第33話 分岐点は唐突に


「誰だ!?」


 俺は思わず、多き声を出して周りを見渡した。

 いたのは、槍を少し俺の方に向け警戒態勢になった鎧たちと「ぼけぇー……」と口を開けている親子だった。

 もちろん、その声の主らしき人物はいない。

 俺は、時間の石に触ったら聞こえたのでまさかと思い手を離そうとしたら、

 

『今、だれだ!? と叫んだろ?』


 その男は俺がさっき言った言葉を予想していたかのようなことを言った。

 俺はその言葉に心が見透かされた気持ちになった。少し気になったので、手を離すのはやめておく。


『私のこの声を聞いているということは、君は過去の私だろう』

 

 過去……? 

 一体どういうことだ……?


『この声は未来のマサルが、時間の石に残した声だ。時間が限られているので簡潔に話す。必ず、7つの神器をすべて手に入れ新たな神となれ。以上――プツン』


 その声は「プツン」という機械的な音と同時に聞こえなくなった。

 本当にこれ、何なんだったんだろうか……。まさか、王冠を被ったおじさんの遊びにつきあわされているんじゃないか……? 

 

『あぁ〜……。んん。これって聞こえてるのか?』


 俺が疑心暗鬼になっていると、再び声が聞こえてきた。その声は先程の声よりかは、少しかすれている。別のやつなのだろうか?


『まぁ、そんなこと言っても返事が帰ってくるわけないんだけどね。ははは……』


 声の主は作ったような乾いた声で笑った。

 この人物といい、さっきのやつといい一体何をしたいんだろう?


『これは未来のマサルである私が、過去にいる私自身に時間の石を通してリアルタイムで話しかけている』


「これって聞こえてるのか?」


 俺はこの声の主が『リアルタイムで話しかけている』と言っていたのでとりあえず、時間の石に向かって問いかけてみた。


『いいや。聞こえてない』


 俺は脳内に響く声が、真っ先に返事をしたので聞こえているんだろうと思った。

 たぶんあれだな。

 未来の俺なら、意地悪してんだろうな。


『今、君は私の言葉を聞いて意地悪をしているのだろうと予想しただろ? 残念だったな。その予想は外れだ。未来の俺がその時考えそうなことに対して言ってみただけだ』


 …………。

 なにそれ……。

 さすがにそこまで読まれると、未来の俺が喋っていたとしても気持ち悪いわ……。


『そして今、気持ち悪いわって心のなかでツッコんだろ?』

 

 この声、さっきは王冠のおじさんがしてきているドッキリかなにかだとおもっていた。だけどこんなに今俺が考えていることを予想されると、この声が未来の俺から発せられているということに頷いてしまう。


 でも一人称が違う。

 俺は俺だけど、声の主は私。

 年をとったから一人称を変えたのだろうか……? ありえる。俺だったらありえる。


『まぁいい。今君が未来からの声を聞いているからと言って、真実の世界線を見つけたりとかそういうことはしない』


 それって、アレだよな?

 俺が大好きだったタイムリープ物のアニメ。やっぱりこいつ、俺っぽいな。


『少なくとも私の知っている限り、時間というものは一つの道から枝分かれするものではない。時間というものはいつも繰り返されているんだ』 


 ……? 繰り返されるってどういうことなんだ?

 う〜ん……。わからない。未来の俺、結構賢かったりするのかな?


『つまり今、この瞬間にも世界の始まりが起こっており、世界が終わる瞬間も起こっているってことだ』


 そうなってくると……??

 なんかややこしくてわかんね。


『たぶんこの説明でもわからないと思うから、簡潔に言うと現在と過去と未来は同時に存在しているっていうことだ。まぁ、もっとわかりやすく言えば円だな。未来という事柄は確定事項であり、決まっていることなんだ。だからぐるぐると過去、未来、現在を回り続けているってわけだ』


『まぁそんなこと言ってもこの頃の私には到底理解できないだろうが……』


 り、り、り、理解できないだと??

 このクソあま……。過去の俺に向かって失礼だろ!

 お前がこの声を俺に伝えてるってことは、何かしら変えたい過去があってのことだろ?? あぁん?? 礼儀ってものを知らないのか!!


『あぁすまない。別に知識マウントを取ったわけではないんだ』


 ふぅ……。謝ってくれるんなら別に俺はそこまで怒らないさ。俺も鬼じゃないからな。

 って俺、未来の俺に向かってまじでなにやってんだよ。


『すまない。無駄話が過ぎたな。早速というよりかは、ようやく私は君にこのメッセージを送ることができる』


 未来の俺は『おっほん』とわざとらしい咳払いをしてつづける。


『まず私というマサルは479万と2258回目のマサルだ。このことを踏まえると君は479万と2259回目のマサルということになる』


 急に何を言ってるんだ……?

