第20話 嵐
あの、謎のファン襲撃事件から早1ヶ月が経った。
あれからというもの、俺というか特にトッティとミーちゃのだらけ度が増した気がする。
「おいミーちゃ! そこはわしの寝床じゃ!!」
「ふん!」
「なぬ……。あぁ〜あわし、怒っちゃったのじゃ……。いざ覚悟なのじゃ!!」
「ニャヤヤヤ!! ご主人様助けてぇえええ!!!」
「頑張れ〜」
俺たちは相変わらず、ぐうたらしている。なんでも身の回りの世話をしてくれるメイドがいるので、下手したら国から追われる以前よりもぐうたらしてるかもしれない。
ん?
神器を探しにいけって?
ははは! 冗談言うなよ。
俺たちは今、くさるほどの金を手にしてるんだ。
そう金だ。金。世の中金があったら何でも買える。まぁ友情とかは買えないとかいわれてるけどそんなもの必要ない。俺の必要なものは金があれば何でも買える。まったく。この世界は最高だ。
このまま一生ここでぐうたら生活を送ろう。
だが、その生活は突然にして崩されることになる。
「ここ………や…………………か?」
とぎれとぎれだったが男の声が聞こえてきた。何を言っているのか聞き取れなかった。まぁそんなのいいや。
俺は、どうせ空耳か何かだろうと思った。
「――ブゥン」
その音と同時に一瞬にして、全てがなくなった。
見えるのは青空。屋敷の天井。いいや、屋敷まるごとがなくなっていた。冷たい土が俺の心を凍らせる。
「みんな!!」
俺は何が起きたのか全く理解できなかった。
だがそんなことよりも先に、先程までくつろいでいた仲間を探す。
「トッティ!!」
俺は慌てて、横向く。
トッティがいたはずのベットの場所には雑草が生えていた。
「ルシア!!」
端の方で紅茶を入れていたルシアがいたはずの場所には、われた二人分のティーカップがあった。
「ミーちゃ!!」
俺以外は全員いなくなってしまったのかと、絶望していたとき心を和らげる希望の声が聞こえてきた。
「ニャ……」
雑草の間から可愛らしい鳴き声とともに薄汚れた団子のような動物が近寄ってきた。
少し見た目が変わった程度で俺の目は欺けない。
「おいで」
「ニャウ……」
ミーちゃはトボトボと、右後ろ足を引きずりながら近づいてきた。
一体どうしたんだ。
いつものミーちゃなら飛びついてくるのに。
なんでそんなに怪我してるんだ?
俺はこんなにも元気なのに。
もう少しでようやくミーちゃが俺の腕の中に入って来そうだというとき、重低音な男の声が聞こえてきた。
「ふむ。ここか」
「えぇ〜……。そうみたいねぇ〜」
男と女がもともとは玄関だった場所から俺たちの方へと向かって歩いてきた。
「ミーちゃ」
俺は慌ててミーちゃのことを抱きかかえ、男と女を見据える。
男はムキムキ。
上半身裸で鍛え抜かれた筋肉が見える。その肌はなにかの切り傷でたくさんだ。これがこの人物の死線の数を物語っている。背中に抱えているのは剣だろうか。こちらからは柄がしか見えない。
女は一文字で言ったら美。
黒髪を肩の下まで垂れ下がっている。服は髪と同じ色の黒ワンピース。それが、ただでさえ素晴らしい胸やおしりなどの体のラインをより際立たせている。
なんでこんな人たちがこの場所をめぶみするかのように見ながら、こちらに歩いてきているんだろう。
いいや、こいつらが俺の屋敷を一瞬にして跡形もなくした張本人だ。特に確証はないが、ただ直感でわかった。
そう思っていたら男と女は、俺の目の前で立ち止まった。
「何だお前ら」
俺は敵意むき出しの目つきで問いかける。
俺の問いかけに、男は目の前に立ってきた。男は上から見下ろして見てくる。分厚い筋肉が壁のようだ。
俺がそんなことを思っていたら、男は口を開いた。
「命が惜しくばお前の所有物であるブレスレットをよこせ。今、よこせば殺さないでやる。俺は無抵抗の人間を殺す趣味はない」
俺は男からブレスレットという単語が聞こえてきて驚いた。こいつは、あれがどんなものなのかわかっているのか?
「――――。ブレスレットはやらない。あれは俺のものだ」
俺は見上げる。
男は俺の言葉が気に入らなかったのか、「ふむ」と俺のことを惜しむような目を向けた。
「ならば力ずくで奪うことにしよう」
男はその言葉と同時に胸ぐらをつかんできた。
俺は慌てて抱えていたミーちゃを地面におろし、
掴んできた一本の腕を無理やり引き離そうと暴れる。
だが鍛え抜かれ太く、傷跡が多い腕にはまったく意味をなさなかった。
「うっ……ぐっ……」
そして俺はなされるがままに宙に浮かされた。
腕から逃れようと、足で男の体を蹴飛ばす。だが男にはそれも、なんの抵抗にもならなかった。
もうこうなったら、奥の手しかない。
俺は自身の体と、ミーちゃを包み込むように入り口のワームホールを作ろうとした。だが、
「あ、え?」
ワームホールはでず、未だ男に宙に浮かされているまま。
なんだこれは。
まだ、今日はスキルを使う体力は残っている。
だが、ワームホールは現れない。
まさか、スキルを妨害できる魔法があるのか?
俺は思っていたようにスキルが使えず、困惑する。
「そうか。苦しいか。ならば、お前がこちらにブレスレットをよこせば離すことにしよう。寄越さないのならだんだんと強くしていく」
「がっぁ……は、な……」
男の言葉と同時に、首を掴む手の力が強まった。
呼吸をするのが難しい。頭に血がいっていないのがわかる。まぶたが重い……。
そう思い、目を閉じようとしていたその時。
ミーちゃの声を聞き目を覚ます。
「や、やめるのニャ! ご主人様を離すのニャ!」
ミーちゃは男の足をポコポコと肉球で殴りつけていた。
何してるんだ? 早く逃げてくれ!
俺はそう叫びたいのだが、首を締め付けられ口に出せない。
このままじゃあ、ミーちゃが……。
俺がそこまで考えていたが悪い予感は的中した。
「黙れ」
男の言葉と同時にミーちゃの首が飛んだ。
緑色の雑草に真っ赤な血がされる。
そして飛んだ顔は、コテッと地面に落ちた。
「……。これでおあいこだな」
「だ、ま……」
なにがおあいこだ。
こいつは俺の唯一の仲間のトッティ、サリア、ミーちゃを殺した。俺は誰もお前の仲間なんて殺してないじゃないか……。こうなったら、たとえ俺の命が無くなろうともブレスレットの在り処は教えない。
あれは初めて人を殺して俺が奪ったもの。
今では一種の宝物だ。
「ティミス。こいつは口がかたい。多分死んでも吐かないだろう。もう、探してくれ」
「はぁ〜い。わかりましたぁ〜」
探す……?
こいつは何を言ってるんだ?
「見つけましたぁ〜。これですかぁ〜?」
「ん? ちょっと見せてみろ」
男は女が持っているブレスレットに興味がいったのか、俺のことを地面に放り投げた。
「はぁはぁ……ケホケホ……」
あれは確かに俺がショウタから奪ったブレスレットだ。早く取り取り返さないと……。そう思ったのだが、もう立ち上がる気力が残っていない。
地面でただ寝そべることしかできない。
「……これだ。ティミス。用事は済んだ、帰るぞ」
「はぁ〜い」
男と女の去りゆく後ろ姿を見て、俺の意識は闇へと落ちていった。
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