第10話 牢屋から出るのは一筋縄じゃいかないよね



 この場を去るとき、俺のことを煽ったあいつにもう一度「ここから一緒に出ないか?」と聞いた。だがそいつは、「ここに残る」といい俺の誘いを拒否してきた。

 せっかく、この牢屋から逃げるチャンスだというのに一体何を考えているのだろうか。もしかして、逃げると恐ろしい未来が待っていたりして……。


「ないないないない……」


 俺はそこまで考え、その考えを一掃する。


「どうしたのじゃ? わしが先に行ってしまうぞ?」


「いや、なんでもない。俺が先導する」


 そう俺たちは秘密の出入り口を知っているミーちゃを俺の頭に乗っけながら、出口を案内してもらっていた。もちろん。俺が先頭だ。こんなバカに先は任せられない。


「にしてもここは変じゃのぉ……」


 俺もその意見に同感だ。

 俺たちはまだ一度も人と会っていない。仮にも、人を拘束する場所なのだから見張りの一人ぐらいいてもいいはずだ。

 なので変。


「ここを右に曲がったら階段があるのニャ。そこが出口だニャ」


「わかった」


 実は、心のなかで死をも覚悟して脱獄をしようと決めていたのだが、案外あっさり行きそうだ。


 またしても現実は妄想とは違うことを痛感した俺は、最後の曲がり角を曲がった。

 そう、今日は何を食べようかななどと考えながら。


「避けるのじゃ!!」


 油断しまくっていた俺に向かって、トッティの緊迫した叫び声が届く。

 俺はなんのことを言っているのかわからなかった。   

 だがとりあえず、右に倒れ込むような形でトッティが言う「それ」を避けた。


「くくく。私の槍を避けるとは……あなた、なかなかの者ですね」


 俺のことを見下ろしてきた人物がいた。こいつの言葉から察するに、おそらくこいつが俺のことを殺す勢いで槍を投げた本人だろう。

 おそらくというか絶対、無意識に恨みをかった人物ではなさそうだ。


 なんたってそいつの服から露出しているはだがすべて青色なのだから。髪はない。頭はツルツル。そしてその頭は、俺が見てきたツルツルの中でもトップクラスのツルツルだ。

 まぁ光ってはいないが。


「何だお前……」


 俺は立ち上がり、面白そうに見てきているやつに向かって睨めつけながら聞いた。


「何だと思います? くくく……。それはさすがに何も知らないあなたには意地悪な質問ですね。そう本当に私は意地悪なんですよ!!」


 男はその言葉と同時に、いつの間にか手に戻っていた先程俺に投げてきた槍で今度は突いてきた。


「っと! っほい! っとりゃ!」


 俺は素早い攻撃に、体制を崩さないよう考えながらギリギリで避けることに成功した。そして俺は3打目で攻撃が止んだので少し後ろに下がって距離を取る。

 

 その様子を見た男は楽しそうに俺のことを見ながら……。


「ほほう? 私の3連打を避けるとは……」


「はぁはぁ……俺は敵意はない! ただその先に行きたいだけだ。頼むからどいてくれ」


 俺は流石に突然の戦闘に息が切れ始め、このままでは危ないと考えた。そして、こいつは何がしたいのかといまだ疑問だった俺は懇願した。


「くくく。どくわけ無いでしょう。私はあなたのことをここで食い止めることが役割なんですから」


「役割だと……? 俺たちを牢屋にぶち込んだやつは別にいるのか?」


 俺は男の言葉が疑問に思い、敵意丸出しのやつについつい問いかけてしまった。


 だが、本当に俺たちを捕まえた奴らはどういった者たちだったのだろうか。わからない。こいつがなにか知っているのなら教えてほしい。そう願いながら。


「おっと。少し口を滑ってしまいました。まったく、この私としたことが……。まぁいいでしょう。なぜならあなたたちはここで死んでもらうんですからね!」


 男は堂々と決めセリフを放ちやりを投げてきた。


「―――!」


 俺は自分たちを捕まえたやつはどんな奴らやのかと考えていたときに攻撃が来たので、なにも避ける準備をしていなかった。

 慌ててどうしようかと思っていたが、槍は俺向かっては来なかった。槍は俺の真横を通り、そう……その槍は後ろにいたトッティめがけて……。


「くっ……」


「のじゃ!? マサル!?」


 俺はなんとか槍を横から殴りつけることによって軌道を変えることができた。あまりにも硬かったため、顔が歪んでしまう。


「っと。危ねぇな……。トッティ。お前は正直言って邪魔だ。とりあえず攻撃が来ないどっかに隠れてろ」


「わかったのじゃ!! お主。死ぬのでないぞ」


「ふっ。俺はこんなところで死なねぇよ」


 俺は圧倒的におされている。

 だが、どこかで聞いたことのあるような決め台詞を放ちトッティのことを心配させないようにした。

 

 そう考えていたのだが……。


「うむ。頼もしい限りじゃ。お主の去勢が聞けたことだしわしはさるのじゃ! ではさらばじゃ!」


 トッティはその言葉を言い残し、角を曲がり顔だけひょっこりと出した。その頭の上には真っ白な猫。

 俺はその様子を見て、これじゃあ意味がなくないか? と思ったのだが今はこいつのことばかり気にしている余裕はない。


「去勢じゃないからな!」


「くくく。仲が良いんだな」


 男は俺とトッティのやり取りを見て、優しそうな笑顔を見せながら言ってきた。


「これのどこがいいんだよ」


「………?」


 俺は反射的に言ったのだがどうやら男はその言葉理解できなかったようで、顔に「?」を浮かべている。

 まぁ、今はそんなことどうでもいい。

 俺は覚悟を決め、「はぁ〜……」とため息を付きながら姿勢を低くして攻撃に備える。


「もういい! ほらお前。ここで俺のこと殺すんだろ! 早く戦おうぜ!」


「……いや、やめておく」


「は?」


 こいつは俺たちのことを襲ってきたにもかかわらず、俺が覚悟を決めたその時に戦うのを拒否したのだ。俺は聞き間違いなのだろうかと、素になり聞いた。


「やめることにした」


「……いや、なんでだよ」


 男は槍を手からはなし、「キーン」という金属の嫌な音とともにもう一度俺の目を見ながら言ってきた。


 先程まで、楽しそうに俺たちのことを追い詰めていたのになぜやめるのかは素朴な疑問だった。


「私はまだ知らぬものを見てしまった」


「…………」


「そうこれは信頼! 私はまだそれについてなんにも知らないんだ!!」


 男は両手に拳をつくり叫んだ。


「そ、そうか」


 俺はあまりにも先程とは違うテンションに圧倒されつつも、こいつが何かを知りたいということだけはわかった。だがなぜそれが戦いをやめるという結論に至るのだろうか。俺とこいつはなにか根本的に違いそうだ。


「そうなんだ! まだ知らないことだらけだ!!」


「まぁ俺もまだ、知らないことは多いからな。うん。生きてていて知らないことは多いぞ?」


「あぁそうだとも。なので私は君に一生一度の頼みがある」


「…………?」


 男は精気のある力強い目で俺のことを見据えてきた。

 

 頼みということは何なのだろうか?

 先程から、男が知りたがっていたことを教えればいいのだろうか……。というかなんで俺はこんな奴と話しているんだ? ……!! まさか話をして、なにかの時間を稼ぐことがこいつの作戦なのだろうか。

 俺はそこまで考えたとき、男の口が開かれた。


「私を仲間にしてくれ」


「はぁ!?」

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