第15話 ときに励ましは逆効果になってしまう



 わしがやはり助けに行こうかと思い来てみたときには、血を流した死体とマサルはその上に被さり倒れていた。

 そう、わしが来たときはすべてが終わったあとだった。何が起きたのか。それはその光景を見ればすぐわかった。マサルがショウタのことを殺した。

 あやつを一人でいかせるべきじゃなかった。

 わしの中で後悔だけが心のに残る。


 盗賊に「ショウタ」と言う名前を聞いたとき、わしが少し前に異世界に飛ばした人物を思い出していた。

 なのでわしはなぜあやつがここにいるのか考えた。

 だけど、結局何も答えが出す行き止まり。


 もうそうなったら、直接話すしかない。

 わしはそう思い、マサルがショウタがいるといっていた屋敷に来た。

 わしは最初、相打ちになってしまったのかと不安になったが脈を感じ取り安堵した。一方でその下にいるショウタの脈はなかった。

 わしは心がぐちゃぐちゃになった。

 だけど今、考えるべきことはマサルのこと。

 わしはこやつが死んだら、どうすればいいんだろう。とりあえず、少しづつだが両脇を持ちながら移動させた。体のほとんどが地面についたままだったけどそれは致し方あるまい。わしの力では持ち上げることなんてできない。

 

 そんなことを思いながら地上への階段を登っていたら上からゴツくて黒い服を着た奴らが来た。わしは、ショウタの残党だと思い自分の運命を悟ったが、どうやらあやつらには攻撃の意図がないらしい。


 そしてこやつらはショウタに操られていたらしい。        

 なのでそれを止めてくれたマサルには感謝したい。わしはそういうことならとマサルを寝室まで運ばせ、今に至る。


「ごめんのぉ〜……」


 わしは目を閉じているマサルに謝る。

 もちろん聞こえるはずもない。それは、自分自身への謝罪。


「ご主人様ぁ……」


 どうやらマサルのことを心配しているのはわしだけじゃないようだ。

 ミーちゃはマサルの方に行くのは悪いと思ったのか、わしの頭の上でマサルのことを見ている。

 その声からは心配していることがわかる。


「よっと……。お主はマサルと一緒にねるか?」


 わしはミーちゃを頭の上から膝の上へと移動させ問いかける。


 そんなに心配ならマサルの近くにいたほうが安心できると思う。

 あと、なに気に首痛いし。

 マサルはよく長時間こんなのできたな……。


「ニャ……そうするニャ」


「うむ。わしはちょっと仮眠をとるからもしマサルが起きたら起こしてくれ」


「了解だニャ」


 わしはその言葉を聞き、ミーちゃの「キリッ」とした座り方を見て目を閉じた。


■□■□


「うっ……」


 知らない天井だ。

 ここはどこだ……?

 なんで俺はこんな高そうなベットの上で寝ている?

 それに、体がそこらじゅう針で刺されたように痛い。


 俺は目を覚まし、起き上がることができないのでまぶただけを開けあたりを見渡す。

 あたりを見渡すと言っても、首を動かすことができないので実質見えるところ天井だけだ。


 俺はどうしたものかと悩んでいたとき、見覚えのあるきれいな白いフサフサな団子が視界に入ってきた。

 いやこれは団子じゃない。

 青い瞳。ピンク色の逆三角形の鼻。

 そしてヒゲ。

 これ……いやこの子はそう、


「ニャ! 小娘! ご主人様が起きたのニャ!」


 ミーちゃだ。

 ん? なんでこんなところにミーちゃがいるんだ?

 俺は、未だにこの状況が理解できない。


「う〜ん……そうかそうか。おいマサル。大丈夫か? わしが駆けつけたときは倒れてたお主と死体があったのじゃが……。あそこで一体何があったんじゃ?」


 ミーちゃの言葉に反応し、俺の視界に入ってきたのはトッティ。目をこすりながら聞いてきたのでおそらく寝ていたのだろう。


 …………今、そんな予想はどうでもいい。

 こいつ、なんて言った?


