第14話 スキルって万能そうに見えてそうじゃない



「ここは……?」


 俺が無意識に声が出るのも無理がない。

 地下の階段を降りていった先にあったのは頑丈そうな鉄でできている一つの扉。勘で俺は、この先に求めているものがあるのだと思い開けた。

 そしてその先がなにもない部屋だったからだ。


 この屋敷の様々な部屋を見てきたのだが、だいたい用途にあった部屋ばかりだった。

 それを踏まえて、ここはなんだ?

 単純な疑問が俺の脳内を飛び回る。


「がはははっ! とうとうだどりついたな!」


「誰だ!」


 俺がアホな脳細胞を駆使しこの場所は何なのかと考えていたとき、急に後ろから声が聞こえ反射的に振り向く。


「俺様は混沌の国、ダーサイドクラッシャーの上から数えて二番目のショウタ様だっ!」


 そいつは、俺が入ってきた方の扉から赤いマントを「バサリ」と気持ちいい音を立てながらやまびこをするように大きな声で入ってきた。


 ショウタ。

 そうか……こいつがショウタなのか。

 名前だけ聞いたときは、細マッチョの好青年をイメージしていた。思い込みは良くないな。


「……なんで俺がここに来ていたことを知ってたんだ」


「がははっ! ショウタ様が名乗ってやったのにお前の自己紹介はしないのかよっ! まぁいい……。なんで知っているかって? そりゃ俺様の人形を気絶させたからにきまってんだろ! がははは!」


 ショウタは楽しそうに笑いながらどこか恐ろしいことを言ってきた。


「人形?」


「がはははっ! お前はそんなことも知らずにここに来たのか! その勇敢さだけは褒めてやるぞ」


「お前まさか、日本人か?」


「――――! がははは……。あぁそうだ。俺は日本人だ!」


 ショウタは日本人とい言葉を聞いた瞬間、少し嫌そうな顔をした。なので、どうやらこいつが言っていることは嘘ではないようだ。

 

 俺はショウタの様子を冷静に観察しつつも、この世界で初めて会う日本人に出合い興奮を隠しきることができなかった。


「はは……そうか。やっぱりそうか! 俺の名前はマサル。お前と同じ故郷出身だ」


「……それがどうした」


 ショウタは俺の興奮とは真逆に、先程までの楽しそうな笑みがなくなっていた。

 だが興奮している今の俺はそんなことに気づくこともなく、口早に要件を伝える。


「ちょっと頼み事があるんだけど、同郷のよしみであるものを貸してほしいんだよね」


「ははぁん? そういうことか。まぁいいぞ。同郷のよしみで何でもくれてやる」


「神器であるブレスレットなんだが……」


 俺がその言葉を発した瞬間。

 体が宙に浮いた気がした。


「いっ……!」


 その浮遊感のあとに背中に強烈な痛みが走る。

 正面を見るとショウタの顔がある。

 どうやら俺はショウタに手で壁に押さえつけられているようだ。


 いきなりのことで反応しきれなかった。


「そうか! お前はあの神具がほしいのか! それは、いくら同郷だったからと言ってブレスレットを渡すことはできない! 欲しかったら自分の力でこの俺様を倒し奪い取ってみろ!」


「もともとそのつもりだ!」


 俺は懐に隠し持っていた、もしものときのために買っておいたナイフでショウタの顔面を目がけ、きりつける。


「おっと。こんな軽い力で俺様に勝てるとでも思ってるのか?」


「チッ……。くそ!」


 俺の渾身の攻撃はショウタの人差し指と中指で抑えられ、簡単に受け止められた。

 確実に当たったと思ったが、ショウタの反応速度は異常だ。


 俺はこの攻撃で終わりだと思い、ニッコリと笑っているショウタの股の間をくぐり抜け、くるくると体をひねらせながらその勢いを利用して攻撃を食らわせる。

 

「ほいさぁ〜! がはは! ブレスレットを奪いに来たというのに大したことないな! 次は俺様の番だ!!」


 またしても渾身の攻撃を簡単にあしらわれた俺は、ショウタのその言葉を聞いて慌てて後ろに下がる。


「『動くな』」


「なっ……」


 俺は暗示をかけられたかのように、その言葉通り動くことができなくなった。


 これは魔法か?

