第38話 強すぎる忠誠心は逆に怖い


「神器? これが?」


 俺は、話が終わったにもかかわらず膝の上に乗っているトッティに向かって信じられないと言いたいように聞く。

 本当に信じられない。

 なぜこいつが、そう都合よく神器を持っているのだろうか?

 いやでも、こいつが本当に人類未踏の迷宮を踏破してきたのならばそこに神器があってもおかしくはない。もしかしたら神器っていうものは元々はそういう場所にあったりするのか? 俺って結局は、すべて他人から奪った物だからそんなのわからない。


「うむ。これは呪いのネックレスと言うなの神器じゃ」


 呪い? 

 それって、すごく聞くからにアヤシソウな名前なんだけど……。


 俺がそう思っているとトッティは、「あぁ」となにか思い出したかのように人差し指をピンと立てて口を開く。


「別に名前に呪いってあるけどお主が思っているようなものじゃないのじゃ。ここで言う呪いっていうのは一種の、パワーアップみたいなものじゃ。じゃから、体に害があるものじゃないのじゃ」


「そ、そうか……」


 俺はその言葉を聞いて安堵した。

 だってそうだろ?

 最初ここに、呪いのネックレスがあると言われたら嫌な予想をしてしまうものだ。だが俺はトッティからここでの呪いというものについて教えてもらい、「なるほど……」と理解した。


 俺がそんなふうに思っていると、正面に座っていたルイサが「あの……」と俺達の会話に入ることを申し訳無さそうに口を開いた。


「私、全然話についてこれてないんですけど……。このネックレスがどうかしました?」


「あぁ。いや別に、たまたまこれが俺たちが探してた物だっただけなんだ」


 まぁこいつが、話についてこれないのはわかる。

 だって急に神器とかなんとか言われたんだぞ?

 俺のときは最初、死んでここに飛ばされる前に「神器を集めろ」と言われていたのでそこまで動揺はしなかった。だが、今のルイサの落ち着かないような様子を見てこれが初見の反応なのだと実感した。


「え!? そうなんですか!? であればぜひ、こちらはマサル様にお譲りします!」


「いいのか?」


 おそらくルイサは何も理解していないのだがそう言ってきた。

 これが忠誠心というものだろうか……。


 俺がそう思っているとルイサは嬉しそうに、「はいっ」と返事をして続ける。


「私はマサル様には多大な恩がありますので」


 恩……?

 俺はなにかこいつにしたのか?

 思い出せない……。本当に恩なんてあるのだろうか。まさかこいつは俺のことを油断させようとしている敵なのじゃないのか?


 俺はルイサの、さすがに忠誠心が強すぎてよく理解できない行動に頭の中で様々な憶測が飛び交っていた。

 そんなとき。


「マサル様っ!」


 サリアが荷台に乗っている俺たちの方にあわてて叫んできた。


「ん? どうかしたか?」


 俺はそんなサリアのことを落ち着かせるという意図も込めて、普段通り振る舞った。


「正面から何者かの馬車が近づいてきます」


 サリアが指さした方向には、土埃がたっており何かが近づいて来ているのかはわからないのだがたしかに、なにか黒いものがこちらに近づいてきていることはわかった。

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