 

『あぁ。全然理解できないんだな。わかるわかる。そんな君にこの未来の私がわかりやすく説明しよう。と言っても説明することなどあまりないのだが、君以外に失敗して未来に託した479万と2258人のマサルがいるということだ』


 ん?

 なんか不穏な話になり始めてないか?


『もちろん私もその中に入るので479万……っと、流石にくどいな。まぁつまり、マサルと言う人間は幾度となく異世界に飛ばされ失敗を繰り返しているということだ』

 

 未来の俺が言うとおりだと、俺は何度も繰り返しているって言うことになるんだけど……。

 でもなんでこいつがそんなこと知ってるんだ?


『そのことをなぜ私が知っているのかと言うと、神になったからだ。あぁ……この頃の私は神という存在を少し履き違えている部分がある。神が偉いというのは間違っていないのだが、神には○○の神というくくりはない。みな神であり神なのだ』


 神……?

 す、すげぇ〜未来の俺!!


 でもなんか最後の方の喋り方がちょっとうさんかさかったから信じられないな……。


『おっと。この言い方は、よく漫画やアニメで出てくるラスボス的な存在が自分のエゴを押し付けるときみたいだな。すまない。別に君のことを混乱させる気はなかったんだ』


 さすが未来の俺。今考えていることも大体予想がついてるってわけだ。


『さっきもいったと思うが私は、最初の私から受け取ったメッセージを頼りに神器を7つ手に入れ神となった』


 ……ん? 神器を集めると神になれるのか?

 そんなことさっきまでの声の中で説明してなかった気がするんだけど?

 ははは。俺っぽいミスだな。


 まぁ未来の俺のミスなんて大目に見てあげるけど、本当に神器を揃えると神になるれるんならなんで俺は異世界に飛ばされるとき、神器の回収を命じられたんだ? たんに、新しい神が生まれることを阻止するためか? 

 いや、まさかそいつはもっと高次元の神になるために……。いや、そんなことあるわけないよな。うん。神だし。

 

『私は選択を間違えた。なので結果的に目的は果たすことができたのだが、周りの者たちはは皆いなくなった。ミーちゃ。サリア。ファンクラブのみんな。もちろんその中に、今後ろで父親と仲良く話しているであろうトッティも含まれる』


 俺は急に未来の俺からの衝撃的な言葉に絶句した。

そして、時間の石を触りながら後ろを振り返る。


 するとそこにいたのは未来の俺が言っていた通り、トッティと王冠のおじさんが仲良くなにかを話していた。


『ちなみにトッティの父親は少し堅苦しい部分があるけど結構いいやつなんだ。私は神になりたての頃トッティの友人であったとして、かなり良くしてもらったからな……。まぁ……今はもういないけど』


 だんだんと未来の俺の声は暗くなっていき、元気がなくなっていく。


 未来の俺はなにか変えたい過去があって今の俺に声を届けているんだと思う。だけどなんでさっきから、肝心な部分を教えてくれないんだ?

 これも、意地悪なのか?


『お前今、全然肝心な部分を教えてくれないとか思ってないか? 私が犯してしまった選択や目的だったり、皆がいなくなった理由だったり。すまない。それは教えることができないんだ』


 未来の俺の声は申し訳無さそうに謝ってきた。

 そして、まだ続く。


『別に意地悪とかそういうのではないんだ。過去へと声を送り届けるのにはあるルールがあるんだ。それは―――――――――言うことだ』


 急に無音になり聞き取れない部分があった。

 

『あっ。やば……。――――――――った! すまない。もう時間がないようだ。今から大事なことを言うから耳をかっぽじってよく聞けよ!』


 だんだんと未来の俺の声が、遠ざかっているように思える。

 未来の俺からの大事なこと。

 俺は、遠くなっていって小さくなっていっている声に耳を澄ましながら聞く。


『家族を大切にしろ。あと、神器を早く身につけて決戦に備えろ。以上。―――――きっと私ならうまくいく。――プツン』


 その声は、再び「プツン」という機械的な音と同時に聞こえなくなった。


「なぁお主。さっきからその石とにらめっこしているようじゃが、一体何をしているんじゃ? もしかして本当ににらめっこしてるわけじゃないのじゃね?」


 トッティは俺のことが心配になったのか、「むむむ?」というような顔をしながら俺の目の前に来た。


「少し休みたいです……」


 もう、頭の中がゴチャゴチャだ。

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