第21話 思い出したい過去の記憶


 ここは……どこだ?

 体が動かない。だけどなんか体がふわふわする……。手や足がない。周りには、すべり台や鉄棒がある。おそらくここは公園。なんだかとても懐かしい気がする。


「おい勝! そこをどけ!」


 俺の耳に、どこか聞き覚えのあるまだ声変わりのしていないような幼い男の声が聞こえてきた。

 勝? それは俺だ。

 このガキは誰に向かって言ってるんだ?


 俺は疑問に思ったがすぐ疑問は晴れた。

 そう、男の子の視線の先には同じぐらいの身長の一人の男の子とその後ろには怯えているような女の子がいた。


「いやだ! 絶対に退かない! だってどいたら、京子ちゃんのこといじめるだろ!」


 これはそうか。

 ……俺の過去の記憶か。いや、これは走馬灯か。

 ていうか走馬灯なら、なんで人に思いっきり殴られるっていう一番思い出したくない記憶なんだよ……。

 過去の記憶を思い出すんなら、ソシャゲのガチャで0.0001%の当たりを一発で当てたときの快感のほうが良かった。

 

「ッチ。そこをどけって言ってんだよ!!」


 男の子。大聖の怒りの拳が当時俺の頭に振り下ろされた。


■□■□


 そこは畳。

 大きな木のテーブルが一つあり、周りにはすべて木でできたような棚などがある。ここは京子ちゃんの家。そこに小さな男の子と女の子。当時小学生だった勝と京子ちゃんがいた。


「いてて……」


 どうやら俺は、涙ぐんだ目をしている京子ちゃんに湿布を貼ってもらっているようた。


 なんで場面が変わってるんだ?


「もぉ……動いちゃだめでしょ? ただでさえあざが大きいのに……。こんなに大きかったら殴られちゃったこと、親御さんにバレちゃうよ?」


 京子ちゃんは痛々しいあざを見ながら言った。


「ははは……大丈夫。うちの親、俺なんか気にしてないし」


 俺の親は俺には無関心。当時の俺はそう思っていた。だがそれは、子供の俺の接し方がわからなかっただけだったということを知るのは俺が引きこもりになってからだ。

 部屋のドア越しに父親が語っていた声は今でも忘れられない。俺の親は引きこもりになっても見捨てることはなかった。一人の子の親として、とても尊敬する。

 

「ねぇ。勝くんってなんでいつも私のこと助けてくれるの?」


「なんでって……。助けてほしそうにしてたから?」


 なぜ京子ちゃんを助けていたのか。 

 それは今になってもまだわからない。単純な哀れみなのか、好意があったから助けたのか。一体何なんだろう。


「ふふふ。それだった勝くんは私のヒーローだね」


「ヒ、ヒーローなんて言うなよ! 仲の良い友達だ!」


「□□□□□□□□!」


 京子ちゃんは俺の耳元で囁いた。


 あれ?

 このとき、京子ちゃんはなんて言ったんだっけ……。なんか大事なことだったんだけど……。


■□■□


「はぁはぁ……」


 俺は慌てて呼吸を整える。

 背中から出た汗が気持ち悪い。

 周りを見渡そうとするが体が動かない。首だけ動かすとそこには一人の男がいた。誰だこいつ。見覚えがない。


「ここは?」


 とりあえず問いかけてみることにした。

 男はその問いかけに、体をふるふると震わせた。

 何なんだこいつは……。


「お、起きた……。みんな、マサル様がお目覚めになったぞ!!」


「「うぉおおおお!!」」


 男が叫ぶとテントのような布の奥から雄叫びが聞こえてきた。

 男と女の声が入り乱れる、この雄叫び……。前にもどこかで聞いたことがある気がする……。どこだっけ?

 俺が疑問に思っていたとき、見覚えのあるもういるはずのない一人の人物が俺の視界に入ってきた。


「マサル! やっと起きたんじゃな……」


「……え? トッティ? こ、ここって天国?」


「天国のわけあるか。たわけが。ここは、お主のファンクラブの集会場じゃ」


 ファンクラブの集会場……?

 なんで俺がそんな場所にいるんだ……。

 まったく理解できない。


「マサル様……」 


「サリア? ……そっか、二人は無事だったのか。よかった……本当によかった」


 俺はトッティとサリアの心配するような目線を見て

心の底から安堵した。

 てっきり俺は死んだものだと思っていた。

 また俺は一人になったのかと思っていた。


「わしらは急に風圧みたいのに飛ばされてここに来たんじゃけど、あの後お主らはあそこで何があったんじゃ? なんでそんなにボロボロなのじゃ?」


「それは……」


「あの、ミーちゃ様ってどこにいるか知りません? マサル様の近くにはいなくて……」


「――――」


 俺はミーちゃのことを聞かれ、口を閉ざした。


「そうか……。ミーちゃが……」


 トッティは俺の沈黙になにか感じ取ったのか、ミーちゃがもうこの世にいないということを察した。

 目を細め、肩から力が抜けていってるきがする。

 とても辛そうだ。

 俺も辛い。


「えっ! ……グス。ミーちゃ様ぁ……」


 サリアも俺もトッティのことを見て、感づいたのか泣き始めた。


「ミーちゃは猫のくせに、俺が知っている誰よりも勇敢にこの世を去ったんだ……」


「もうこの際、何があったのかは教えてもらわなくていいのじゃ。とりあえず今はその体を癒やすのじゃ」

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