第32話 The神
神界と言ってもそこは特段元いた場所とは代わりはない。あるとしたら、今歩いている場所の端が雲のような物体があるかないかというごく些細なことだ。
「おや? おやおやおやおや?? あなた人間じゃないですか!?」
「えぇ……まぁ」
俺は急にすれ違った老人のような人に話しかけられ、愛想笑いをする。この老人も、見た目はただの老けているじじぃだが、神だ。なんの神かは知らないがここにいる者たちは全員神。
「ほほぉ〜……私人間を初めて見ました……。それであなたはなぜここに?」
そのじじぃはあごひげをいじりながら俺に聞いてきた。
「あぁ。こいつを上位神様に渡しに行こうと」
「…………。そういうことですか。では」
老人は俺が手枷をし、口をふさいでいるティミスのことを見せると納得したかのようなことを言って去っていった。
「はぁ。疲れた……これで何回目だよ」
そう。この流れはもう10回以上も続いている。
すれ違った人たちに声をかけられてはこうやって答えている。もう、愛想笑いが気持ち悪くなってきてる気がする。
「神界にいる神は人族なんて見たことないんじゃ」
トッティは後ろからひょっこりと顔を出し、「自分は人族を見たことあるのじゃから、あやつらより上なのじ」というような自慢げな顔をした。
まったく……。今のこいつはバカというよりかはクソガキだな。ティミスのことを説得しに行ったときの、頼りになりそうな背中はどこに行ったのやら。
「あぁ〜もぉ……。目指してる場所はどこなんだ?」
「あそこじゃ」
トッティは、俺たちが進む道の奥の奥にあるかないかわからないほど小さな豆粒のような建物を指さした。
「はぁ!? あとどれ位かかるんだよ」
「そうじゃなぁ〜……。下界の時間にすると……ざっと一週間くらいじゃ!」
トッティはえっへんと胸を張りながら言ってきた。
こいつ、なんでそんなことを堂々と言えるんだ?
一週間だぞ!?
いや、こいつらは寿命が俺たち人族とは桁違いの年数なんだった……。それだともともと感じる、時間感覚が全然違うんだから仕方ないか。
今、俺と過ごしているこの時間もすぐ忘れたりしちゃうのかな……。
って、何変なこと考えてんだ俺!
自分ながら今のは気持ち悪かったな。
俺は「はぁ〜……」とため息をついて続ける。
「そんな歩くのめんどくさいわ。おいのじゃ。ちょっとこっちに来てくれ」
「む? ワームホールを使うんじゃな?」
「あぁ」
俺はそう言い、移動した。
■□■□
「何だきさまら!!」
ワームホールをくぐった先には、鉄の鎧を着た人たちに囲まれていた。その手には、先端が尖ったやりを持っている。
「えっ! ちょっとまってくれ!!」
「黙れ。とりあえずお前たちは牢屋に入ってもらう」
鎧を着た一人が俺の体を押さえつけていきた。
「待つのじゃ! わしのことを見よ!!」
トッティは右手で静止させながら俺の前に出てきた。そしてトッティのことを見た鎧は、ガタガタと継ぎ目を鳴らし動揺しているようだ。そんな中トッティは、俺の方を向いてウインクしてきた。
…………。
何をしたいんだ??
