4-7
部室へと戻ってきた時永琴夜、轟遊奈、および篠宮天祷。
長机の前に腰掛けたアマトは右隣の琴夜、左隣の遊奈を見て、
「さてと、世界の終幕(笑)とやらは免れたけど、まだ根本的な問題が残ってる」
琴夜は目元を赤く腫らしながらも、ムカッとアヒル口で、
「今、こっそりバカにした感じだったけど、実際危なかったんだからね」
琴夜と同様、遊奈も目元を赤らめつつ、ちょこんと首を傾げ、
「しのみー……、根本的な問題って……なに?」
「そんなの二人の仲直りに決まってる。それやらなきゃ、時嬢部はリスタート切れないし」
「仲直り」、その言葉を受けた二人の女の子は、気まずそうにぎこちなく目を逸らす。
「思い込み、なんだろ。仲が拗れたのって」
チラッと、琴夜はアマトに視線を向け、
「思い、込み? それ、飾音ちゃんの件でも……?」
「お嬢様のことは凪沙や姫様の話くらいしか知らないけど、『神様』と『死神』って立場的に対立を義務付けられているらしい。で、それが続けば『私のこと嫌ってるのかな?』、『距離置かれてるのかな?』って思い始める。それが重なって今に至るわけだ」
影を纏うように、遊奈は寂しげに目を伏せ、
「でもあたしたち、変わっちゃったし……。もう、昔みたいにはいかないよ……」
「それも思い込みの一つ。たしかに琴夜は『神様』の目を植えられて、遊奈は性格が悪くなった。でも、二人は互いのことを嫌ってない。嫌ってたら今日のことなんて起きないだろうし」
「ねえ、あたしのこと軽くディスったよね?」
「結局、二人も凪沙とひかみんの関係と近いんだよ。第三者が割って入れば解決できる」
「解決できるって言っても、どうすれば……」
アマトは天井をピンと指差し、不安など知ったことかとでも言いたげな、得意げな顔つきで、
「さっきも言ったけど、言葉で伝えないからああなったんだ。だからここで、それぞれの想いを隠さず伝えてみよう」
とは言えど、琴夜、遊奈はカァァと頬を染め、もじもじと身をうねらせ、
「ちょっとアマトくん、恥ずかしいからぁ……」
「しのみーは女の子の告白を見てニヤけるタイプでしょ? んもぉ……」
「ハァ? 俺を巻き込んどいて逃げるなよ? どれだけ周りに迷惑をかけたと?」
図星を突かれたようにうっ、と押し黙る両者。
が、勇気を出して先に口を開いたのは――――、
「あたし、時永さんとまた一緒に過ごしたい。あの時みたいに、ね? 神様とか死神とかさ、しのみーの言うとおり関係ないよ、うん」
遊奈の真っすぐな言葉を受け、やりどころのない羞恥を顔に含みながらも琴夜は、
「私だって、轟さんとやり直したい。今まで気まずいとか思い込んでたけど、これを機に……変わりたいです。それと、謝らなくちゃいけないことも……」
彼女は申し訳なさそうに身体を縮め、
「勝手な思い込みで轟さんを避けてたこと、ごめんなさい。それと先週の土曜日、せっかくの二人の時間に水を差して……ごめんなさい」
後者の謝罪は、アマトに向けても丁寧に頭を下げて述べた。
「土曜日の件は、文学部解散の原因を作った遊奈が俺といることで、時嬢部もひょっとしたら……って思っての行動だろ? つまり、その原因を作った遊奈にも非がある」
遊奈は琴夜、さらにはアマトに対しても深々と頭を下げ、
「あたし、マンガやアニメ見たいって理由で西春くんと付き合いました。今思うと自分勝手でワガママな行動でした。ごめんなさいっ」
「だろうとは思った。あの遊奈が太ったアニオタ普通科の男と付き合おうだなんておかしいと思ったし」
「……何気にしのみーも酷くない? 仮にも元部活仲間にその言い草?」
「ぶっちゃけアイツ調子乗ってたし、ほれ見ろって気分。ま、俺は遊奈に頭を下げられればそれでいいし」
「む~っ。あたし男子に本気で頭下げたの、初めなんだからっ」
とは腕組みでぼやきつつも、満更でもなさそうに遊奈の顔つきは柔らかい。
するとその時、琴夜はアマトにビシッと指を差し、
「こーら、私たちだけに頭を下げさせるのはダメですー。キミだってしっかり頭を下げてくれないとダメなんだからね」
「わかってるよ」、アマトはバツの悪そうな顔で茶髪を掻きながらそう呟き、ストレートに頭を下げ、
「さっきはごめんなさい。次からはもっとクレバーな方法を取りたいと思います」
珍しく皮肉や嫌味を含むことなく、彼は謝罪を口にした。
しかし頭を下げても、何の反応も起きず、
「……?」
アマトは眉をひそめ、おもむろに顔を上げれば、
「くすっ、あのアマトくんがマジメに頭を下げてる。なんだろ、ちょっとおかしいかも」
「うふふっ、あたしも見たことないかも。しまった、写メ撮ればよかった」
両隣の女の子は、なぜか笑っていた。
「ったく、何がおかしいんだよ……。俺、マジメに頭下げたんだけど……?」
だけれども、上辺だけとはとてもじゃ言えない二人の笑みを目に入れて、
「……ははっ」
不思議と彼女らに釣られて、アマトの頬も緩んだのであった。
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