3本目 挨拶
「今日からまた新しく2人の新入生が仮入部しに来てくれました〜!!じゃあ、挨拶よろしく!」
先輩、おそらく部長、が俺たちのほうを見て合図をした。俺は部員の前に立って自己紹介を始める。
「初めまして、北沢中学校から来ました、河野勇太です。走り幅跳びが専門ですが、短距離でも大会に出てました。このまま入部するつもりです。よろしくお願いします。」
ぺこりと一礼して後ろに下がる。隣にいるもう1人の新入生を見る。若菜さんは俺より一足先に、高校入試が終わって直ぐに入部させてもらっていた。本人曰く、「早く入部したかったし、どうせ受かってるから直談判しに行った」らしい。強い、かっこよすぎる。そんなわけで今俺の隣にいるのは若菜さんではない。
「こんにちは、初めまして。綾瀬ましろです。中学生の時は水泳部だったので陸上の経験はありません。走るのが好きなので短距離か、中距離…?に興味があります。えっと…県外から来て知り合いがいないので仲良くしてくださると嬉しいです。とりあえず仮入部、よろしくお願いします。」
少し緊張しているのか隣の少女はおどおどしながら自己紹介をしていた。綾瀬さんか、仲良くできるといいな、なんて思いながら横を見ると目が合ったので軽く会釈する。相手も返してくれた。ああ、いい人そう…。すぐに目、そらされたけど。
「じゃあ、2人ともよろしくね!皆、歓迎の意を込めてはい、拍手~!」
部長らしき人がそういうとパチパチと拍手が起こった。部員数が少ないから音はそこまで大きくないがぱっと見全員が拍手してくれているようで嬉しい。雰囲気すごくいいな。
「初めまして、部長の夏川旭です。分かると思うけど一応3年生!で、専門は400mと200m。今日からよろしく!」
さっきまでの様子でムードメーカー的なタイプの人かと思っていたがそれだけじゃなくて意外としっかりした面もあるらしい。とても丁寧に自己紹介をしてくれた。
「「よろしくお願いします!!」」
俺と綾瀬さんは同時に、勢いよく頭を下げた。顔を上げると満面の笑みの夏川先輩がいた。
「綾瀬さーん!!」
若菜さんがこっちに走ってくる。今はアップ…ランニングが終わって準備体操もして、ストレッチ中だ。
「こんにちは!私、若菜雅です!ねえ、ましろちゃんって呼んでいい??」
「い、いいですよ…?」
あ、綾瀬さん、困ってる。まあ、こんなにぐいぐい来られたらそりゃそうか。
「やった!私のことも下の名前で呼んでいいからね!」
「じゃあ雅ちゃんで…。」
「かわいーいー!ねえ、身長何センチ?」
「し、身長…?」
何を聞いてるんだ若菜さんは…。見てる側もちょっとハラハラする。
「抱きつくのに丁度よさそうなサイズだから!嫌味じゃなくて、そんくらいかわいいってこと!」
「148センチです…。」
可愛い~!とまた声を上げる。ちらりと綾瀬さんの方を見ると困ってはいるが嫌がってはいなさそうでちょっとほっとした。
「ねえ、綾瀬さんは中学の時水泳部だったって言ってたよね?」
若菜さんの可愛い攻撃から救うべく、綾瀬さんに声をかけた。
「そうですね。」
「なんで陸上部に仮入部に来たの?ほら、今日って仮入部期間初日じゃん。」
何が言いたいのか分からない、という風に綾瀬さんは首を傾げる。
「まだ考える期間結構あるし、実際まだ部活決めてない新入生たくさんいるじゃん?そこら辺にも見学の人いるし。」
「はい…。」
「初日に陸上部仮入部決めるって入学式前からもう決めてたのかなって思ってさ。水泳はもういいの?」
綾瀬さんはああ、そういうことか、とつぶやいて答えた。
「水泳は実は年長の時からやっていて、なんかもう満足かな、って思って。あと、この学校入部必須じゃないですか。体動かすの好きなんで運動部に入ろうと決めたんですけど球技は得意じゃないしチームスポーツは足引っ張りそうで…。」
水泳以外初心者ですしね、と笑って続けた。
「それで体ひとつでできるスポーツがいいな~、と思って陸上競技部に仮入部しようと思ったんです。」
「成程~、つまり消去法ですな?」
若菜さんがにやにやしながら言った。
「す、すみませんっ!」
綾瀬さんが申し訳なさそうに顔を下げる。
「若菜さん~、そんな困らせちゃダメでしょ~!!」
俺がそういうと若菜さんはごめん、つい、可愛くて、と言って謝った。
「俺が陸部入ってるのだって小学生の時からやってるからっていう単純な理由だし、俺から聞いといてなんだけど理由なんて関係ないよ!それよりそのまま本入部してくれると嬉しいな!!」
綾瀬さんは前向きに検討します、と笑ってくれた。
「若菜ちゃん、マネの仕事するよ~!」
俺たちが雑談(一応ストレッチ中だから無駄話とも言う)をしているとマネージャーの宇佐美先輩がやってきた。
「あっ、凛子さん!すみません。全然周り見えてなくて…。」
若菜さんは直ぐに立ち上がって先輩に謝った。宇佐美凛子先輩は3年生で色素が薄めのふわふわな髪の毛が特徴的なマネージャーさんだ。
「全然いいよー、新入生は昨日まで若菜ちゃんだけだったし、テンション上がっちゃうのもしょうがないよ!でも、もうそろそろ体幹トレーニング始めるから二人も準備してね。」
俺たちは返事をして急いで準備を始めた。
グラウンドの方を見ると部員たちはタータンの上で体幹トレーニングをしているようだ。勇太も若菜もとても部に馴染んでいるように見える。新入生であろう女子ともなんだか仲良さげに話していた。
「…そろそろ、帰っていいかな。」
陸上競技部に入らないとなるとどこか別の部活に入らないといけないことになるから部活見学しに歩いた方がいいのだろうが、今日はなんだかとても疲れているから帰りたい。幸い、見学・仮入部期間は2週間ある。また明日以降に考えよう。立ち上がって下半身についた土をはらう。2人には申し訳ないけど決めたことだし、仕方ないよな。そんなことを考えながら陸久は校門に向かって歩き出した。
此処でひとり、刹那をきみと 天羽 宇月 @1356421Am
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