める。しかしすぐにやめ、仰向けになると天井を眺めた。
『冬夜くん』
目をつむるとすぐに浮かぶあの人の笑顔。黒の長髪をなびかせ微笑む女性の顔だ。
『私はその髪色、すごく好きよ』
そんな言葉を思い出しながら、冬夜はいつしか眠りについていた。
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