3-8

 翌日。


「やっぱ喫茶というからには、パフェという名の宝石箱が不可欠っしょ? ザクザク掘るごとに違う顔を覗けるあの嬉しさ! も~~たまらん!!」


 ぎゅ~っと目を瞑り、ぐ~っと拳を握って力説する凪沙。解かれる胸元のリボン、外れた最上のボタンからは白い肌がチラリと覗く。

 涼乃は落ち着いた振る舞いで、


「フルーツを使うのは難しくない? 食中毒でも起こしたら学校に泥を塗ることになるし。無難にいきましょうよ」

「じゃあチョコとクッキー、生クリームをメインにしたらどう? あたし的にはバナナが入ってると文句なしだけど、それでも十分においしいだろうし」

「値段も考える必要あるだろ。ファミレスの値段設定なら客は寄りつかないでしょ。それと量も少なめのほうが、出し物を回る立場には嬉しいはず」


 今は合同クラスの出し物、『スペシャル喫茶』のメニュー設定を各々が話し合う時間だ。全員が一同に参加する形式では遠慮する生徒がどうしても出てしまうからか、実行委員側が機転を利かせてこの形式を提案したのだが、


(うわ、トランプで遊んでるヤツいるし……。強制参加に反抗したいのはわかるけど、ここは大人しく話し合いの振りでもしといたほうが……)


 アマトの気がかりが的中したのか、


「ちょっとアンタら、ヤル気ないなら出てって。邪魔だからもう来なくていいよ」


 好き勝手遊ぶ男子らの前に仁王立ちした伊藤沙織は、容赦なく彼らを切り捨てた。

 一方、注意を受けた男子らはヘラヘラしながら荷物をまとめ、躊躇なく教室から去っていく。

 静まり返る教室内。一連の過程を皆が目で追うものの、伊藤の厳しい目配せにより、室内には声が次第に戻ってゆく。


(そもそも、あんな連中をこの場に参加させるなよ……。まさか、今の流れを見せたいからアイツらを参加させたのか? ……いや、考えすぎか)


 凪沙は他人事のように、冷やかし気味に陰で、


「うへー、怖いっ。伊藤ちゃんはまさかの風紀委員適正アリ?」

「あれくらい気の強い女なのは確かだろ。去年もあの辺りの男子ら、フツーに見下してたし」


 涼乃は表情にこそハッキリと出さないものの、瞼を閉じ、わずかに眉を潜め、


「一応は彼女も私の友達だし、目の前で悪く言われるのはいい気分しないから」


 が、細めた目で黒板前の張本人を人知れず見やり、


「けど、今のやり方は私も好きじゃない。反感を買うやり方なのは間違いないわ」


 アマトも伊藤、ならびに同じく実行委員の轟遊奈をひっそり見て、


(遊奈はあれでいいと……?)


 遊奈は「あれくらい厳しくても大丈夫」と伊藤にアドバイスを送っていた。伊藤も満更ではない様子。


(なんかどうにも……腑に落ちないというか……)


 曖昧な顔つきで二人を眺めていると、隣の凪沙が大胆にアマトを覗き込み、星型の髪飾りをキラリと光らせ、


「どしたの、あまっち? ぼーっとしてると伊藤サマの餌食になっちゃうよ?」

「ん、ああ、パフェの話してたっけ? たった今思いついたんだけどさ、俺んちの饅頭をトッピングするのはどう? 俺たちは安く手に入れられるし、母親的には安定して出荷できるし」


 一旦は疑心を忘れて話し合いを再開したアマトではあるが、行く末に一抹の不安をあらためて覚えたのも確かであった。


 だがしかし、そんな不安が的中したのか――――……。


 それから二日が経過した。


(……、雰囲気悪すぎだろ。おいおい、今の時嬢部か……)


 文化祭で出店する出し物のため、昨日から総勢八十人近い生徒が一同に集まり、各々の作業を開始したのだが……、


「なんかさぁ、ピリピリしすぎじゃない?」

「この前注意を受けた男子らと伊藤さんの対立が原因みたい」


 伊藤は先日教室から追い出した男子らと絶賛口論中。遊奈がその彼女を宥めるものの、火のついた伊藤には効果なし。


 この状況を涼乃は、一歩離れた場所から捉えて、


「普通に考えて、こんな状況に陥るはずないのに」


 凪沙は首を捻り、


「えー、伊藤とあのアホの不甲斐なさが招いた結果じゃないの?」


 アマトは言われもせず、あの女子一人に視線を定め、


「周りをよく見るアイツが、伊藤にあんな方法を勧めてるのはどうなんだろうな?」

「おそらく、彼女は狙ってやってるはず。あとで私が、先輩として問いただしてみるわ」

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