「し、死体? そうだ。俺はショウタと戦って殴られてそれで、なんか腹立ったから持っ立てたナイフで……うっ」


 俺は自分で口に出すことによって明確に何があったのか思い出した。

 それは、人を刺したときの声、感覚、気持ちまでも。


「おい、お主大丈夫か? その様子から察するに……。お主は殺めたのじゃな?」


「少しの間、一人にしてくれ」


 そうだ。

 一人で考えたい。

 なんで俺はこんなちびの、バカみたいな神に心配されないといけないんだ。俺はそんなにやわじゃない……と思う。

 それにこいつらには……弱いところは見せたくない。見せる部分はかっこよくて頼りがいがあるマサルの部分で十分だ。

 完璧で強くてかっこいい。

 それがこの異世界でのマサルだ。


「はぁ〜……。そうやってすぐ自分のことを閉ざして自分のせいにするのはお主の悪い癖じゃ」


「俺のせいだ……俺のせいでショウタは死んだんだ……」


「お主……」


 今の俺にはトッティが歩み寄ってくるような言葉が、バカにしているように聞こえた。


 どうせ何もわかってないのに。

 どうせただのやすい同情。

 自分は人を殺したことなんかないのに。

 俺の気持ちなんてわからない。

 

 もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。


「黙れ! そうだ。あいつを殺したのは俺だ……俺が殺したんだよ! やめてくれと言ってきても俺は容赦なく、ナイフでずたずたにした! 今もナイフで刺したとき感覚を覚えてる!」


「…………」


 トッティはいつになく真剣な顔で俺の悲鳴とも受け取れる言葉を聞いていた。


 俺はその様子を見て、こいつは真剣に俺のことを考えてくれてるのだと思った。

 なので先程までの勢いのあった声のトーンが落ちる。


「……またスキルに堕ちたんだ。俺は殺すつもりなんてなかったんだ……。今回は自分の衝動が制御できなかった……。本当に心まで完全に盗賊になったみたいだった……」


「マサル。いくら後悔しても。いくら考えても。それは実際、なんの意味のないことなのじゃ。あるとしたら自分の心が晴れて前に進めるぐらいじゃ」


「…………」


 トッティは俺の動かない手をその小さな両手で包み込んで優しく、俺の気持ちを配慮しながら言った。


 俺はトッティの顔を見て驚いた。

 その顔は笑っているのか、泣いているのかよくわからない。

 頬がつり上がっているが泣いている。悲しんでる。こんな表情初めて見た。その表情からは俺のことを心配していることが見て取れる。


 俺はそんな顔を見て、トッティの口から続けられる言葉を聞く。


「それができるかどうかで先の道は決まってくる。もし、考えずに歩いてしまったら真っ暗で何も見えず生きている意味すら忘れてしまえかもしれない。じゃけど、考えて結論を出したとき見える道というものは明確で、お主にとってかけがえのないものになると思うのじゃ」


 トッティは目を見て俺に訴えかけてきた。

 本当にこいつ、いつも俺と接しているトッティか?

 疑問に思う。

 その口調といい、話す内容といいあのちんちくりんのトッティとは大違いだ。だがそう思っても目の前で俺のことを励ましてくれてる人は、いいや神はトッティ。


 俺は今、初めてトッティが神だということを実感した。


「ニャウ……」


 俺はトッティの言葉に圧倒されていたとき、ミーちゃがトッティが包んでいる俺の手に体をスリスリとこすりつける。これがミーちゃなりの励ましなのだろうか。すごく嬉しい。

 静かになり、その重くなった空気をミーちゃが和らげてくれた。

 それを見たトッティは「ようするにじゃ!」と大きな声で前置きし話す。


「たとえその行いがスキルに操られていたとしても、ちゃんとしたことを振り返って自分なりの結論を出せと言うことじゃ」


「結論……」


 もっともらしいことを言っている。

 俺は確かにトッティの言うとおり、ちゃんと振り返ることはなさ大切だと考える。


「そうじゃ。結論じゃ。しっかり考えるのじゃぞ」


 トッティはその言葉と同時に椅子から立ち上がり、ミーちゃを抱え背中を向けた。


「どこか行くのか?」


「うむ。わしは後始末をしてくる。じゃからその間にちゃんと向き合うのじゃぞ?」


「あぁ……ありがとう。トッティ」


 まさか俺が、こいつに感謝する日が来るなんて思いもしなかった。


「ふふふ。いいのじゃいいのじゃ。お礼はまた今度じゃな」


「あぁ」

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