1-5
記入漏れのあった部活動解散届の完成を教室で済ませたのち、職員室に向かってゆくアマト。ただし、時間の国において選ばれし七人のお嬢様――『神様』を自称する同級生、時永琴夜という女子生徒を連れて。
「時永さんの『
先ほどと変わらず、琴夜は柔らかな微笑を飽きもせず見せ、
「さすがに因果律の操作は私だけの特権。ま、使う機会はほとんどないし、他のお嬢様も日常ではまず使わないよ。……使おうとも思えなくなるし」
「ああ、お嬢様はみんな憧れの特別な存在だから、それを示すために与えました的なアレか」
「そのとおり。あーそれと、言い忘れてたけど私の力、使えるのはあと一回までだよ」
「は、どういうこと?」
「私の魔法は強力すぎて、こっちで使えるのは三回までっていうお達しを受けちゃったの。さっき世界をモノクロにしたでしょ? キミの性欲を奪ったでしょ? ほら、あと一回だけ」
「全部俺絡みじゃん……。そんな大切なもの、俺に使う価値はあるのかよ?」
「価値があるから使っただけ、それだけだよ」
話をしているうちに、職員室へと着いた二人。最終下校時刻までは残り十分を切っていた。
入室した二人は生徒会を担当する
「篠宮くん? それと……時永さんも? へぇ、珍しい組み合わせですね。あ、解散の件と……部の申請の件でしたっけ?」
前者はアマトの顔、後者は琴夜の顔を見て、彼女は両者の要件を的確に言い当てる。
担当科目は国語、黒のスーツで身を固める二十代後半の彼女。お疲れモードなのか、目元には薄いクマができていた。
「センセイ、死にそうな顔してますけど大丈夫ですか?」
「最近、何かと忙しくて。イジメ問題やら件の覗き事件やらの対応で……。はぁ、今の生徒会がもう少しシャキッとして……って、責任を生徒に擦り付けるのは教師失格ですよね」
「先生も大変ですね。でも大丈夫ですよ、今の生徒会長さんは有能ですから」
琴夜の励ましを耳に入れた榊原先生は、まとめた荷物を持つと席を立ち、
「解散届は預かっておきますよ。それと、申請届は記入したら私の机の上に置いておいてくださいね。顧問の欄には私の名前をお願いします。それでは」
アマトは先生の後姿を眺めながら、
「センセイも大変なんだな」
「それだけこの学校に問題が隠れてるってことだよ。だから私たちの出番、これから多くなりそうだね」
こうして榊原先生を見届けたのち、琴夜希望の新規部申請に取り掛かることになったが、
「時永さん、部名はどうする? 個性を守る部で……個性部とか? うわ、つまんねー」
「個性部じゃ……そうだね、センスないね……。まあ、部名はそんなに拘らなくてもよくない?」
「よし、それなら活動の半分が洋画の研究になると思うんで、洋画研究部にしよう」
「却下」
まあ、適当に付ければいいってものじゃないと、アマトはヒントを探すため周りを見回せば、
「ん……?」
目に留まったのは、教師机に置かれている一冊の絵本。それは昨日も見た、あの『時間の国のお嬢様』。おそらく、あの矢作が用済みのため置いていったものであろう。
「…………っ」
ピクリと眉を上げ、顔をしかめた琴夜。
「……?」
その仕草が気にはなったものの、まあいいか、そう結論を出したアマトは絵本を指し示し、
「『時間の国のお嬢様』のテーマは、言い換えれば個性と個性のぶつかり合いを紐解く物語だと思う。これ、時永さんの始めたい部のコンセプトと一緒だろ? なら部の名前は――――」
そこで彼は絵本を手に取り、二組の少女が映るその表紙を琴夜に見せ、
「――――『時間の国のお嬢様』のような結末を迎えるための活動を行う部、――――略して『
琴夜は言いようのない複雑な顔を浮かべるが、時計の針をチラリと確認し、
「部名を聞くたびに絵本を思い出しそうで嫌だけど、……私は特に思いつかないし、それでいいよ」
あまり乗り気ではない琴夜へ抵抗は覚えたものの、迫る最終下校時刻を懸念したアマトは部名欄に『時嬢部』、部員欄に『時永琴夜』、『篠宮天祷』、顧問欄に『榊原智草』と記入し、これで部の簡易申請を済ませた。
廊下に出た琴夜は手を組み、クルリと背後の少年へ振り返り、
「よーし、さっそく明日から活動だね。サボったらお仕置きしちゃうぞ?」
「サボりなんかしねーよ。明日は期待して待っとけ」
――――こうして時永琴夜と篠宮天祷をメンバーとした、校内における個性の絡む問題を紐解くための部活動、『時嬢部』が幕を開けた。
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