3-3

「凪沙ちゃん、飾音ちゃん、どこか行きたいお店ある?」


 時永琴夜は両サイドの旧友、紅林凪沙と風間飾音に問いかける。


「あたし、こないだテレビでやってた宇治金時食べに行ってみたいんだけど?」

「私は油絵用の筆を見に行きたいですね。今使っている筆が古くなってしまったので」


 お嬢様時代から親交のある三人は、休日を利用して学校近辺の繁華街を訪れていた。

 琴夜は古風な情緒漂う一本路を見通し、


「宇治金時は私も気になってたし、今から食べに行こうか。そのあと、飾音ちゃんの油絵のお店にしない?」


 と、予定を決めて和風喫茶に向かおうとしたところ、


「あれ、時永さん……?」


 背後から聞こえた、聞き覚えのある女子の声。琴夜は振り向くと、


「あ、矢作さんだ。こんにちは、こんな所で会うなんてビックリだね」


 琴夜に声を掛けたのは、クラスメイトの女子、矢作麻友だった。


「わっ、かわいいわんちゃんっ。この毛色は……、セントバーナードだね。この子、矢作さんの飼い犬? 触ってみても……いい?」


 矢作の下で大人しく琴夜らを見ている、大型の白い西洋犬。


「ナッツっていうんだ。頭を触るくらいなら大丈夫だよ」


 琴夜は腰を屈め、嬉しそうに西洋犬の頭をナデナデする。


「うわっ、デカイ犬……。毎度思うけど琴夜、怖くないの?」

「琴夜さん、犬が好きでしたもんね。公務でも犬を見かけると、よく触れ合っていましたし」


 こうして琴夜は犬を堪能しながらクラスメイトと軽く言葉を交わし、


「バイバイ、矢作さん。また学校で」


 矢作と西洋犬を見送る琴夜はふっと、


(矢作さんって、たしかアマトくんの元部活仲間だっけ)


 彼女から自然と連想したのは、あの茶髪の男子中学生。


(また、アマトくんとお買いもの行きたいなぁ。先週は楽しかったし……)


 通りを眺めながらぼんやりと、また彼を誘ってみようかと琴夜は一人考えた。

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