第23話 準備は大事



 俺はトッティと協力してあの男から神器を取り戻すと決めた。強力と言っても前との関係から変わることはない。仲間だ。だが、現実的に言って二人で神器を取り戻すのは難しい。

 なので俺は今、ある人物に協力してもらいたくここに来ている。


「ふぅ〜」


 俺は深呼吸してテントの中に入る。

 テントの中は小さなベットそしてテーブルと椅子2つ。ファンクラブにどこにでもあるテントだ。


「やぁ久しぶり」


 俺は相手に気張ってほしくなく、軽いノリで話しかけた。

 その人物は勝手に入ってきて話しかけた俺のことを見て怪訝そうな顔をした。だが、すぐ俺だということに気づき目がキラキラし始めた。

 顔の移り変わりが激しくて見ていて楽しい。

 バカみたいだけど。


「おお!! マサル様ではありませんか! お体はもう大丈夫なのですか?」


 俺のファンクラブを立ち上げた男、ダルは俺の体をあちこち触りながら心配してきた。

 うん〜ん……。

 こそばゆい。


「あぁ」


「さすがマサル様でございます! ささ、どうぞこちらにお掛けになってください」


 ダルは俺の言葉を聞き、先程まで自分が座っていた椅子の対面にある椅子を引き促した。

 うむ。なかなか、気が利くな。


「よいしょっと」


 俺はおじさんのような掛け声をしながら、「ドス……」というような音が出そうに座った。


「いやぁ〜……。まさかあのマサル様が私の部屋に来るなんて信じられません! 夢が現実になるなんて……」


 ダルはを俺のことを見ながら、手を合わせ拝んできた。

 本当にこいつは俺のことが大好きなんだろう……。

 俺のどこにそんな魅力があるのかわからないけど。


「まず俺の仲間を、助けてくれてありがとう」


 俺は椅子に座り開口一番、頭を下げ感謝した。

 そう俺は最初これをしたかった。

 もしトッティたちが路頭に迷い、今も俺が屋敷のあとで野垂れ死んでたと思うと頭の中が引ちがれそうだ。


 ダルは俺が急に感謝をしたことに「なんと!?」と驚きつつも、状況を理解したのか「いえいえ……」と続けた。


「我々はあなた様のファンなのです。それくらい当然のことなのです」


 俺はダルがこう言うだろうと予想していた。

 だってこいつは俺のファンだ。

 まぁ、果たして野垂れ死にそうな男とその取り巻きみたいな奴らを助けることがファンとして当然なのかは考えるのはやめよう。


 それがこいつらにとってのファンと言うものだろう。それを俺がどうこうさせる必要はない。

 って、それはいいや。


「それで聞きたいことがあるんだが……」


「はい。私はあなた様に隠し事などしませぬ。さぁ、なんなりと!」


 ダルは両手を広げ、声高らかに宣言? した。

 まったく。こういう人間は頼もしいものだ。


「えっとだな今、このファンクラブの会員数はどれくらいだ?」


「そうですね……。先日のここダーサイドクラッシャーでの数ですとざっと5万程でしょうか」


「…………いまなんつった?」


 俺は、ありえない数字をあたかも当然かのように言ってきたので思わず聞き返した。


「隠し事などしませぬ」


「いやその後」


「5万程でしょうか」


 5万……。

 俺のファンクラブの総員は5万人もいるのか……。

 俺はあまりにも多い自分のファンの数に呆然とした。

 だって5万だぞ!? 5万。

 俺ってそんなに魅力的なのかな……。

 少し勘違いしそうなんだけど。


「それって本当に5万人もいるんだろうな? ……なんか、いけないものを売ってファンを増やしたりしてないよな?」


 俺は念の為、聞いてみた。

 おそらくダルは俺のことを神かなにかだと思い、ファンクラブは宗教かなにかだと思っているのだろうか。

 こいつは俺のことを完全に信じ切ってる。そこが頼もしいところであって怖いところでもある。


 俺はダルることを心配していたら、ダルは昇天したかのような気持ちよさそうな顔をしながら言ってきた。


「私どもは迷える子羊に、いかにマサル様が偉大かということを享受しているのです。決してものを売ってファンを集めるなどと言う卑劣な行為はしておりません!」


「そ、そうか……。いや、そうならいいんだけど」


 俺は急に死にものぐるいで訴えてきたダルにビックリしちびりそうになった。

 本当になんなんだこいつ。

 情緒不安定だな……。


「そのファンのやつらを……」


 俺は全て話した。このあとの戦い。

 そのすべての計画を。


 俺が計画を話しおえるとダルは「ふふふ」と言う不気味な笑いをし、


「そんなことしたらここ、ダーサイドクラッシャーの人々が混乱に陥りますよ?」


 ニヤニヤしながら俺に問いかけてきた。


「それが目的なんだ」


「さすがマサル様です。仰せのままに」


■□■□


 俺は話を終え、テントを出たとき、ある人物をすれ違った。白と黒のメイド服をきている少女。

 サリアだ。

 俺はたまたますれ違ったので、立ち止まりなにか世間話でもしようかと思った。

 だけど世間話ってなにからが世間話なんだ? 

 と疑問に思ってしまう。

 俺は思いもしれない場面で、長い間引きこもっていた代償が出てきたことを感じつつなんとか必死に声を出そうとしていたとき。

 サリアは覚悟を決めたのか、真剣な顔をしたあとに「ゴクリ」と唾を飲み込み口を開いた。


「あのっマサル様っ! お話は終わったんですか?」


「サリアじゃないか。こんなところで何してるんだ?」


 俺はどうすればいいのかわからず、あたかも今初めてサリアと出会ったかのように振る舞った。


「え!? え、えっとそうですね……」


 目の挙動。呼吸の乱れ。

 嘘をつくときにする、髪の毛の毛先をイジる癖。

 ははぁ〜ん。

 こいつまさか、盗み聞きしてたな?


 俺はそう勘づきあらかじめ釘を差しておくことにした。


「サリアはダメだからな」


「私だって……」


 サリアは拳を握る。

 ミーちゃのことを殺した本人に復讐ができるというのだ。感情が高ぶるのも理解できる。だけどサリアは、スキルももっていないただのこの世界の人間。

 彼女の意思を尊重して一緒に戦うことはできない。

 ダメなものはダメだ。

 それはいくら、悔しそうにしていてもだ。

 なぜなら……。


「今じゃお前も俺の仲間の一人なんだ。これ以上仲間がいなくなったら立ち直れない……と思う」


「わかりました……」


 サリアは俺の渾身の訴えに渋々理解してくれた。

 これは俺の本心。トッティにも言っていないことだ。

 俺の中でいつの間にか彼女らは心の一部になっていた。そのことに気づけたのはミーちゃがいなくなってからだ。もう……今も味わっている、心の一部がなかなったかのような喪失感はもう味わいたくない。


 俺が生きている限りあいつらのことは俺が守る。

 誰にも言うわけではないが心の中で勝手に決めた。


「そんなに暗い顔するな。大丈夫。俺は死なないから。サリアの分まで懲らしめてくるさ」


 俺は、猫が餌をもらいなかったときのようにしょんぼりしているサリアのことを元気づけようと頭を撫でて囁いた。

 サリアは俺の囁きに顔をうつむけながら、なんの反応もない。


 これは、俺がまだ引きこもりのときに見ていた『女性のことを元気づけるのに効果的な漫画』のワンシーンだ。

 間違いないはずなんだけど……。


「はい! 頑張ってきてください!」


「あぁ。サリアもここでできることを頑張れよ」


「はいっ!」

 

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