第37話 物語の主人公は俺だからな!!


「誰だお前!!」


 俺は砂埃で、何も見えないのだがその声の主に敵意むき出しで問いかける。

 

 そして、だんだんと砂埃が晴れていき……。


「あれ? 少し会っていなかっただけで私のこと、忘れてしまいましたか?」


 そう言って出てきたのは、全身泥まみれの男。顔の皮膚の部分まで泥がついており、変人だ。それにこいつ今、「忘れてしまいましたか?」って言ってなかったか?

 忘れる……?

 まさか俺が、以前どこかでこんな泥まみれの変人とあったことがあるのだというのだろうか。

 いや、ない。

 こんな変人、一度見たら記憶に残って忘れるはずがない。

 

「お前たちは後ろに下がってろ」


 俺は変人を目の前にして、念の為二人のことを後ろに下がらせる。

 俺の言葉を聞いた二人は、「わかったのじゃ」「わかりました」と口を合わせて荷台に隠れていった。

 なんとも素直な奴らである。


 俺はそんなことを思いながら、再び泥まみれの変人へと視線を戻す。


「忘れる……? 俺の周りにはお前みたいな泥まみれの男なんていない!!」


「はっ! たしかに以前会ったときはこんなに土まみれじゃなかったのはあると思うんですけど……」


 変人は、「しまった!」とでも言いたげな顔になりながら言ってきた。


 こいつ、どういうつもりで俺たちの前に現れたんだ……?

 このタイミングで現れたということが怪しい。

 まさか、これが未来の俺が言っていた大きな戦いになりうるとでも言うのだろうか? あまりにも情報が少なすぎてわからない。


 だが確実に言えることは、こいつは俺の目の前に急に現れた変人。どうせその容姿は、俺のことを油断させるための罠かなにかだろう。俺はそんな見え透いた罠になんかかかる間抜けではない。


「御託はいい。お前はなんのために俺たちの前に現れた?」


 俺はこの変人が答える内容によっては戦わなければいけない。そう思ったので、背中に背負っていた神器の一つである切断の剣の柄に手を添え言葉を待つ。


「なんのため……。そうですね。再会ですよ!」


「はぁ?」


 俺はてっきり、「お前を殺すためだ! グヘヘヘ……」などといかにも悪役らしい言葉を言うと思っていたので衝撃が隠せなかった。


 再会?いや、でも俺はこんなやつ知らないんだが……。はっ! まさかこれも俺のことを油断させる罠だったりして……?


「すみません。自己紹介が遅くなってしまいました。私の名前はルイサです。あなたの仲間であったルイサです!」


「は? え? ルイサ……?」


 ルイサと言ったら、一緒にダーサイドクラッシャーに来た男で急にいなくなったやつだ。

 あれ? なんでいなくなったんだっけ?

 思い出せない……。まぁいっか。こいつ、あんまり重要そうなやつじゃなさそうだし。


「はい! そうでございます! 見た目こそは変わりましたがルイサ本人です!」


「本人だと言う証拠は?」


「そうですね……。こういうのなんてどうでしよう!」


 ルイサはそう言い、地面に落ちていた槍らしきものを俺の方めがけ攻撃してきた。


「――――!」


 俺は背中から神器を抜き取り、その槍を受け止める。


「あ、あれ?」

  

 ルイサはまさか受け止められるはずがなかったとも言いたげな動揺の声が聞こえてきた。


 はぁ〜……。こいつ、久しぶりの再会のくせになんで俺がルイサだとわかったときに槍で攻撃してきたんだ……? まさか俺とこいつが出会ったのは槍からだからか……? いや、そうだとしてもこれはトッティのようなバカがするようなことだ。