 ありえない現象が起こっているので、そう考えることが妥当だ。


「がはは! 驚いただろ? 俺様が神から貰い受けたスキルは豪傑。スキルを使うと対象が何でも言ったとおりになるっていう万能スキルだ」


「っ……っ……っ……」


 息ができない。


「あぁそうか。えっと『口だけ許可』」


「はぁはぁ……」


 なんとか助かった。


 どうするどうするどうする。

 俺は心の中で目の前の敵をどうやって「殺す」のか何度も何度も考えた。


「ははは……。これのどこが万能スキルだ」


「がはは! お前、口だけ動かせるようになったからって何言っても許されねぇからな。体が動かせないってこと忘れんじゃねぇぞ!!」


 ショウタはその言葉の後に右手に拳をつくった。そして大きく振りかぶり、勢いよく俺の腹を殴ってきた。


「うっ」


 その拳はちょうどみずおち入った。

 膝から崩れ落ちそうな痛みだったが体は動かない。

 痛みだけが俺の腹に残る。


「おらおらおらおらぁ!! 反省しろやゴラァ!」


 ショウタは俺の反応を見て嬉しかったのか、狂ったかのように両手につくり上げた拳をみずおち一点を集中的に殴ってくる。


「がっ……はぁ……はぁ……」


 その痛みはまさに地獄。

 俺は何もすることはできす、ただただ拳を受け入れていた。


「おら! 言う言葉は何だ!?」


 ショウタは拳を俺の目の前にもってきて問うてきた。

 俺はもう限界だったためその言葉を聞き……。


「ゆ、許して……」


「許してください。だろ!」


「許してください。ショウタ様、お願いします。もう殴らないでください」


 俺はショウタが殴りそうなモーションに入ったため、口早に謝る。


 だが口はこんなにも、相手に媚びるようにしているのだがまだ俺の心は諦めてはいなかった。俺はこの絶望的な状況を覆す方法を、大して役に立ったことがない俺のアホな脳細胞をフル稼働して考える。


 そうだ。

 スキル。

 俺にもスキルがあるじゃないか。

 なんで今の、今まで忘れてたんだ。


 スキル……いいや、あのワームホールを上手く使えばこいつを殺すことができる。

 でも、俺の体が動けなくなっていたらあのワームホールなんて出せるのだろうか。

 いいや、出せる。

 あぁ……なんだこの急な自信は。

 

 俺はこいつを殺す!


「な、な、な、なんだ……?」


 ショウタはいきなり後ろからナイフに刺されたことな衝撃的でまだ、何が起こっているのか理解できていないようだった。


 どうやらショウタがよろけたことにより、俺の体がスキルから開放されたようだ。


「ッチ。良くも殴ってくれたな!!」


 俺はよろけていたすきを見て、ショウタの体を押し倒し馬乗りになる。そして、ワームホールを消し右手に持っていたナイフをショウタの肩を突き刺す。


「ぎゃやややや!!」


「おらっ!! てめぇも痛みを味わえ!!」


 俺はナイフの刃をすべて入れ、肩を貫通させた。


 初めて見る大量の血。本物の人間の絶叫。

 ショウタの目からは大量の涙。

 どれも、いつもならこんな状況を見てしまったら吐きそうなのだが今はなんかすごく楽しい。

 ハイになった気分だ。

 吸ったことはないけど。


「やめてくれ!! も、もうこれ以上刺したら死んじゃう……」


「うるせぇ!! じゃあこの怒りをどこにぶつければいいんだ? あぁん?? 今ここでてめぇを殺したらすべて解決なんだよ……」


 楽しい。楽しい。

 こんなに楽しい気分になったのはいつ以来だ。

 まだ楽しかった、小学生に戻った気分だ。


「ごめんない……。おかあさ」


「死ね」


 俺はその言葉を最後に、ショウタの喉元を切った。

 汚い真っ赤な血潮が俺の体にかかり、血独特の鉄のような匂いが鼻の中に入ってくる。


 深呼吸して、俺は早く神器を回収しようかと立ち上がったのだが、


「あ……」


 体から力が抜け倒れてしまった。

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