未完成の家族

「まさか、そんなわけないでしょ。」

「違うの。そんなわけあるの。

子供の頃、おばあちゃん家に預けられていた時、室堂でいつも遊んでもらってたの。だから、私たちにとって、室堂平というのは思い出の場所。だから、そこにお姉ちゃんがいたとしたも、全然おかしくない。……生きてるかどうかはわからないけど。」

私は大きく息を吸いました。

「だから、私、室堂平に行くことにしたの。」

あいちゃんは、わけがわからないという様子です。当然の反応でしょう。

私が小学校6年生の時の冬、室堂平を含む富山県一帯に、予想だにしなかった未曾有の大雨が、突然降りました。雪が積もるだろうと言われていた日でした。すでに雪で覆われていた高山である室堂では、雪崩が複数発生。それだけでなく、 土砂災害も起こりました。山に取り残されていた登山客が、何百人も死にました。丈の短い小さな花々が咲き誇る室堂は、あっという間に、今では立ち入り禁止区域に指定されているほど、滅茶苦茶になりました。

あいちゃんは言いました。

「馬鹿じゃないの!」

私は言い返しました。

「そうよ、私は馬鹿よ!でも、許して欲しいの。

まだ私の話は終わってない。まだ続きがあるの。」

そう言うと、あいちゃんは不満そうな顔をしながらも、黙って私の目を見ました。

「お姉ちゃんを探しに行くの。それは、私のためだけじゃなくて、友希姉のためでもあるの。

友希姉は、病気になっちゃったの。お母さんが出ていったから、友希姉は18の時からずだと、私と紗希姉を養ってくれてた。養わなくちゃいけなかった。たぶん、そのプレッシャーとか、職場のストレスとか、そういうのが重なったんだと思う。友希姉は、今年の春、パニック障害になっちゃったの。」

「パニック障害……。聞いたことある。」

「だからね、友希姉のために、私は紗希姉を何としても見つけたい。奥田さんに依頼した1番最初の時は、ただ単に紗希姉に帰ってきて欲しいっていう気持ちだけだった。でも今は違う。何としても私と奥田さんの力で、私は紗希姉を見つけるの。」

「のぞみん、本当に大丈夫なの?小さい頃山で遊んでたって言ったって、それは何年も前の話でしょ?」

「ただでさえ冬の室堂は立ち入り禁止。あの豪雨の後は年中立ち入り禁止。そんな所に行くの、自殺しに行くのも同然だよ。お姉さんのことはわかった。でも私は、のぞみんが心配だよ。」

あいちゃんの瞼が、ぴくりと上に動きました。

「そうだ。私もついていくよ。奥田さんだって中学生女子がのこのこ一人で登山だなんて、心配でしょう?」

「そうだな。」

奥田さんは思案顔です。

「ここにいる三人と、あと日本の山に詳しい奴を探して、そいつも連れて行こう。いくらなんでもお前一人で行かせるわけにはいかない。」

嗚呼。皆どうせ分かってるでしょ。なんでそんなに私に構うのよ。私は涙が出そうでした。

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