『時間の国のお嬢様』 ~P.9

 少年は口を閉ざしたまま、絵本の表紙を捲った。


 花びら舞う幻想的な花畑の中、橙髪と黒髪の少女が、加えて一人の小さな少年が華やかに見開きを飾り――――……。


 みんなのらす世界とはちょっぴりちがう世界、――時間じかんくに。ゆたかな自然しぜんときれいなまちなみがじまんな時間じかんくにで、ときおなじくして二人の女の子が生まれました。おかあさん同士どうしがなかよしだから、あっという間に友だちになった二人。まるでお姉ちゃんと妹ちゃんだね、みんなからからたくさん言われた言葉ことばです。


 そして二人の女の子が八つになるころ。

 二人は「七人しちにんのおじょうさま」とよばれている女の子たちにあこがれるようになりました。


「ねえねえ、おじょうさまになるとおいしいものがいーっぱい食べられるんだって」

「かみさまになるとなんでもおねがいごとをかなえるまほうをくれるんだって」

「でも、おじょうさまはかわいくてかしこくないとなれないってママが言ってたよ」


 学校のお友だちも、いつもおじょうさまのことばかり。だけど二人だってお友だちに負けないくらい、目をかがやかせておじょうさまのことをたくさん話しました。


 ――――そんなある日のこと。


 おじょうさまの中でも一番えらい『神様かみさま』の就任しゅうにんを祝うパレードがひらかれることになりました。大きくて立派りっぱ宮殿きゅうでん広場ひろばで、国中くにじゅうのみんながあたらしい『神様かみさま』をおいわいします。


 もちろん、あの二人だってお祝いのために広場にかけつけました。

 お嬢様が通るはなやかなロードに近づこうと、二人はがんばって人ごみを通り抜けます。


「もうちょっとだよ、がんばって!」

「うん!」


 やがてついに――――、あこがれのお嬢様を目の前で見ることができました!


 長くて美しい黒の髪をふりまいて歩く、みんなの注目を集めるとびっきりきれいな女の子――『神様かみさま』。その後ろでみんなに手をふる、これまたきれいな『死神しにがみ』、『ひめ』、『王子おうじ』、『騎士きし』、『妖精ようせい』、『魔女まじょ』とよばれる六人の女の子たち。


 そんなあこがれの女の子たちを近くで見て、二人はこれっぽっちも声が出ません。


 すると。


 どうしたのかな? あの『神様かみさま』が二人の前で立ち止まりました。

 そしたらなんと、『神様かみさま』は二人にこっそり『しょうたいじょう』をわたしてくれたのです。


 目を丸くする二人だけど、やっぱり二人はおおよろこび!


 そして二人はお嬢様の待つ宮殿の中へと、ドキドキワクワクしながら向かっていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る