第19話 奇襲!!謎の男!!



――夕食


「どうだ? そろそろ慣れてきたか?」


 俺はサリアが作ってくれたシチューを飲み込み聞いた。

 俺はてっきりサリアの口から、「は、はいっ! まだ失敗ばかりなのですが皆様のおかげで慣れてきました!」などという可愛らしいTheメイドのような言葉が聞けると思った。

 だが聞こえてきたのは、口にシチューの白い食べかすをつけているトッティの声だった。


「む? お主、もっと柔らかい言葉で聞くのじゃ。もしわしが、メイドになって雇い主にそんな口調で言われたらちびるのじゃ」


 俺はトッティの言葉にたしかにそうだなと納得した。


「すまん。えっと……そろそろこの屋敷のメイドの仕事は慣れてきた?」


「な!? お主それでは、サリアが友人のようではないか。そこの区別をしっかりするのじゃ」


 またもやトッティは俺の言ったことにケチをつけてきた。まぁ……たしかに口調で、メイドであるサリアの立場を区別しないといけないのは事実。


 俺がどうすればいいのかと真面目に考えていたとき、トッティはシチューを口に頬張った。

 そうシチューを口いっぱいに入れたのだ。

 俺はその様子を見て、「は?」と心の中で言った。

 もちろん口には出さない。だって、空気が重くなっちゃうし。

 俺はキレていることを隠しながら聞くことにした。

 

「じゃあどう言えばいいんだよ。……このバカにどうかご教授願います。トッティ博士」


「む? そうじゃのぉ〜……」 


「あ、あのっ!」


「む?」


「ん?」


「ニャウ?」


 いきなりサリアが会話に入ってきたので二人と一匹が疑問に思い、首を傾げる。

 サリアは「うっ……」と、少し言葉を続けることをためらったが深呼吸をし「えっとですね、」と続ける。


「私は別に今までの口調で大丈夫です。……それより喧嘩してほしくないです」


「そうニャそうニャ。最近喧嘩しすぎなのニャ。なんかあったのかニャ?」


 サリアの訴えに、先程までこちら側だと思っていたミーちゃが同調した。


「いや別になにもないのじゃ」


「あぁ……そうだな。何も変わってないな」


 俺はトッティの意見に同意する。

 本当になにも変わっていない。変わっていないというよりかは、もとからこんな関係だったと思う。だって俺は異世界人でこいつは一緒にここに飛ばされたバカな神。


「そうなのかニャ……? われが知ってるご主人様たちはいつも楽しそうに笑っているのニャ」

 

 ミーちゃの言葉に結局、空気は重くなってしまった。


■□■□


 ミーちゃが言っていた言葉について考えていた俺は、なかなか寝付けずにいた。

 でも最近は……。


「パリィン!」


 ガラスが割れた音がした。


「なんなのじゃ!?」


 トッティも起きていたのか、その音に素早く反応した。それも大きな声で。

 