 俺はなぜか無性に腹が立ってきた。

 俺が知っている頃のルイサは俺に忠実で、何でも言ったことをしてくれるような便利屋候補だったのに。


「いきなりなにすんだよっ!」


 俺は槍を思いっきり跳ね返すように力を加えた。


「あっいて!」


 ルイサはそれに対応することができず、情けない声を出しながら尻もちをついた。


「ふぅ~……。その槍さばき。たしかにルイサのものだ。ほら?」


 俺はそう言って、今気づいたかのように手を差し伸べた。

 まぁ現実、今気づいたんだけど手を差し伸べたのは

槍で攻撃してきただけで勝手に腹立って意地悪をしたことに罪悪感を感じたからだ。 

 まぁそんなこと、到底本人には言えるはずがないんだが。


「あっ、ありがとうございます……」


 ルイサは差し伸べられた手に、少し恐縮しながら握り立ち上がった。 

 そのせいで俺の手は泥だらけになってしまった。

 まぁこうなることは想像してたんだけど、結構臭いな……。一体なんの泥なんだ? あとでしっかり洗わないと……。


「一体今までどこで何してたんだ?」


 俺は手についた泥をを馬車にこすりながら聞いた。

 するとルイサは、


「それが聞いてくださいよ!!」


 勢いよく肩を掴みながら言ってきた。

 あぁ〜……。服も洗わないと……。


■□■□


「大変だったなぁ〜……」


 一時間もの長時間にも渡るルイサの話をまとめるとこうだ。

 ダーサイドクラッシャーで自分の無力感を感じた彼は力をつけるために国を出て旅を始めた。最初は知らない馬車の中で、どうすれば手っ取り早く強くなれるか聞いたところ冒険者になることが手っ取り早いと教えてもらった彼は冒険者となった。そして、その日暮らしの生活を続けていたそうだ。だが、数日でその生活をしていて自分は強くなれるのかと疑問に思った彼はなんと冒険者をやめたそうだ。


 ここまでの話を聞いていた俺は思わず唸ってしまった。だってそうだろ? そんな決断、めったにできるもんじゃない。

 

 まぁ俺のリアクションなんておいておいて、冒険者をやめた彼は次にある強い人のもとで修行をしたそうだ。迷宮へと挑んだ。


 その中には見たことのない魔物! 

 見たことのない景色!

 ありえないものが続いたらしい。まぁ、彼が迷宮の中で魔物と仲良くなったとかはめんどくさいから省くがなんとドラゴンまでも倒して人類未踏の最大級の迷宮を踏破したそうだ。


 うん。こいつ、俺より物語の主人公してるな。

 なにやってんだよ。

 それが俺のすべての話を聞き終わった素直な感想だった。


「はい。でもそのおかげで私は以前より強くなりました! 先程マサル様に負けましたけど……」


「そんな落ち込むなよ……」


 本当にそんなことで落ち込むなよ……。

 俺より物語の主人公になってる人物が現れた、俺のほうが落ち込みたいわ!


 俺がそう心のなかで嘆いていると、お腹に体重をかけながらあぐらの上で座っているトッティが口を開いた。


「む? お主。そのネックレスはどこで手に入れたんじゃ?」


「あっ、これはですね。先程話した迷宮の宝箱に入ってたんですよ! 迷宮のものなんですけど、別段普通のネックレスと変わらないんですよね……」


「そのネックレス。ちとわしによこすのじゃ」


「え? あっはい。どうぞ」


 ルイサは何を言っているのか理解できていないと思うが、トッティが言ってきたのでネックレスを渡した。

 そうだ。そうだった。

 こいつがいかに主人公っぽいことをしてきていてもこの中ではただの下っ端。便利屋なんだった。

 俺はなんて言う大事なことを忘れていたんだ……。

 ふふふ……これでもう嘆く必要がなくなったな。


「ふむ。ほほぉ〜……。なるほどなるほど……」


 トッティは手のひらでネックレスをコロコロと転がしながらなにかを理解したかのようなことを口走っている、


「トッティ。そのネックレスがどうかしたのか?」


 俺はさすがに急に変なことをしだしたトッティのことに疑問に思い問いかける。

 するとトッティは、


「いやこれ、神器じゃぞ?」


「はぁ?」


 ポケーっとしたいつもどおりのバカみたいな顔で、当たり前かのように言ってきた。

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