第40話 対比になるもの
私は最初、ただのどこにでもいる魔物に過ぎなかった。
緑色の体をぽよほよと動かし、周りにあるものを少しづつ自身の体に消化していっていた。それはもう魔物としての自分の本能のままに。
だがある日、自我が現れた。
それは本当に突然。体が、近くにある木ぐらい大きくなったときだ。私は戸惑った。なぜ、私という存在がこんな意味のないことをしているのだと。なぜ、私は物体を体の中に消化させこんなにも巨大化したのかと。
だが、その疑問は今もわからない。ただ言えることは私の種族スライムという存在はこうすることが役割なんだそうだ。
ある日、知らない人間に殺された。体の中にある弱点の部分を壊されたのだ。私は弱点を壊され動けなくなりやがて力が抜けていった。
『あら? あなた、ここで何してるの?』
だが目が冷めたときには知らないやつが話しかけてきた。私は慌てて態勢を戻す。そうこいつの見た目は人間みたいだった。だから、また殺される。私はそう思い、殺されるくらいなら私から殺すと思い襲いかかろうとしたがそれはできなかった。いやできなかったのではなくて、そもそも触ることができなかった。何かがそいつのことを守っていたのだ。
私は粘液を出してその守っているものを消化させようと思ったけどそれもできなかった。
『ふふふ……。私は神なんだからころせないわよ?』
人間みたいな姿をしてるやつはそんなことを言ってきた。私は最初、神という存在のことを知らず何を言ってるのかわからなかったがそいつは丁寧に教えてくれた。まとめると、こいつは全知全能でなんでもできる神で私は死んだらしい。
私はその話を聞いて動けなくなった。まるで目の前の神と名乗った人間もどきに怯えているかのように。この感覚は初めて味わった。恐ろしいという圧倒的恐怖。神は、動けなくなった私のことをみてくすりと笑い近づいてこう言ってきた。
『ねぇあなた。あの世界のことを救ってくれないかしら?』
私はすぐ断った。
だって私は、人とかを殺す魔物であるから。だけどそんなことで神は諦めなかった。ずっとずぅ〜っと動けなくなった私の目の前で『あなたが世界を救うのよ』と言われ続けた。
私は仕方なくどうすればいいのかと聞いて見ると、
『その世界にいる生物を一匹残らず殺してほしいの』
そんなことを言ってきた。私はてっきり、世界にいる生物のことを守ってほしいだとかそういうことだと思っていたからだ。だけど、それがどう世界を救うことに繋がるのかわからない。そう思っていたら神は『ふふふ……』と不気味に笑いながら言ってきた。
『殺すっていうのは少し、言葉が間違っていたわ。そうね……解放してほしいの』
神は真剣な顔をしていってきた。
そんな顔になったとしても私が生物を殺して解放したところでなんにもない。だって私はただの大きくなりすぎて人間に殺されただけの弱小スライムなんだから。私がそう思っていると神は『何を言ってるの?』の言って怒ってきた。
『あなたは選ばれたのよ! 神に!! それを聞いて『ただの』だとかそんなこと言うの!?』
神はそれはもう、怒った。何度も私に怒鳴りながら。何度も何度も。そして、神は怒り疲れたのか『はぁはぁ……』と息を整えながら再び私の目の前に来た。
『世界を救うのよ! 私にはあなたが必要なの!』
神は涙を流して、懇願してきた。
その様子を見てなのか、その言葉を聞いてなのか私の心は動かされた。
誰かに必要とされる。
私は、これまで生きてきた中で誰かに必要とされたことがない。逆に、いなくなってほしいとされていたほうが多いと思う。なので無意識にはいと返事をしていた。
その返事を聞いた神は嬉しそうに笑いながら……。
『じゃあ今から、そのために必要な力をあげるわ』
そう言い、私の体に手を突っ込んできた。
何をどうするのかと不思議に思っていたのだが、私の体は徐々に真っ黒な体に変貌していた。
そして全てが真っ黒になったら神は手を引っこ抜いて『これが力よ。うまく使いなさいね』と言った。
自身の知らない力が体の中に入っていく感覚がある。それはウニョウニョとした今まで感じたことこない気持ち悪い感覚だ。
そうして再び世界に、戻ってきた。私は人間どもを解放するため、人間がたくさんいる場所に行った。そして、踏み潰す。まだ力がどういうものなのか理解できてはいなかったが、体が理解していた。
なので勝手に体の中で自分の意志に忠実に動く子を作っていた。私は困惑したのだが徐々に力の使い方がわかるようになり、自分の意志で子供を作り、それを地表に放った。
その姿は人間のような二足歩行。
なぜ、私のことを殺した人間の姿にしたのかはわからない。だが私はその姿を見てとても美しく思った。完全なる生物の誕生のようだ。
私は人間が殺されていくのを見てこう誓う。
私が救う。
この、薄汚れた世界を。
この、腐りきった世界を。
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