「みんな! 絶対にここから動くなよ!」


 俺は誰かがこの屋敷に侵入してきたことを考え、できるだけ小さな声で言った。

 まだ掃除が行き届いていないから、みんな同じ場所で寝ていて助かった。


「わ、わかりました!」


「わかったニャ!」


 俺はサリアとミーちゃの声を聞き安心する。そして、なぜガラスがわれたのかと疑問に思う。

 今日は風邪が強くない。自然とわれてはいないのだとしたら、屋敷に窓をわって入ってくるような連中は限られている。盗賊かなにかだろう。


 俺は、どうしたものかと考えていたがもう遅かったようだ。なぜなら、人の影がトッティの体を掴んでいたからだ。


「動くんじゃねぇ。こいつがどうなってもいいのか?」


「や、やめるのじゃ〜!!」


 人の影が月明かりに照らさた。

 そいつは男。俺より身長が高い。腕でトッティの首を締め逃げないように固定している。その逆の手にはナイフを持っており、刃を今にも突き刺そうとしていた。


 …………。

 なんかこんな状況、前にもあった気がするな。


「なんかこんなこと前にも起きたことある気がするのじゃが、それはわしの勘違いかのぉ〜!?」


「いや、勘違いじゃないぞ」


「いいから早く金をよこせ。金を持ってくりゃあこのガキを開放してやる」


 男は俺の言葉を聞いて、なめていると勘違いしたのかさらに刃をトッティの首に近づけ脅す。

 俺はどうしたものかと考えていたとき、人質であるトッティが口を開いた。


「わしはガキてはない!! わしは上位神の娘であり今年でちょうど300歳なのじゃ! 見下すなよ下等種族が!!」


 トッティは捕まり、殺されそうにもかかわらず「ふふん」と鼻を高くし男のことを見下した。


 男はそんな様子のトッティをどこか遠い目で見ている。


「…………この子はちょっとした大変な時期でね?」


「なんじゃそれは!?」


 トッティは俺の言った言葉に子供のようにわめきながら反論してきた。俺はこの状況を見て、実践練習をするにはちょうどいいと思い舌なめずりをする。


 あっ。アニメとかに出てくる悪役みたいに気持ち悪い舌なめずりではなく、ちょびっと舌を出しただけ。


「なぬ!?」


 トッティは目を丸くして驚いた。

 それもそうだろう。なぜなら先程まで首を締め上げるように人質にされていたにもかかわらず、急にベットの上に座り込んだからだ。もちろん、トッティに限定してワームホールをつくったからだ。

 

 そして、俺はもう一つ盗賊に限定して入り口のワームホールをつくった。

 

「さぁ。盗賊さん。」


 出口のワームホールは俺の足の下。

 つまり、ベットで俺が見下ろす形で盗賊の体を足で固定しているわけだ。


 盗賊は超常現象が起きたにもかかわらず全然怯えていない。むしろさっきより目を見開いて嬉しそうな顔をしている。

 何なんだこいつは。

 初めはトッティでさえ、ビビってたのに。


「おい! なんか言ったらどうだ?」


 俺はついつい、何も反応がなかったため高圧的な態度になった。そしていついでに足に力をを入れる。

 それに流石に盗賊は顔を歪ませた。


「まさかあなた様はマサル様ではありませんか!?」


 盗賊は先程までの悪い目つきではなくなり、キラキラした目で見てきた。


「なんで俺のことを知ってる?」


 俺は突然のことに困惑する。

 なぜ、俺の名前を知っているのかと。

 まさか、俺のことを殺しに来た暗殺者とかだったりして……。そこまで考えたとき、盗賊が驚きの事実を口にする。


「はっ! 申し遅れました! おらぁ、あなた様のファンです!」


「ファンだと?」


 ファン? 

 ファンってあの、ファンだよな?

 この前、俺が下僕かなんかになりたがってたやつを無理やりファンって形で抑えたのだよな?

 …………。悪質なファンは嫌いなんだけどな。

 って言うか、あの中にこんな顔のやついなかったきがする。


「はい! 俺は、会員ナンバー0012877です!」


 俺は会員ナンバーの数を聞いて絶句した。

 

 0012877だと……。

 お前の下に1万人以上いるのか……?

 まだ、俺がファンになることを許可して1ヶ月しか経ってないんだぞ……。

 一体どうなってるんだ。


「なんじゃこやつ!!」


 本当になんなんだよこいつ。

 トッティの意見に同感だ。なんか、気持ち悪いわ。

 ファンクラブがあるアイドルとかこういう気持ちなのだろうか……。


 俺が勝手にアイドルの苦渋に共感していたとき、まだふまれたままの盗賊はトッティのことを指さした。


「もしや、この方が噂のマサル様のペットですか?」


「わしはペットではない!! ペットはこのミーちゃじゃ!!」


 トッティは自分のことをペットだと間違われはらがたったのか、ウロチョロしていたミーちゃをつかみ前に出す。


「神獣様ではありませんか!?」


「ニャウ」


「はぁ……お前。ファンがどんなものなのか知ってるのか?」


「? 好きな人のことを応援することですよね……。あっ、俺はここがマサル様のお屋敷だとはしらなくて……」


「たとえ、この屋敷が俺の屋敷だと知らなかったとしてもこれは完全なる違反行為だと思うよ」


「は、はぃ……ごめんなさい」


「よし。今から俺が勝手にファンクラブの規則を変える。今後、悪いことはしないで人助けをしなさい」


「す、す、す、すぐ伝えてきます!!」


 盗賊はその言葉を最後に、われた窓から走っていった。

 え? 大丈夫か? 

 この部屋、二階なのに……。

 下に草むらとかも一切なくて、砂利なのに……。

 大丈夫!?


 俺は心のなかで盗賊の命の心配をしていたとき、トッティが自分のベットから俺の方へと移ってきた。


「おう。どうした?」


 トッティは俺の問いかけに答えることはせず、隣りに座ってきた。

 そして「はぁ〜……」と重いため息をつき、遠い目で盗賊がいなくなった窓を見ながら話しかけてきた。


「お主。大変なものをつくってしまったようじゃの……」

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