第18話 ワームホールの研究よりもメイドさんに目がいってしまうんですけど



 新しいメイドを雇ってから一週間が経とうとしていた。新しくこの屋敷に住んでいる娘。ルイサは真面目で頑張り屋。

 最初こそはまだこの環境に慣れていなかったのか、ミスが多かったが今はもうミスなど一度も犯さない。一度やらかしてしまったことはちゃんと勉強して二度目に活かす。まったく。俺とは正反対の正確だ。

 制服と称し、メイド服を渡した。

 まぁ……言ってしまえば俺の好みってやつだ。


 って、サリアについて語るのはまた今度にして……。今は研究をしたくてこの地下室にに来てるんだった。


「よし」


 俺は気合を入れて、意識を無理やり研究モードにする。まぁそんなものないんだけど。


 俺はスキルで使うことができるあのワームホール。俺はそれに、ある可能性を考えていた。なので今日は一人で実験と称しこの場にいる。

 なんたって実験だ。何が起こるかわからないからな。


 実験1は体をワームホールにいれたらどう見えるのか?

 これは結構重要だ。

 自身の体を部分的にワームホールにいれたら、断面などないのか?

 はたまた指の断面がみえるのか?

 この違いでワームホールは、どのように対象を部分的にその場へと移動させているのかということがわかる。


「ふっ……」


 俺の人差し指のすぐ横にに小さな黒い穴を作った。

 ワームホールだ。

 そして人差し指を出す方のワームホールは、それほど大事ではないので適当に横に作っておく。


 ワームホール2つの準備が完了した。

 俺はいつになく緊張しているが、覚悟を決め指を入れる。何度かワームホールに体を突っ込んでいるが、自分の体を入れるときの不安感は拭うことはできない。

 

「おぉ……」


 相変わらず、特に痛みはない。

 ワームホールの断面は特に変わっていない。

 そう変わっていない。

 ということは、これは部分的に移動させているわけではなくそこにある対象を、出口へと移動させている。

 簡単に言うと、入出口のようなもの。

 

 実験2は食べ物を移動させたときに変化があるのか?

 これもだが、結構重要だ。

 もし、食べ物を移動させ何も変化が見られなければ俺は食材の画期的な移動方法を得てしまうことになる。そして、その移動方法をうまく使えばこの世界で億万長者にれるかも……。


「うへへ……」


 珍しく俺の脳が冴えてるな……。

 まぁそんなことどうでもいいや。


 とりあえず、俺があとで隠れて食べようと思っていた洋菓子を実験台にすることにする。

 これにすることによって、より変化が見える。


 俺は洋菓子の皿をしたに入り口をつくり下に落とし、


「カチャン」


 となりに出口をつくる。  

 最初、たしかにこの皿は下に落ちていくようにワームホールへと入っていったが、何も変化せずに出口へと降りてきた。

 何も変化せずに、だ。


「グヒヒヒ……」


 ってことは………。

 今日から俺の現代知識無双が始まってしまうのか!?

 このワームホールをうまく使ってボロ儲けできちゃうんじゃないの???


 肝心なものを忘れてしまっていた。

 それは、味だ。

 どれだけ、ものを移動させることができたとしても味が変わっていたら俺の現代知識無双が意味なくなる。

 恐る恐る指を舐め……。


「うっ……」

 

 何だこの味。

 …………本来の甘みがなくなってそれがすべて渋みに変わっている。

 一体どうなっているんだ?

 なぜ、味がこんなにも変わったのかは想像もつかない。


 俺は一人でできる研究が一段落つき、上に戻ろうかと考えていたとき扉が開かれた。

 入ってきた人物は、白と黒のフリフリな服を着ている。そして手にお盆をもっており、そこには1つのティーカップと角砂糖が。


「あの……ここに紅茶、おいておきます」


「うん。わかった。ありがとう」


 俺はサリアがもっている、その姿には似合わないお盆からティーカップを受け取り口にする。

 紅茶の苦味とその先にあるほのかなレモンの味。


 俺はその余韻に浸りながら目の前にいるメイドを見る。

 本当にこの子はメイドとして最高だ。

 もちろん、メイド服も似合ったっているのだが、


「いえいえ〜。私はメイドなのでこのくらい当たり前です……」   


 なにより謙虚。

 ドS鬼畜メイドさんっていうのも悪くないけど、こういう感じのTheメイドっていう振る舞いも高評価。

 本当に、これがメイドをするのが初めてだということが末恐ろしい。

 一国の王のメイドにもなれる気がする。

 …………それは飛躍しすぎか。


 俺はそこまで考えいいことを思いついた。

 一気に紅茶を飲み干し、ティーカップをお盆に戻し口を開く。


「そうだ。よかったら少しここで俺の研究を手伝ってくれないか?」


「えっ……。そ、それってもしかして私は実験台になるんですか?」


 サリアは俺の言った言葉を勘違いし、怯えた子犬のように俺のことを見てきた。


 俺は「ははは……違う違う」と苦笑し続ける。


「言い方が悪かった。えっと、俺の研究をどう見えたのか見ててくれないかな? もちろん。お小遣いをあげるよ」


「見ているだけなら……」


 サリアはあまり乗り気ではなさそうだったが、俺が「お小遣い」という単語を出した瞬間目にうるおいが戻ったきがした。


「オーケー。よし。じゃあ、俺の背中を見ていてくれ」


「はいっ!」


「ふっ……」


 作ったのはごく普通のワームホール。

 特に何も入れずに、その入り口だけを作った。

 俺は気になっていたことがある。

 それは初めてワームホールを使ったとき、トッティが「生首」という表現をしてきたことだ。

 