まったく理解できない。まぁ、こいつのことを理解するのはできないんだけど。
「トッティ様……? あなた様は現在下界にいるはずなのでは?」
「こやつらをお父様に見せるために一時帰ってきたのじゃ。ほら、早く門を開けるのじゃ」
トッティは俺たちのことを、雑に説明した。
だが、鎧はそれだけで言っている意味がわかったのか「こ、これは申し訳ございません!」と頭を下げ、
「おい! 門を開けろ!!」
門が開けられ、俺たちは目的地である城のような建物についたのだった。
■□■□
「して、わしに何用だ」
城に入った俺たちは、最初小部屋に通された。
トッティが言うに、「偉い人に謁見するからその準備じゃ!」だそうだ。
それほど、ティミスという女が重要視させられているということだろうか。いやまさか、あのトッティが帰ってきたことを知った鎧の反応から考えてトッティが来たからとか……。
俺はそんな悪い予想やいい予想。この先ありえるいろんなことを予想していた。
だがトッティが終始、鼻歌までも歌いながら「るんるん🎵」と楽しそうに歩いていたことがおかしかったのが少し気がかりだが。
そしてなんやかんやあって、今に至る。
目の前にいるのは大男。頭に王冠を被り、片目は失明。その身長は俺の10倍以上あるだろう。
この神こそ、ここ神界という場所で見てきた中での一番The神と言えるような人物だ。
「ほれマサル。お主が行くのじゃ」
トッティは俺の小声でそう言い、背中を押してきた。
俺はこの場の空気がされるがままに王冠を被った男の前に立った。足がガクガク震えているのがわかる。息も荒くなっていて過呼吸になりそうだ。
「すぅ〜……はぁ〜」
俺は偉そうなおじさんの前にもかかわらずまず、この緊張を解こうと深呼吸をした。
おじさんや周りの鎧たちはなんにも言ってこない。
なので俺は心が落ち着くまで何度か深呼吸をした。
「……んん。この者を捕まえたのでえっと……」
「ほう。こやつは、200年前に脱獄してから行方不明になっていたティミスか」
王冠のおじさんは、ティミスのことを眉をひそめながら見ている。
「ぺっ!」
ティミスはジッと見られていたことが気に食わなかったのか、地面に唾を吐き散らした。
「きさま!!」
「ふぅ……。牢屋に入れておけ。審議はまた今度だ」
「はっ!」
数体の鎧がティミスの体を拘束し扉の奥へと連れて行った。
これで、彼女とはお別れか……。そう思うと少し寂しい気持ちになる。だが、これは彼女が進んだ道。俺がとやかく言う言われはない。出会ってまだ数日だ。数日だが寂しいと思えるのはそれもまたどうなんだろうと思うのだが。
「大儀であった」
王冠のおじさんは背もたれに体重をかけてそう言い放った。
「あの……。それでですね……」
「ふむ。褒美がほしいか」
「あっはい」
「お主は我が娘と下界で仲良くやっているようだしな」
「え? 娘??」
俺は振り返る。
するとトッティは「ひゅ〜ひゅ〜ひゅ〜」と、わざとらしい口笛を吹いてごまかしていた。いやこんなのごまかしているとは言えないのだが、そうか。こいつがやけにテンションが高いと思っていたらそういうことか。
俺は口パクで
『なんでそんなこと言わなかったんだ!』
と聞いてみると、
『のじゃぁん。ふふふ……驚いたかの??』
子供のいたずらじみた顔で返された。
俺は詰め寄りたい気持ちになったが、
「ふむ。して、褒美はどうする?」
おじさんが再び、俺がに褒美について聞かれ慌てて前に向き直す。
「あっそうですね……。時間の石に触らしてもらいたいなぁ〜なんて……」
「はっはっはっはっ! 大罪人ティミスを捕まえてきて褒美をくれとせがんだ者が、何を望むかと思っていたがそんなことか。ついてこい」
おじさんはそう言って、重そうな腰を上げて立ち上がった。
■□■□
案内された場所は、小さな部屋。
そこは真っ暗であり、光は部屋の中心にある石から発せられている光のみだ。
「これが……」
その石は、青く透き通った色をしている。そして同時に神秘的な青い光を放っている。
俺が「はぇ〜……」と口を開けたまま呆然とその石を見ていたら、後ろから王冠の被ったおじさんの声が聞こえてきた。
「あぁ。これが、我が神界に奉られている時間の石だ。いつからここに置かれているか不明だ。そしてなぜ、時間の石と呼ばれているのかも不明。謎が多い石だ」
話してる内容から、この石はかなりの年月からあると推測できる。ということは、神器と呼ばれていたものは何千年、何万年もまえから存在していたと言うことになる。
俺はそこまで想像して、その考えを止めた。
そうだ。この石を奪いに来たんだった。
俺はついつい、空気に負けてするべきことを忘れていた。周りは鎧たちがいる。俺が怪しい行動に出たら拘束するつもりなのだろう。
まだ奪うときではない。そう思った俺は石から目をそらし、そこで思いとどまった。
なぜか? それはわからない。だが、今石に触らないといけない気がした。
それは義務なのか。俺のスキルの勘なのか。そんなことわからない。
だが、気づいたときには石に手を向けていた。
『聞こえるか?』
そして触った瞬間、俺に向かって聞いたことのない男の声がしてきた。
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