2-11
「昨日はアドバイス、ありがとうございました。さすがにまだ解決というわけにはまいりませんが、生徒会の皆さんも光が見えたことで感謝していました」
生徒会長の風間飾音は水色の長髪を垂らすように、丁寧に時嬢部の二人へ頭を下げる。
「そんな、頭は下げなくても。友達が困ってるときに、一緒に悩んであげるのは当然だよ」
「まーでも、俺にも頭を下げてくれるのはなかなか。お嬢様ってのはプライドの塊なんだろ?」
飾音会長はスッと頭を上げ、翡翠色の瞳を鈍く光らせ、
「褒めているのやら貶しているのやら……。ホント、篠宮さんは無礼な方ですね」
ムスっと口元を窄めるものの、……結局その仕草は一瞬で、
「だからこそ、イジメ甲斐があるのでしょうけど。その生意気なお顔が……想像すると……ふふふっ」
微かなる怪しげな唇の歪みを目にしたアマト、得体のしれぬ寒気にブルッと背筋を震わせる。
飾音はすまし顔をすぐに取り繕い、口元を上品に手で隠し、
「おっと、今のは聞かなかった方向でお願いしますね。私のイメージというものが崩れてしまうと困りますので」
「その怪しいトコも込みで、会長のキャラがあるみたいなもんだろ……」
あはは……、と困ったような薄笑いを漏らした琴夜だが、
「ともかく、飾音ちゃんたち生徒会は生徒だけじゃなくて、先生たちにも訴える活動をしないとね」
校則で雁字搦めにするほどではないが、たとえば問題行為の防止案を教師に提言する、違反行為を見かけた場合はしっかりと取り締める決まりを教師と考える、などのアクションを起こしてみたらどうかと、昨日時嬢部は生徒会に助言をしてみた。
「会長を前にして言うセリフじゃないけど、学校を変えていく鍵はやっぱり教師なんだよ。教師が放ったらかしにしてるようじゃあいつまでも学校は変わらない、だろ?」
「そうですね、やはり
そうして最後にもう一度頭を下げ、飾音は生徒会の活動に戻っていった。
洒落た置時計の分針は、以前から五分の時を進めている。――時刻は『〇時一五分』。
アマトはパイプ椅子の背もたれに身を預け、琴夜にそっけなく、
「でも会長って優しいよな。Sっ気もあるけど、ああやって学校を想えるのはすごいことだと思うぜ? まさに人の上に立つにふさわしい存在と言える」
「上から目線なのは気になるけど、そのとおりだと私も思うよ。ほんと、私よりもよっぽど上に立つべき存在なのに……」
そのパッチリと柔らかな瞳には哀憐な影をよぎらせ、琴夜はそっと瞼を下ろす。
「それだけ琴夜が認められてるってことだろ? あの凪沙にひかみん、それに会長よりも上の存在。手放しで喜べばいいのに」
目を細めたままの見え透いた愛想笑いで、アマトに顔を向けることなく琴夜は、
「その絵本の十五ページ、思わず寂しくなっちゃう一文があるんだよね」
「そんなピンポイントでページを指定されてもわかんねぇよ」
机に置かれている、この部の名称のキッカケにもなった一冊の絵本にアマトは目を配る。秋という季節柄、放課後という時間、――窓から差し込み絵本を照らすのは、琴夜の髪色にも似たオレンジ一色の光。それに、絵本の半ばを染める黒い影。まるで表紙を飾る二人の少女を暗示しているかのように、光と影のコントラストが絵本に纏う。
「はは、一ページずつ覚えるのは相当読み込まないとダメだよね。うーんと――……」
琴夜はおもむろに顔を上げ、口を開こうと歯を見せかけたが、躊躇ったように一度口を閉じる。そして再び、彼女は口を開こうとした。
けれども。
「…………っ」
不意に響いた引き戸の物音が、琴夜の言葉を自ずと遮った。
琴夜、続いてアマトの目線がはからずも扉側へと集まる。
橙の光に照らされる一人のシルエット、現れたのは――――――。
長くて黒色の、シャギーの入った髪先を小刻みに揺らし、愛らしさいっぱいの瞳で部室内のペアを見つめる一人の女子生徒。
パンダ模様にデフォルメされたドクロの髪飾り、幼さ残る顔に似合わず映える胸元、脚を覆う黒のストッキング。
彼女は右の手先で、一枚の紙切れをつまんでいた。
二人の視線を確かめるや否や、彼女はつまんでいたそれを彼らへと差し出し、笑顔に惜しみない愛嬌を込めて――――――、
「あたしを時嬢部の一員にしてくださいっ」
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