私と君の共同作業②
1組とは違う音色の歓声が大空に響きわたっています。嗚呼。
私が応援席に目をやると、総立ちでした。そのくせクラスのみんなの表情は晴れません。ああ、ごめんなさい、私のせいだ。私がもっと速く走れたら。
今まで私は学校で何をしていたのだろう。ちゃんと通ったつもりなのに。毎日学校へ行って一体何を得たのだろう。
みんながうらやましい。なんで私ばっかり苦しまなきゃいけないの。私だってもっと青春ぽいこといっぱいしたかったのに。中学生にだってたくさん楽しいことできたはずでしょう?まだ身分は中3だけど、もう私は手遅れだなんて、そんなことは聞きたくないけど私はとっくに分かってる。
「のぞみん、大丈夫?」
あいちゃんの呼び掛けで、私ははっと我に返りました。だめだ、今そんなことを考えちゃ。
「やっぱのぞみんだって本当は1位取りたかったでしょ。顔に書いてある。」
「最初あんないい感じだったしね。ちょっとは燃えたよ。」
「でしょ、燃えるんだよ体育大会ってのは。それが楽しいの。この後はえーと、障害物リレー、選抜リレー、生徒会企画の長縄跳びだね。頑張ろうね。」
「もう出番終わったじゃん。何をそんなに頑張るの?」
「ちっちっちっ。選抜リレーをなめちゃああきまへんで。」
「唐突に関西弁。」
「盛り上がるでぇ!」
――「よーい、」
バンっ
号砲が鳴った。桜木さんがスタートダッシュを切る。さすが選抜メンバーなだけあって凄まじいスピードでグラウンドを駆け抜ける。風を切って走っている。あっという間に第一走者のレースは終盤を迎える。希望は藍子に倣って声を張り上げる。3位で最終コーナーを通過する。このリレーではコーナートップ制がとられている。
町田くんにバトンを渡す。パスは流れるように行われる。町田くんの走りもとんでもなく速い。希望には到底真似できそうもない。直線に入り、追い風になる。さらに速くなる。希望の見る景色が輝きはじめる。一人抜いた。2位になってコーナーを回る。
バトンを持つ手を思い切り伸ばす。再び流れるようなバトンパスが行われ、吉田さんがスタート地点から走り去ってゆく。脚が円で描かれる漫画の絵のように、男子に引けをとらないペースで走る。どんどん1位を追い上げてゆく。
まだ抜かせない。でも確実に1位は見えている。さっき転んだ岬くんへ、バトンと共に走り終わった3人の気合いが手渡される。傷ができた両足で懸命に走る。
怪我をしていても速い。さすが選抜のアンカーだ。岬くんは、やはり痛いのか苦悶の表情で走っている。
クラスメイトも必死に声をあげる。頑張れ、気合い出せ、あんたならできる。スピードがどんどん上がる。ものすごい勢いで走る。そして、抜かした。最終コーナーをなんとか1位で通過する。
あと少し。あと少し。あとほんの少しで1組は1位になれる。頑張れ。
希望は祈る。なんとか岬くんがこのまま1位でゴールできますように。
岬くんがゴールテープを切る。みんなのボルテージは最高潮に達する。
桜木さんが泣いている。それにつられて岬くんも泣き出す寸前の子供のような表情になる。
希望の目にも、うっすらと光るものがあった――
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