第36話 信じる人、信じられるひと


「なぁお主。何か隠してることあるんじゃないのかじゃ?」


 トッティが、いきなり俺のテントの中に入ってきてそんなことを言ってきた。

 その顔は眉をひそめ、いつになく険しい顔だ。


「……え? なにもないけど?」


 俺は急に隠し事があるのかと聞かれ、戸惑いを見せないことを意識しながら普段通りに答える。


 トッティはそんな俺の反応を見て、「はっ!」と勢いよく首を横に振り口を開く。


「そんな見え透いた嘘、バレバレじゃ。お主、神界から帰ってきてからおかしいんじゃ。気づいておらんかったのか? 一体神界で何があったんじゃ?」


 トッティは俺の顔を下から見上げる形で問いかけてきた。それも、顔をめちゃくちゃ近づけてきて。

 鼻息がかかってくきて、顔がくすぐったい。


「いやだから……」


 俺は慌ててトッティの顔から距離を取った。

 未来の俺からの声など絶対にこいつには言わない。そもそもそんなことを言ったとしても、こいつは鼻で笑うと思う。「お主、バカじゃな!」などと揚げ足を取りながら。なので俺は少なくともこいつに言うつもりはない。


 再び、「なにもない」と言おうとしたがトッティのほうが先に声を出した。


「で、何があったんじゃ? お主はわしらのことを心配していることはよくわかるんじゃが、それと同じくらいわしらはお主のことを心配してるのじゃ」


 トッティの言葉だけではなく、その声色からも心配しているのだということが伝わってくる。


「…………」


 俺はトッティがただただ心配してくれているのだということに気づき、無言になってしまった。


 こんなに心配されたことがない。

 いや、ある女性に何度も心配はされたのだがそれは小学生の時の話。そんなのはカウントに入らない。なので実質、ちゃんと俺のことをみてくれて心配してくれたのはトッティが初めてだ。


「わしらは仲間じゃろ? お主一人で抱え込むのは見てて辛いんじゃ。わしらはただ力になりたいだけなんじゃ」


 仲間。

 辛い。

 そうか……トッティも同じだったんだな。


「実は……」


 俺はそう思ったときには、口が開いていた。


 俺が隠していることをすべてを話した。

 俺が時間の石を触ったとき未来の俺からの声が聞こえてきたこと、その声からトッティや俺の周りの人たちがいなくなってしまうかもしれないこと。そして、近いうちに、大きな戦いがあるということを。


 そのすべてをトッティは真剣な顔をして聞いてくれた。こんなことこの前もあったきがする。だから未来の俺はトッティを失ってしまったことが悲しかったのだろうか。そんなことありえない……いや、ありえるのだが。まぁ想像ばかりしていても仕方ない。


 俺がすべてを話し終えたとき、トッティは「ほほぉ〜ん。そうかそうか……」となにやらわかったかのような言葉を発しこう続けた。


「全然理解が追いつかないのじゃ」


「あぁ……俺も未だに未来から声がくるなんて信じられない」


「うーむ……。過去に声を送るということはできないはずなんじゃが、未来のお主は時間の石を理解することができたんじゃろうか……」


 トッティは「むむむ?」と首を傾げながら悩んでいる。


「さぁな。ていうか信じてくれるのか?」


「む? もちろんじゃ。お主が聞いたことならそれが真実なのじゃ。」


 その言葉に俺は救われた。

 トッティは当たり前かのように言っているのだが、その言葉は俺にとって救いの言葉だった。

 「もちろん」

 俺は今まで、そんな相手のことを信じ切っているようなこと言われたことはない。言ったこともない。いつも、周りの期待に答えられないで失敗ばかりしていた。

 だがトッティが言ってくれた。隠しごとをしていたにもかかわらず、なんのためらいもなく。


 俺は深く、深くトッティの言葉を噛み締めた。


「まぁ、お主が今持っている神器すべてを身につけて用心することはわかるんじゃがまず戦いがあるんじゃったら、ここにいるファンクラブのやつらをどこか安全な場所に避難させないといけないじゃ」


 トッティは「うーむ……」と腕を組みながら真面目に考えてくれている。俺はトッティの言葉に確かにと共感した。

 

 だが「でも……」と続ける。


「安全な場所なんてどこにあるんだ? そもそもどこ、いつ戦いが始まるかもわからないんだから」


「そうじゃの……。はっ! いいことを思いついたのじゃ」


「なんだよ?」


 トッティの顔がなにか思いついたかのようにパッと明るくなった。

 俺はそれを見て、反射的に問いかけた。


「未来のお主が言っていたことをふまえると戦いというのは、お主に起きることなんじゃ。じゃから、わしらがここから離れれば被害は出ないですむのじゃ!」


「それだ!」


 このとき二度目にして、トッティの背中を大きく感じた。


■□■□


 俺たちはやることが決まりすぐ、サリアとトッティの3人で馬車でこの場から離れた。サリアにはなんにも説明しないで「この場から離れるからついてきてほしい」といった。もちろん、お小遣いなしで。それだけでサリアはなにか理解したかのような顔をして承諾してくれた。あのお金大好きっ娘なのに、お小遣いはあげられないにもかかわらずだ。


 馬車はもともとこの国に来たときに使っていたものだ。その時はもうひとりだれかいた気がするがまぁそんなこといい。

 俺とトッティは馬を扱えない。

 だがサリアだけが扱える。さすが、我がメイドだ。

何でもこなすことができる。それが強みである。

 って、まぁそんなことはおいといて俺たちは今絶賛砂利道を進んでおり揺れに揺れまくっている。


 俺が「一回止めてくれ」と頼みに行こうとしたらそれよりも先にトッティが馬の手綱を握っているサリアのもとにいった。

 俺はトッティも同じことを考えていたようで、安心した。


「なぁなぁ……サリアよ」


 揺れる馬車の中。

 トッティは、荷台から顔を出してサリアに問いかける。


「はい。何でしょうかトッティ様?」


 サリアは、馬のコントロールが難しいにもかかわらずその問いかけに丁寧に答えた。

 さすが俺のメイドだけある。


 トッティはサリアの返しを聞いて、険しそうな顔をした。ここからじゃ、横顔しか見えない。まぁ横顔だけで険しそうということがわかるのなら、本人は結構くるしいのだろう。


「これ、どこに向かっておるんじゃ?」


「それは……きゃ!」


 サリアはトッティの問いかけに答えようとしたら急に悲鳴をあげた。俺とトッティはどうしのかと思ったがその謎はすぐ解けることになる。


「なんじゃ!?」


「どうした!?」


 馬車がガツンという何に当たったような音を立てながら、急に止まった。 俺は何事なのかと慌てて荷台からでて、トッティの横に出る。

 目に映ったのは砂埃。

 砂埃なのでなぜ、急に止まったのか検討もつかない。俺は、サリアにどうしたのかと聞こうとしたとき。


「ふっふっふぅ〜……」


 馬車の下から、不気味な男の笑い声が聞こえてきた。

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