 そしてその表現を元に、ある仮説を立てた。

 もしかして、俺以外にはこの黒い穴は見えないかもしれないと。

 その仮説を立証するためには、別の人間がいないと確認することができない。


「何が見える?」


 俺はサリアに問いかける。

 サリアは「ムムム……」となにか悩んでいるということ、困っていることがわかるような可愛らしい言葉を口にしている。


「……とくになにも変わってないです」


「そうか」 


「え? これって失敗ですか?」


 サリアは心配そうに俺を見てきた。


「いや、今のは確認だから失敗とかはない」


「そうですか」


 そう。これは確認。

 だがこれで、人には俺のワームホールが見えないということが仮説ではなくなった。

 人に見えないということは、いろんなことができる。例えば、こっそり八百屋に売っている果物を盗んだり。ギルドから金を盗んだり。

 ……ってそれはただの窃盗じゃないか!

 いかんいかん。

 なんか最近は、スキルに墜ちることはなくなったけど脳内が盗賊みたいになってきてる気がする。

 

「そうだ。……じゃあ今度は俺の体を瞬きしないで見ていてくれ」


「はいっ!」


 今度のは研究というよりかは完全に気分転換だ。


「行くぞ……ふっ」


「あれ? ……マサル様?」

 

 サリアは急に消えたキョロキョロと周りを見渡す。

 くくく。これ、結構面白いな。


「わっ!」


「きゃやややや!! おばけぇえええ!!」


「いて!」


 サリアが無我夢中に両手を振り回した。その勢いで手に持っていたがお盆がたまたま俺の顔に当たってしまった。

 まぁ、実際は全然痛くはない。

 ほっぺたをビンタするように当たったけど、ミーちゃの猫パンチのほうが痛い気がする。

 俺って急に当たるとびっくりして痛くないけど、とりあえず痛いって言っちゃうんだよね。


「へ? マサル様? あれ? あっ叩いてごめんなさい!」

 

 サリアが謝ってきたので俺は「全然大丈夫だよ」と言おうとしたのだがそれは中断される。


「きゃっほぉ〜なのじゃ!!」

 

 変な聞き覚えのある幼女の奇声とともにドタドタと、急いで階段を降りてくるような音が聞こえたからだ。

 俺とサリアは扉に釘付けになっていた。

 まぁ俺は誰が来るのか予想はついてるけど。


「何じゃどうしたのじゃ!! この痴漢取締役のトッティ警部になんでも相談するのじゃ!!」


 やっぱり勢いよく扉を開けて入ってきたのはトッティだった。その服装は、まるで本物の警部かのようなスーツだった。ロリのスーツって結構いいな。まぁロリがトッティだからすべて台無しだけど。


「いや、」


「お主は黙っておれ!! サリアよ。この変態に密室で何をされたのじゃ? 大丈夫。おんなじ女のわしになんでも相談するのじゃ」


 トッティはサリアの目の前にいき、両手を握り話しかけた。

 サリアは饒舌に喋るトッティを目の前にし「オドオド」としていたが、口を開く。


「い、いえ別に何もされてません。ただ私が急に後ろから現れたマサル様にビックリしただけで……」


「…………。嘘を言わされているのじゃな」 


 トッティはサリアの言葉に納得がいかなかったのか、勝手に思い込んで心配そうな目を向けた。


「いやそれが本当だからな」


 俺は面倒くさくなり口をはさむ。


「あぁん? お主には聞いておらんのじゃ。黙っておれ」


 トッティはまるで、一昔前ヤンキーかのように俺のことを睨めつけて言ってきた。

 まぁ、一昔前のヤンキーなんてしらないんだけど。


「あのトッティ様……。本当に何もされていませんので大丈夫です」


 サリアは俺とトッティが睨めあっているところを見て喧嘩になってしまうかもと思ったのか、慌てて止める。


「そ、そうか。お主がそう言うんならとりあえずそういう事にしておくのじゃ。……でも何かあったらいつでもわしに相談するのじゃぞ?」


「はい。わかりました」


 トッティはサリアの言葉に満足そうな顔はしていなかったが、その言葉を聞き「じゃあのぉ〜!」といい階段を上がっていった。

 こいつは何をしたかったんだ?

 疑問が残るが、まぁどうせそんなこと考えるだけ無駄だろう。

 俺は頭を切り替える。


「よし。じゃあ俺たちもいくか」


「あの、マサル様。研究の続きは?」

 

「ん? それはもう終わったさ。ほらみんなでご飯食べよう」


 俺は扉の前に立ち右手をサリアに向けた。


「は、はいっ!」

  

 サリアは俺の言葉を聞いて、「ぱぁっ」と顔を明るくして手を握ってきた。


 むふふ。

 怪しまれずに、女の子と手をつなげるなんて役得だな。

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