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「そうですね、私のお嬢様に許される一時マジカルタイム――『フラグメンテーション』の影響です。この世の時間を数秒間消し飛ばしてみました」

「時間を消し飛ばす……? え、未来を予知する魔法は備わってないんすか?」


 つまり彼は何を言いたいのか、と不可解な面持ちの飾音だけれども、


「未来予知は氷上さんの『幸伏の指南書ハッピーメイカー』の本分ですけど?」


 アマトは苦笑いで、プラスしてわずかな嘲笑をも含め、


「それって『エピタフ』のない『キング・クリムゾン』じゃ……。その魔法、すごいけど使い道あんの?」


 飾音はムッと眉をひそめ、


「そのセリフ、数年前にも死神さんに言われました。何のことやら未だにわかりませんけど、囃し立てられているのは伝わります」

「お嬢様の中にも愛読者がいるのか……。俺の知り合いにも熱狂的な読者がいるけど」


 とまあ、なんとか話題を背後の湯のみから逸らそうとするアマトだが、


「おっと、逃げても無駄ですよ。うふふ」


 どうやら飾音は逃がしてくれないらしい。

 琴夜は「何のことやら?」と席を立ち、動こうとしないアマトを強引に除けてひょっこりと湯のみを確認すると、


「ちょっと、何を入れたの!? オレンジジュースだって飛び散ってるし……っ」

「あ、いや……、俺が魂込めて配合したスペシャルドリンクを琴夜に飲んでほしかったんだよ……。三種のいいとこ取りをした味になってるから…………たぶん」


 じーっとアマトに眼差しを送る琴夜。

 その途端、飾音がとてつもなく嬉しそうなニコニコ笑顔で、


「なら、篠宮さんが飲めばいいじゃないですか。琴夜さんにそのおいしさを伝えてみては?」

「えっ……、え?」

「味に自信があるなら平気ですよね? どうせなら男の子らしく、一気に飲んでみてはどうでしょう? 琴夜さんも篠宮さんの男前な姿、見たいですよね?」


 アマトは唖然と湯のみ、ならびにニッコリな会長サマを交互に何度も見て、


(こっ、この生徒会長……、ひょっとしてメチャメチャドS!?)


 ヒクつく苦い笑みで、アマトは湯のみを指差し、


「ちょ……あの、だってこれ、琴夜が口つけたヤツだし……。俺、そういうの苦手にしてるから……衛生的に…………」

「…………」

「つーか、琴夜が悪いっ。怠けて俺に注がせたのが悪い!」

「言い訳はいいから」

「……あ、はい」


 琴夜の冷めたジト目、飾音のニコニコ圧力を目の当たりにし、半ばヤケ気味に自身特性のドリンクを喉に通したアマトであった。



「……でー、会長はどうしてここに来たんだ? まさかこの脆弱な篠宮サマをいじめるために来たんじゃないだろうな?」


 ゲンナリと顔のシマリを失くしたアマトは、客人用のパイプ椅子に腰掛ける生徒会長、飾音に恨みがましく問いかけた。


「なんでもユートピア法廃止のため、琴夜さんが校内の個性を守る活動を始めたとか。それを耳にして、生徒会長として相談したいことがあって伺いに来ました」

「生徒会長として? 校内の事件かな?」


 琴夜はペンとメモ帳を準備、対照的にアマトは何も準備しない。


「最近になって、この学校が密かに荒れ始めていることはご存知かもしれません」

「うん、琴夜にも見せてもらった。けど、荒れた学校をどうこうするのは俺たちじゃ無理だぜ?」


 飾音は静かに首を振り、


「いいえ、さすがにそれは頼めません。私が頼みたいのは、その件で生じた私たち生徒会の悩みの件です」

「生徒会? 飾音ちゃん、詳しく聞かせて」

「手短に言うと、学校が荒れ始めた原因は生徒会にある、という風潮が流れ始めたことです。ここ最近の問題は生徒会の不甲斐なさが原因だ、という声を耳にするようになって……」


 琴夜はうーんと唸り、


「私は生徒会が原因だとは考えたことなかったなぁ……」


 どこか疲れを覗かせるように、飾音は大人びたため息をつき、


「喫煙事件、カンニング事件に始まり……この前の修学旅行では、なんでも覗き事件があったそうです。すべてを生徒会のせいにされたらたまったものじゃありませんよ」

「ああ、覗き事件は俺も聞いたな。……そもそもリスクを冒してまでするほどの価値あるか、覗きって? 見ちゃいけないのも覗くこと考えたら割に合わないだろ」


 と、アマトはデリカシーのない発言を挟みつつも、


「あのー会長、琴夜からも聞いたけどさ、時間の国はユートピア法のおかげで、学校の生徒たちは大人しかったんだって?」

「そうですね。皆が平等の扱いを受け、皆が等しかった彼ら、彼女らに問題行動は滅多に見られませんでした。それはあの法律における功績の一つですけど」


 琴夜はアマトの肩をペシペシとペンで叩き、


「だからアマトくん、これも『個性』に繋げられる問題だね。ユートピア法みたいに極端とまではいかなくても、校則で生徒を縛れば問題は減るかもしれない。でもそれだと、みんなの個性が発揮できなくなるはず」

「つまり、校則で個性を消すようなマネにならないようにしていこうと?」

「そう。けどそれはあくまでも大きな目標で、今は飾音ちゃんの悩みが最優先だね」


 飾音は丁寧に頭を下げ、


「私は単なる雑音だと捉えていますが、生徒会の皆さんはこの件で元気を失っています……。だから時嬢部のお二人に、解決の糸口をなんとか見つけてもらおうと……」

「たしか生徒会の任期も、再来週の文化祭と同時期くらいだよな? 終わりくらいはイイ感じにしておきたいか」

「そうだね、私たちのために頑張ってくれてる生徒会だもん。時嬢部なりにサポートしてあげようか」


 こうして時嬢部は、生徒会長――風間飾音の相談を引き受けることになった。

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