第24話 俺の準備
ここまでダルに計画を話してすべて順調だ。まぁ、サリアに出くわしたことは予想外だった。だけどもともとサリアには、なにか適当に言って安全な場所に隠れてもらうつもりだったからよしとしよう。
あとは俺の準備だけだ。
俺は、自分用に用意されたテントの中に帰ってきて心の中で意気込んだ。
まぁ準備と言っても、ダルに話したような面倒くさいことをすることは特にない。俺が戦う相手はトッティが神だと予想していたあの男。男には、ワームホールが効かない。あのときの敗因は、自分のスキルに頼りっきりだったということだと思う。
なので今回は接近戦。もちろん俺はナイフなど使ったことなどない。しかも見間違いでない限り、男は背中に大剣のようなものを背負っていた。それを考えるに、少なくとも男は俺よりも剣術が長けているかもしれない。
だがなぜ俺はスキルではなく接近戦にしたのか。
それはトッティがあいつが解除の指輪をつけていると予想していたと言うこともあるが、俺自身ナイフの扱いに自信があったからだ。もちろん、日本で生きていた頃ナイフおろか刃物なんて振り回したことない。
その自信どこから湧いてきたものなのかわからない。でもなぜかナイフを使ったら勝てる気がする。
俺はそんな勘を信じてナイフだけで戦う。
まったく……スキルにやられてるんじゃないか?
少なくとも今の俺はここに飛ばされる前と比べて、確実に精神面で変わった。人を殺し、親しい死を目の当たりにしたのもあるがおそらくそれとは違う。俺の思っている精神面というものは考え方そのものだ。
俺は引きこもりのときと言うか、その前から結構内気だった。死ぬ前はコンビニの定員に肉まんをオススメされるだけでもビクリと体を震わせ恐怖していた。
その様子を見ていた周りの人たちに笑われても何も感じることはなかった。俺は俺の世界で生きていた。
いや、そもそも外を知ろうとしていなかった。
すべてを諦めていた。
だが今はどうだ?
色んな人と話しても恐怖なんて一切感じることがない。更には仲間と呼べる人たちが周りにいて、俺のことを慕ってくれる大勢の人がいて。以前とは真逆だ。
まさかこれもスキルの影響なのだろうか。
みんな、誰一人も俺のことを大切に思ってなくただの魅了のような魔法だったりして……。
「ふぅー……」
いやいや、今はそんなこと考えるのはよそう。
目の前には大きな戦いが待っているんだ。
俺は深呼吸して脳の中身を空っぽにする。
「よし」
俺は一人、小さな声で気合を入れて左手に持っているナイフを腰にかける。
ちなみにこのナイフはさっき、ダルの部屋からくすねてきたものだ。別にくすねるつもりはなかったんだけど、手が勝手に動いていた。まぁ、いいだろう。あいつは逆に「わ、わ、私のナイフがマサル様の手にっ!」とか言って喜びそうだ。
ダルはトッティと同じようにまったく理解できない生物だからな。
少し心がソワソワしていた。
まさかまだなにか足りないのだろうか。
「念の為、念の為……」
俺は、何かあったときのために予備でもう一つくすねてきたナイフを内ポケットにいれておこ。
これで準備は万端。
あとはトッティにつく嘘を考えねば。
「ふむ。お主の武器はそれなんじゃな」
この聞き覚えのあるバカみたいな声は……。
「のじゃロリ……」
「のじゃ? いやそうじゃなくて、わしはトッティじゃ!」
トッティは俺のベットに横になりながら訂正してきた。服はラフそうな白Tシャツと、短パン。
もしこの姿をそういうのが好みの男性が見たらウハウハものだろう。
だが俺には刺さらない。
なぜって? 俺はお姉さんが大好きだ。
それに、ここに飛ばされてからいつも一緒にいるトッティなどで元気にならない。
「いつからここにいたんだ?」
「む? そうじゃのぉ〜……。ざっと1時間前からじゃ!」
「は?」
1時間……。1時間!?
俺はせいぜい、5分前ぐらいだと思っていたのでそれを遥かに上回る時間を聞いて驚きが隠せなかった。
「わしもついて行くのじゃ」
トッティは俺の方に歩きながら言ってきた。
「……は?」
「わしもついて行くのじゃ!」
同じ言葉が帰ってきた。
どうやら、ふざけて言っているわけではないらしい。
「それはダメだ」
サリアにもダメと言ったのだ。もちろん同じことを言う。トッティはサリアと一緒にここに残ってもらう。
実質、戦うのは俺一人。
俺一人で十分だ。
「なぬ〜!! わしはなんて言われようとも絶ったいについていくのじゃ!」
「いいからお前はここにいろ! ついてこられても俺一人でお前のことを守りきれない。これは遊びじゃないんだぞ!」
俺はふざけているような態度を取られ、腹が立ち怒鳴ってしまった。
言いすぎたと思い、謝ろうとしたが
「うっ……うっ……」
トッティの今にも涙が出そうな顔を見て、「ごめん」という言葉が口から出てこなかった。
そして俺が謝るよりも先にトッティが口を開いた。
「そんなこと分かっておるわ!! わしにとってミーちゃは親友じゃったのじゃ……。なのに知らない間に知らない男に殺されたんじゃろ……?」
トッティは俺に涙ながらに問いかけてきた。
そんな顔をされても困る。
俺はどうしたらいいのかと考えているとトッティは俺から少し離れた。どうしたのかと思ったが次の瞬間。「ゴーン……」という重い、教会のベルのような音と同時にトッティの体全体が光出す。
「え……?」
俺はこの状況に置いてけぼりにされていて何がなんだかわからない。わかるのは、鐘の音と同時にトッティの体が光りだしたということだけ。
光は少しづつ弱まっていく。
そして人のシルエットが見え、やがてトッティが見えた。だがその姿は先程とは変わっていた。
白いTシャツと短パンだけだったラフな格好が、神官……。いいやバスローブみたいな姿になっていた。
「わしのことは守らなくていいのじゃ」
トッティは俺のことをキリッとした目で見ながら決めゼリフのような言葉を決めた。
くどいようにも思えるが、俺にはそんなことされても何がなんだかわからない。
だが、目が変わった。
それはバカのような目というのは変わっていないのだがどこか、覚悟を決めたかのような目をしている。
ただの気のせいかもしれない。
だが、俺はその覚悟を無下にはしたくない。
俺も覚悟を決めるときか……。
「足だけは引っ張るなよ」
「うむ」
トッティは俺の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべた。
その笑顔はいつも見る笑顔だがどこか違く、だがどこが違うのかわからない笑顔だった。
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