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 記入漏れのあった部活動解散届の完成を教室で済ませたのち、職員室に向かってゆくアマト。ただし、時間の国において選ばれし七人のお嬢様――『神様』を自称する同級生、時永琴夜という女子生徒を連れて。


「時永さんの『神のみぞ知る物語ロマンチックノベリスト』って魔法、強すぎない? 他のお嬢様もそんな魔法なの?」


 先ほどと変わらず、琴夜は柔らかな微笑を飽きもせず見せ、


「さすがに因果律の操作は私だけの特権。ま、使う機会はほとんどないし、他のお嬢様も日常ではまず使わないよ。……使おうとも思えなくなるし」

「ああ、お嬢様はみんな憧れの特別な存在だから、それを示すために与えました的なアレか」


「そのとおり。あーそれと、言い忘れてたけど私の力、使えるのはあと一回までだよ」

「は、どういうこと?」

「私の魔法は強力すぎて、こっちで使えるのは三回までっていうお達しを受けちゃったの。さっき世界をモノクロにしたでしょ? キミの性欲を奪ったでしょ? ほら、あと一回だけ」


「全部俺絡みじゃん……。そんな大切なもの、俺に使う価値はあるのかよ?」

「価値があるから使っただけ、それだけだよ」


 話をしているうちに、職員室へと着いた二人。最終下校時刻までは残り十分を切っていた。

 入室した二人は生徒会を担当する榊原さかきばら智草ちぐさ教諭の下へ赴き、


「篠宮くん? それと……時永さんも? へぇ、珍しい組み合わせですね。あ、解散の件と……部の申請の件でしたっけ?」


 前者はアマトの顔、後者は琴夜の顔を見て、彼女は両者の要件を的確に言い当てる。

 担当科目は国語、黒のスーツで身を固める二十代後半の彼女。お疲れモードなのか、目元には薄いクマができていた。


「センセイ、死にそうな顔してますけど大丈夫ですか?」

「最近、何かと忙しくて。イジメ問題やら件の覗き事件やらの対応で……。はぁ、今の生徒会がもう少しシャキッとして……って、責任を生徒に擦り付けるのは教師失格ですよね」

「先生も大変ですね。でも大丈夫ですよ、今の生徒会長さんは有能ですから」


 琴夜の励ましを耳に入れた榊原先生は、まとめた荷物を持つと席を立ち、


「解散届は預かっておきますよ。それと、申請届は記入したら私の机の上に置いておいてくださいね。顧問の欄には私の名前をお願いします。それでは」


 アマトは先生の後姿を眺めながら、


「センセイも大変なんだな」

「それだけこの学校に問題が隠れてるってことだよ。だから私たちの出番、これから多くなりそうだね」


 こうして榊原先生を見届けたのち、琴夜希望の新規部申請に取り掛かることになったが、


「時永さん、部名はどうする? 個性を守る部で……個性部とか? うわ、つまんねー」

「個性部じゃ……そうだね、センスないね……。まあ、部名はそんなに拘らなくてもよくない?」

「よし、それなら活動の半分が洋画の研究になると思うんで、洋画研究部にしよう」

「却下」


 まあ、適当に付ければいいってものじゃないと、アマトはヒントを探すため周りを見回せば、


「ん……?」


 目に留まったのは、教師机に置かれている一冊の絵本。それは昨日も見た、あの『時間の国のお嬢様』。おそらく、あの矢作が用済みのため置いていったものであろう。


「…………っ」


 ピクリと眉を上げ、顔をしかめた琴夜。


「……?」


 その仕草が気にはなったものの、まあいいか、そう結論を出したアマトは絵本を指し示し、


「『時間の国のお嬢様』のテーマは、言い換えれば個性と個性のぶつかり合いを紐解く物語だと思う。これ、時永さんの始めたい部のコンセプトと一緒だろ? なら部の名前は――――」


 そこで彼は絵本を手に取り、二組の少女が映るその表紙を琴夜に見せ、


「――――『時間の国のお嬢様』のような結末を迎えるための活動を行う部、――――略して『時嬢ジジョウ部』。どうだ?」


 琴夜は言いようのない複雑な顔を浮かべるが、時計の針をチラリと確認し、


「部名を聞くたびに絵本を思い出しそうで嫌だけど、……私は特に思いつかないし、それでいいよ」


 あまり乗り気ではない琴夜へ抵抗は覚えたものの、迫る最終下校時刻を懸念したアマトは部名欄に『時嬢部』、部員欄に『時永琴夜』、『篠宮天祷』、顧問欄に『榊原智草』と記入し、これで部の簡易申請を済ませた。

 廊下に出た琴夜は手を組み、クルリと背後の少年へ振り返り、


「よーし、さっそく明日から活動だね。サボったらお仕置きしちゃうぞ?」

「サボりなんかしねーよ。明日は期待して待っとけ」


 ――――こうして時永琴夜と篠宮天祷をメンバーとした、校内における個性の絡む問題を紐解くための部活動、『時嬢部』が幕を開けた。

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