第39話 黒いシルエットって不気味よな



「ほぇ〜……久しぶりだな……」


 黒いなにかというのは馬車だった。

 そして近づいてきた馬車は、俺たちの横に止まった。そこから出てきた人物が、ギルドマスターだったってわけだ。めちゃくちゃ久しぶりの再会だ。


 最初ギルドマスターはなぜかものすごく俺たちのことを警戒し、剣まで向けてきたのだが俺がマサルだということを伝えると涙を流して喜んでいた。


 どうやら話を聞くに、彼らのいた場所はある黒い物体に荒らせれ多くの人たちが惨殺にあったのだという。俺はその話を聞いて、思わずつばを飲んでしまった。

 だってそうだろ?

 急に久しぶりに再会した人が、「俺がいた場所の人たちは黒い物体に惨殺させられたんだ」とか言い出したんだ。こんなこと、この異世界に飛ばされる前だと、笑って過ごせたのだがさすがに今は笑えない。

 

 でかいスライムみたいなやつだったり、神だったり、神になれる神器があったりする世界なんだ。俺は意味がわからない状況でも、話を聞いて良くも悪くも理解力は以前とは比べ物にならないほど早くなった気がする。


 っと、まぁそういうことで何を言いたいのかというともしかするとギルドマスターがいた場所にいた、そのいろんな形に変形する黒い物体が俺が戦う相手なのだろうかということだ。


 沢山の人を惨殺したのならば、そういうことだろう。いや、もしかしてさっきルイサが言っていたドラゴンだとかそういうたぐいのが、未来の俺が言っていた敵なのだろうか……?


 あぁ〜もぉ! なんで未来の俺、もっとヒントくれなかったのかな!? ルールがあるんならそこをなんとかするのが俺っていう人間だろ。

 まぁそんなこと嘆いていてもどうにもらならないか。


「よし。目的地はそこに決めた」


「なんじゃって!?」


 俺がそう言うとトッティは「ガビーン」という効果音が聞こえるほど、肩から力が抜けてがっかりした。

 

 俺はそんな様子を見て、「まったく……」と心のなかで言いつつ口を開く。


「もしかしたらそいつが敵なのかもしれないんだぞ?」


「はっ! そういうことか!」


 トッティは俺の回りくどい言い方に、「ぽん!」と気持ちのいい音がなりそうなほどリズミカルに手のひらに拳を叩きつけた。

 それはもう、勢いよく。それは完全にわかったときにするような動作ではない。いや、同じようなことをするのは漫画で見たことあるのだがそれは効果音であって、もっと優しくだ。

 こいつは一体、何から情報を得てこんなことしてるんだろう。どこか少し外れてるんだよな。まぁそこが面白いところなんだけど。


 俺はそんなことを思い、楽しそうにトッティのことを見ていると正面の二人から視線を感じた。


 俺はこれでは「トッティが妹のようじゃないか! (実際には妹なんていなくて、ただ漫画やアニメで見ただけ)」と思い慌てて顔を戻し普段通りになる。

 だがそれでも二人の視線は消えることはなかった。

 俺は、顔になにかついているのだろうかと不安になったがその謎はすぐ解けた。


「あの……敵になるかもしれないとはどういうことですか?」


 ルイサが首を傾げながら問いかけてきた。隣りにいるギルドマスターも「それな」と言いたげな顔をしながら頷いた。


 あぁそうだった。

 こいつらには未来の俺からの声のことを教えていないから、少し不謹慎に聞こえちゃったか。そう思い口を開こうとしたが、それは途中で中断させられることになる。


「マサル様っ! 正面から、再びなにか近づいてきています!」

 

 再びサリアが叫んできたのだ。

 先程も叫んだのだが、今回はさっきよりも緊迫感がある。俺はその声を聞いて急いで荷台から顔を出して、サリアが言う方向を見る。


「あれは……」

  

 俺は見たのだがよくわからなった。

 正面から近づいてきているのは黒い。そう、黒いのだ。そのシルエットは人間のように二足歩行。

 俺は通行人の類なのだと思い荷台に戻ろうとしたとき、


「あれは亜種だ!」


 いつの間にか隣に来ていたギルドマスターが俺に向かって言ってきた。


「なんだ? 亜種って?」


「あっ! 言ってなかったか。あいつはさっき言っていた黒い物体の子供だ。あいつは、もともとある大きな黒い物体から出てきたやつだ。俺はそいつのことを亜種とよんでいる」


 亜種。子供。 

 …………これって結構やばい状況何じゃないのか?

 だって、黒い物体の子供がこんなに国から離れた場所にまで飛んで走ってきているんだ。それも大群で。


「俺たちの仲間は全員亜種に殺されたんだ……」


 ギルドマスターは呟くようにそういった。

 ん? 俺はてっきり、黒い物体っていうのは一つの大きな塊みたいなものだと思ってた。だけど、その塊のようなものから派生していろんな黒い物体が出てきている。


 …………これってまじでやばい状況何じゃないのか?

 だって、もしこの亜種と呼ばれている物体がこの世界全土に走っていったらこの世界すべての人間が惨殺させられてしまう。

 やばい。これ、思っていたよりまじでやばい状況だわ。


「ちょっと馬車を止めてくれ。俺が倒してくる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る